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ものづくり新時代を築く「寺子屋式の工学塾」——創機システムズ

経済・ビジネス 科学 技術・デジタル

システム技術者育成を中心に、ロボットやIT機器開発も行う創機システムズ。新たな時代をリードする若い人材の新しい創造力で勝負し続ける。

「からくり人形」の技術を現代につなぐ

株式会社創機システムズは、ものづくりの町・東大阪市で、小型ロボットの開発、IT機器開発を手掛けるベンチャー企業だ。特に「システム技術者育成」を大切に事業を展開してきた。


複雑な配線が絡み合うマイコンボード。

「システムとは一つの機能を生み出すために、さまざまな機能を持つ部品を組み立てる技術のこと。技術や機能がパーツごとに細分化されているに対して、全体の構造がシステムになります。携帯電話も新幹線もロボットも、システムが分からなければ、故障原因も分からない。ロボットにもマイクロコンピュータ、センサー、メカニズムといったシステムが内蔵されていますが、基本的な仕組みは人工衛星もロケットも同じ。つまり、ロケットも『空を飛ぶロボット』と言えるのです」と社長の荻本健二氏。

素晴らしい先端技術が各分野開発されているが、実はシステムが分からないと、機械一つも動かすことができないという。しかし、日本にはシステムのプロトタイプともいうべき技術がある。「からくり人形」だ。

「からくり人形は、ぜんまいと歯車だけで構成されたシステムによって可動するロボット。コンピューターやセンサーを組み込まないでも作動する。この高度な日本の伝統技を現代につなぎたいのです」

その伝統技を継承すべく力を入れているのが、同社の「創機工学塾」だ。

「私は宇宙開発の仕事をしていたとき、5年間、人工衛星を作る中小企業を支援するプロジェクトに関わりました。中小企業の方々は特定分野のものづくりに長けています。しかしシステム自体への理解が重要な人工衛星の開発では、ものづくりの力をうまく生かせなかった。やはりバラバラの技術修得ではなく、全体を仕組みからわかるシステム技術が必要なのです」

今後の日本のものづくりのために、システム技術者を若いうちから育てなければならないと感じたという。
「この技術は失敗と検証を重ねて小さなロケットをつくることでやっと身につくようなもので、非常に時間がかかる。そこで若いシステム技術者育成をメインとして創業しました」

「寺子屋式の工学塾」で若い才能を育成

現在は大阪府の緊急雇用支援対策を活用し、創機工学塾で年間16人の若者を預かっている。彼らが研究開発に奮闘するオフィスは、試作品の数々や絡み合う配線で雑多な「実験現場」となっている。数名ずつがロケット、電動台車、人工衛星製作班に分かれ、熱く議論を交わしながら手を動かしている。特筆すべきは、若者全体の中で理系出身者がたった一人という事実だ。

工学塾の若者に混ざって自ら指導する萩本社長。

「やはりシステム技術の習得は難しく、皆、学び始めは相当大変でした。今でもこちらが驚くほど基本的な質問をしてきますが、一方的に教えず、自ら求めて学べる環境を作っています。日本人は考えるのが得意で、追求して途中で放り出さない。その精神がものづくりを支えてきました。もし技術修得過程でつまずいてしまう場合、その子の特性を考え得意な持ち場を探します。辛抱強く育てる『寺子屋式の工学塾』なのです」

若者には最初のOJT以降、プログラムを組み込んでモノを動かすまでの経験をさせる。他社のようにハード、ソフト、設計と部門ごとに細分化せず、全員がプロジェクトにかかわりながら実践できる環境は同社にしかない。若者の豊かな発想と実力を育てる体制があるのだ。

電動台車、垂直離着陸機……人材と商品をあわせて開発する

創機システムズは、技術者育成と同時に、研究開発の成果を製品として販売している。その一つが工場自動化のための電動台車だ。

電動台車にはラインに沿って動くプログラムが入っている。

「ボタンを押すと、地面のラインに沿って自動でモノを運びます。外部のセンサーを付属させ実験している段階ですが、応用すれば障害者を運ぶ電動車椅子になります。この技術で搬送ロボットも作っています」

