シリーズ メイド・イン・ニッポン企業
世界一の微細手術針で医療に貢献—河野製作所
[2015.09.09] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية | Русский |

東京近郊の千葉県市川市に、小さなモノづくりの拠点がある。医療用器具メーカー、河野製作所の本社・工場だ。細い血管や神経を縫える世界一微細な手術針の開発企業として、今や「クラウンジュン」のブランド名で世界的に知られる。

血管を縫える0・03㎜の針を開発・製造

ゴマと比較したマイクロサージャリー用手術針(提供・河野製作所)

世界最細の手術針とはどんなものか―。直径0.03㎜、長さ0.8㎜という極細の針で、ついている糸の直径に至っては0.012㎜と、肉眼では見えないほどだ。この0.03㎜の超微細針の実用化は、再生移植手術などの分野に革命的な変化をもたらした。それまで不可能とされた0.5㎜未満の血管やリンパ管、神経などの縫合手術ができるようになったからだ。切断された赤ちゃんの指の再生手術でも大きな成果をあげた。

顕微鏡を使った外科手術を「マイクロサージャリー(微小外科)」というが、そこで使われる手術針の太さは従来、0.1㎜が標準だった。しかし、その針では0.5㎜より小さい組織の縫合手術などは困難だった。0・03㎜の極細の手術針の登場により、高い技能を持つ医師なら、さらに細い0.1㎜の血管をつなぐ手術「スーパー・マイクロサージャリー(超微小外科)」も可能という。

困難を極めた世界最小への挑戦

この世界一細くて小さい手術針は2004年、3年の開発期間を経て完成した。

河野淳一社長は、「その頃は医療現場でも、そこまで細い手術針は必要ないという声が一般的で、技術的に対応するメーカーもなかった」と当時を振り返る。しかし、ある大学病院の医師からの「もっと細い手術針を作れないか」という要望をきっかけに、同社の直径0.03㎜への挑戦が始まった。

開発は困難を極めた。手術針は特殊なステンレス素材。それを延ばして切り、先を尖らせて曲げ、鋭く磨き上げる―という工程をたどるが、ここまで細いと、金属とはいえ綿の繊維のようにフワフワしてしまう。加工には、熟練作業員が顕微鏡を使い手作業で一本ずつ作ることを求められる。そのための専用の工具や機械を同社従業員らが独自開発した。

微細針にどう穴を開けるかでも工夫

さらに、微細針にどうやって手術用の糸をつけるかにも工夫が必要だった。従来はドリルやレーザーで針に穴を開け、糸を差し込む方法だったが、0.03㎜の針に穴を開けられるドリルの刃はない。レーザーを使うと金属が溶けてしまう。そこで思いついたのが針の根元を二つに割り、そこに糸を挟み込むという昔ながらの方法だった。

同社は1949年、計測機用針などの部品製造で創業。1960年代半ばに医療用具の分野へ転じた。以来、さまざまな規格の糸つき手術針を開発・製造してきた。なかでもマイクロサージャリ―の分野では国内のパイオニアとして注目され、2008年に経済産業省・中小企業庁の「元気なモノ作り中小企業300社(2008年版)」に選出され、2009年には「モノ作り日本大賞 内閣総理大臣賞」受賞。2010年には天皇陛下が、本社工場を視察されたこともあった。

半数以上が精緻な作業に向く女性従業員

河野淳一社長

手術に使う針の国内市場は年間約250億円。国内外のメーカー約10社が参入している。河野製作所は現在、約1万種類の針を生産し、全国の総合病院に製品を納入している。河野社長は「わが社の特徴は、大手企業にはできない多品種少量生産が可能なこと。社内でマーケティングから企画・設計開発・製造まで全て対応できる。製造装置の多くも自社で作っている」という。

同社の売上高の8割は手術針が占め、本社工場が極小針などの手作り製品を担当し、量産品をつくば工場(茨城県常総市)のラインで生産している。本社工場は、集中力を欠かせない精緻な作業を担う製造部門を中心に、従業員の半数以上は女性である。子どもを保育所などに送り出したあと、自転車で出勤してくる人も多い。生産現場にはほど遠い静寂の中での作業だ。

需要が見込まれる海外への販路拡大も

0.05㎜以下の手術針はニッチ分野だけに、国内の市場規模は限られているが、移植技術の進歩や再生医療の拡大で今後も需要が見込まれる。さらに、医療の高度化に伴い、先進国はもちろん、アジアの新興国でもマイクロサージャリー市場は拡大している。このため、河野製作所は海外への販路拡大にも力を入れている。

同社にはこれまでにも、タイやベトナム、中国などアジア各国から見学者が相次ぎ訪れている。いずれも今後、市場拡大が期待できる国々だ。2012年からは中国にも進出し、活躍の場を世界に広げている。現地病院からも開発のシーズをつかみ、将来的は中国での新製品開発も視野に入れている。「クラウンジュン」の微細手術針を武器に、河野社長のオンリーワン技術にかける意気込みは熱い。

【企業データ】
株式会社河野製作所
〒272-0832 千葉県市川市曽谷2-11-10
代表者:河野淳一代表取締役社長
事業内容:医療用機器の設計・開発から製造・販売まで一貫して手掛ける
従業員:営業子会社を含め166人(2015年4月現在)。
電話:047-372-3281
ウェブサイト:http://www.konoseisakusho.jp/jp/index.html

文・原田 和義(編集部)、写真・コデラケイ
カバー写真=世界最細の手術針に糸を付ける作業

この記事につけられたタグ:
  • [2015.09.09]
関連記事
このシリーズの他の記事

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告