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抹茶を世界に広めた、日本文化の新たな「売り方」——あいや
[2012.01.20] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

日本一の抹茶どころ、愛知県西尾市の抹茶のトップメーカー、あいや。こだわりの味を追求しながら高い安全評価をクリアする老舗の挑戦が、世界に「MATCHA」を広げている。

屈指の職人が生み出す、最高品質の抹茶

愛知県西尾市。温暖な気候と矢作川水域の肥沃な土壌で120年以上、抹茶を製造販売してきた会社がある。職人技による製造法でこだわりの味を追求し、抹茶を「MATCHA」として世界へ広めた「あいや」である。
日本ならではの抹茶が世界基準で受け入れられるための品質とは、どんなレベルなのだろうか。

「抹茶には色、味、香りという持ち味があります。これを生かすには原料茶葉、碾茶(てんちゃ)を碾臼で数ミクロンまで碾くのが一番。1台の碾臼からは1時間に40g程度しかできませんが、高品質にこだわります。その碾臼自体、高度な技術でのメンテナンスが必要ですが、それができる職人は日本で10人ほど。弊社にはそのうちの5人が在籍しています」

碾臼の管理調整は、伝統職人しかできない。

品質と言えば同時に浮かぶのが「安全」面だ。食に対する意識が高まり続ける昨今、残留農薬や異物混入など、安全に対する消費者の目は厳しい。
「雑菌が多いほど、熱で殺菌する工程が必要になり、抹茶は傷んでしまいます。そこで、弊社では湿度・温度が一定に保たれたクリーンルームで抹茶を管理しています。さらに工場内はサニタリープラント化しているため、異物混入はありえません」

製造工程の省略など、品質や安全よりも効率化を優先することは、どんな会社でもできる。しかし、世界で勝負する老舗のものづくりにかけるプライドは高い。
「私は抹茶のプロです。プロがアマチュアをだましてはいけない。これはどんな商売でも鉄則です。手抜きをせず、とことん良いものをつくる。この執念が日本のものづくりを支えています。『抹茶もどき』で客をだますことはしません」
同社は中国の現地法人にも日本で使う碾臼を持ちこみ、こだわりの製造法を守っている。これがあいやの企業姿勢、「あいやイズム」なのだと社長は言う。

しかし、どんな素晴らしい企業姿勢の前にも、自然災害は起こる。「3.11」という未曾有の大震災により、日本企業、とくに飲食業界は真っ先に風評被害を受け、多くの会社が立ち行かなくなった。

製品の「情報開示」を徹底する

色差、水分、粒度は高品質に欠かせない。

「もともと安全への評価基準が高い海外には、『安く、おいしく、日本の文化的価値がある』だけでは通用しません。そこで弊社は製品の製造工程に関し『情報開示』を徹底しています」
東日本大震災後は、検査代を自己負担してドイツの検査機関から放射線検査を受け、安全を証明したのである。あいやの安全に対する真摯な姿勢がうかがえる。

また、同社は、ユダヤ教信者の多い米国市場でも有効な、ユダヤ教の食品規定の認証も受けている。
「ユダヤ教の国々には独自の厳格な食品規定があります。教義に反する原料や製造工程は容認されません。そこで毎年、この規定に則って審査員に弊社の工場の検査をしてもらっています」
その他にも、毎年有機栽培の認定機関の審査員による審査を受け、茶畑から最終工程までを検査し、安全であると評価されている。
こうして安全への高い評価を獲得し、あいやの抹茶は上記以外にも、フランス、イギリス、オランダ、ベルギー、カナダなどから購入されている。

ウイスキー、シナモン、砂糖……好みで自由にアレンジ

海外進出時に大前提となる食の安全への高い意識を持ちながら、さらに同社には戦略がある。海外の文化に柔軟に対応し、融けこむことだ。
「何度も海外に出向く中で、アメリカとヨーロッパでは、抹茶に対するマーケットが違うことがわかりました。アメリカの場合、抹茶はバニラやミルクと融合させると受け入れられやすいので、展示会では、抹茶オレ、抹茶アイスクリーム、抹茶チョコレートを提供します。一方ヨーロッパでは、ハーブティーを飲む習慣に合わせ、そのひとつとして抹茶を位置づけました。そのためにはウイスキー、シナモン、砂糖、塩、何でも好きなように入れてもらいます。いずれにしても、大切なのは『ヒーリング』の概念ですね」
もともと茶の数え方は「一服」。これは漢方薬の「服用」からきている。茶さじは薬さじが、茶壺は薬壷が、茶臼は薬研が元である。日本以上に健康意識が高い海外では、この概念は積極的に歓迎された。

_抹茶アイスクリーム/抹茶ヨーグルトゼリー/抹茶スフレ
海外では抹茶を飲料や菓子と組み合わせる。

海外でも「MATCHA」として認知されている。

「ドイツでホームパーティーに参加した時、あるドイツ人がおぼつかない手つきながら、抹茶をたてました。『これは日本で1000年の歴史を持ち、禅の心に通じている健康飲料だ』と茶を飲む習慣を自慢していたのです。健康への熱は日本以上に高い。ここに鍵があります」
自分たちは歴史と品質を、原点として守り抜いてきた。原点がしっかりあるから、各国での飲まれ方にこだわりはないのだと社長は笑った。
「現在、売上げ全体の約20%、約1/5は海外となりました。原点を大切にするように、海外各国の文化も大切にし、それぞれに合わせた戦略で展開していきたいと思います」

創業以来の品質主義で原点は守りつつ、各国の郷に入っては郷に従う。徹底した情報開示で「安全」を保障する。これからの世を生き抜くのは、伝統への新たな解釈に現代的なアレンジを施す、あいやのしたたかで動的な戦略なのかもしれない。

杉田芳男 社長の一言
「やってみなはれ」の精神、「挑(CHOU)」(コラム) (代表取締役 杉田芳男)
会社を表す一文字は挑戦の「挑」。松下幸之助を尊敬し、「座して死を待つことなかれ」「やってみなはれ」という精神に則って、どんなことでも挑戦し続けたいと思います。
社員にもこの精神を徹底しています。毎朝全員でお茶を飲む朝礼で会社の状況を隠さず報告し、最後の責任は私一人が負うと強調します。自ら打開策や案を考え、行動する社風をつくっているのです。
他にも、積極的に海外を見せるため、全員でマングローブの植林活動をしています。泥と汗まみれの中、目標数を植えるという達成感を共有することで、何にでも挑めるということを実感として、体験させています。
企業データ
  • 株式会社 あいや
  • 住所:〒445-0894愛知県西尾市上町横町屋敷15番地
  • 代表者:代表取締役 杉田芳男
  • 事業内容:抹茶をはじめとする茶類の製造、販売
  • 資本金:3000万円
  • 従業員数:75名
  • ウェブサイト:http://www.matcha.co.jp/

取材=二橋彩乃
撮影=松村隆史

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