さらに納品の際には、自動化したラインをメンテナンスするために、システムへの理解が深い人間が必要になると顧客に勧める。これが製品とともに若者も送り出すシナジー効果を生んでいる。

一方、ロケット班は2011年10月に、和歌山県で打ち上げを成功させたが、その技術や経験は、垂直離着陸機に生かされている。これはGPSで制御し、空中の限られた範囲を電気モーターで上下する、現在実験中の機械だ。送電線の鉄塔のメンテナンスに試験運用されているが、古い橋梁の裏側の情報取得や高層ビルの外側の監視などにも応用できるという。このような商品も今後、若く優秀な人材とともに、ものづくりの新時代を築いていくのだろう。

2011年10月に和歌山大学と
協力し、打ち上げを成功させた。

ビジネスモデルを海外に広めたい

会社設立時は、3、4年後に売上1000万という目標だったが、4年目の2011年、売上は5〜6000万まで成長した。

「どんなものづくりにおいても弊社はシステムから考えるため、多くの要素を必要とします。それをバランスよく蓄え、経験値をあげてきました。それが今、お客様の多様な依頼にも応えられるという、自信の源になっています。システム構築、つまり最初の仕様から提案できますし、人材育成のお手伝いにも自信があります」

そんな中小企業ならではの柔軟な対応力や提案力が、海外企業にも注目されている。

「弊社に研修にきた海外の方は皆、事業内容に驚きます。時間のかかる、これまでに実現しにくかったビジネスモデルだからです。創業時もオフィスを貸し出す審査員に『あなたの事業に市場などない』と言われましたが、『俺が市場を作りだす』と意気込みました。今の規模と、『人材から育てるものづくりの精神』があるからこそ、人が事業にならないと思うこともできているのです」

こうして同社は立命館大学、大阪府立大学、和歌山大学や静岡理工科大学など多くの教育機関と提携し、大阪府のものづくり支援課や人材育成課、財団法人や近隣の企業何十社をも巻き込んで、ものづくりの技術をビジネスに変え続ける。いずれ海外にも協力関係を築けるパートナーシップを構築したいという。

創機システムズでは、ものづくりできる人材をゼロから育てあげ、日本産のものづくりのすそ野を拡大する。同社はこれからの企業が担うべき役割を先駆けて提言して、実践しているといえるだろう。

荻本健二 社長の一言
「創(SOU)」の姿勢 (代表取締役社長 荻本健二)

弊社はシステム屋で、部品などを作るわけではありません。すべての仕事は提案ベースで、「創」りだすことからです。アイデアを出し、システムを設計して、構想を練ります。
どんな要望にも、蓄積してきたさまざまな経験で、解決の糸口を探れると思っています。いずれは実際に弊社のシステムを製品に使う企業と協力関係を築き、グループにしていきたいと考えています。そのために、今は仕事の仕組みや仕掛け、さまざまな協力者との関係を創るのが、私の仕事です。

企業データ
  • 株式会社 創機システムズ
  • 住所:
    • 〒577-0011 大阪府東大阪市荒本北1-4-1 クリエイションコア東大阪南館2106号(本社)
    • 〒540-0026 大阪市中央区内本町2-4-10 ネオハイツ内本町1201号(開発室)
  • 代表者:代表取締役 荻本 健二
  • 事業内容:
    • ・IT機器開発:マイコンやセンサーを組み込んだ機器の開発の支援、及び販売、工場のFA化
    • ・創機工学塾:ものづくりによるシステム技術者の育成
    • ・小型ロボット開発:小型飛行ロボットシステム、小型実験ロケット、小型衛星
  • 資本金:1350万円
  • 従業員数:6名
  • ウェブサイト:http://www.souki-co.jp/

取材=二橋彩乃
撮影=松村隆史

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