シンポジウムリポート

中国経済学界の重鎮・汪海波教授が語る日中経済の見通し

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中国経済学界の重鎮で中国社会科学院名誉学部委員の汪海波(おう・かいは)教授が「今後10年間の日中経済文化互恵関係に関するワークショップ」に出席。「日中経済文化関係発展の見通しは明るい」と語り、その背景と理由を説明した。

中日間の相互理解を強化・促進せよ

日本人は中国共産党設立に際し重要な貢献をしてきた。2011年、「中国の20世紀における経済学の発展」の国家プロジェクトに参加した際、日本人が中国共産党設立に多大な貢献を行ったことを知った。『共産党宣言』を含め、中国で最初に翻訳されたマルクスレーニン主義の著作はドイツ語から翻訳されたものではない。日本語から翻訳されたものだ。マルクスレーニン主義経済学の理論も日本人が中国語に翻訳したものだった。さらに、中国の多数のマルクス主義経済学学者は、みな日本留学の帰国者だった。これらのことから、日本人が中国共産党設立に多大な貢献をしたことを説明できる。再評価を行うべきだと思う。

今後10年の中日経済文化関係の見通しについて、紆余曲折はあるかもしれないが、全体的には明るいものとみている。その根拠については、歴史、文化、地政学的な面など有利な条件の他に、4つ挙げることができる。

過去の40年は今後10年の発展の土台

中日国交回復の40年は、今後10年の発展のためによい土台を築いた。中日貿易の輸出入を例にとると、貿易総額は1950年の0.47億ドルから1971年には8.76億ドルに増加した。21年間で18.6倍となり、年平均14.9%の成長率だった。

さらに1972~2010年の対比では10.39億ドルから2,977.79億ドルに増加した。38年間で実に288.6倍、年平均16.1%の成長率だ。為替変化を考慮しない金額だが、中日国交正常化後に大きな変化があった証しだ。今後10年の関係促進のために、しっかりした基礎固めを行ったといえる。これこそが見通しは明るいと言った第1の理由だ。

1950年1971年1972年2010年
貿易総額(米ドル) 0.47億 8.76億 10.39億 2,977.79億

現在の中日両国間には経済格差がまだあるが、これは将来において大きく発展するポテンシャルを秘めていることを意味する。世界銀行は1987年から1人当たりのGDPを基準に高、中、低所得国家と区分けした。1987年以前は、データが無いため為替レートを基準に計算したところ、1974年の高所得国家は3,817ドル以上で、この年日本は4,290ドルだった。IMF(国際通貨基金)のデータでは2010年の日本の1人当たりのGDPは42,325ドルで世界17位。つまり日本は1974年から今日まで高所得国家である。

これに対し中国は2010年に日本を抜きGDP世界第2位となったが、国民1人当たりはわずか4,283ドル、世界182位。ようやく中所得国家の仲間入りをするところだ。中日両国間に大きな格差があることを示しているが、そこに両国発展のポテンシャルを見ることができる。

「中所得の罠」に陥らないために日本の経験に学べ

中国は日本が順調に高所得国家へ移行した経験に学ばなければならない。これは中国にとって非常に重要な問題だ。第二次大戦後、所得の多寡で見ると、世界各国は次の3つの状況を呈している。

高所得国家には、3つのケースがある。米、英両国のように大戦前から高所得で、その地位をさらに固めた国々。ドイツや日本のようにもとは高所得だったが、大戦後一時下落し、その後順調に回復した国々。シンガポール、韓国、香港、台湾のように、植民地などだった国や地域で、その後順調に高所得になった国々。

中所得国家では、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、ベネズエラなど中所得になったが、経済が長期停滞する「中所得の罠(わな)」に陥った国々。旧ソ連や東欧、アジアのASEAN諸国なども同じような状況が見られる。「中所得の罠」に陥った理由は千差万別だが、中所得になった後、経済が長期的に低迷する点ではすべて一致している。

さらに、アフリカ諸国に代表される長期的に貧困の状態にある低所得の国々だ。いわゆる西洋経済学でいわれている「貧困の罠」というものだ。

中国の現状を見ると、可能性は低いが「中所得の罠」に陥る可能性を否定できない。しかし高所得へ向かう可能性がより大きいとみられる。このことからも、中国は日本の経験に学ばなければならない。中国のさらなる発展のためにも非常に重要である。日本はマクロ経済のコントロールにおいて重大な失敗を犯し、「失われた十年」を引き起こしたが、有名な「所得倍増計画」や海外技術導入とその着実な消化吸収など、すべて中国にとって重要なテーマだ。

左より張孝徳氏、周紹朋氏、汪海波氏、董青氏、張占斌氏、通訳者2名

 

中国の経済発展は両国関係促進の原動力に

第3は、中国経済の発展は両国関係促進の原動力になるということだ。1970年代末から今世紀半ばまで、中国は全般的に成長期にあるだろう。同時にさまざまな矛盾が多発する時期でもある。

総じて成長期にあると考えるが、これは中国経済の成長がこれまでのように加速度的な成長をするということではない。1953年から1978年、1979年から2011年の年平均の経済成長率はそれぞれ6.1%、9.9%だった。また、1953年から2011年の59年間をみれば、8.1%の伸び率を記録している。しかし、これは環境や資源を引き換えにした数字であって、個人的には今後7%台を保持できれば良いと考えている。7%であっても、党や政府の目標である「2020年までに小康社会」、今世紀半ばまでに現代化を実現し、国民の平均所得を中所得レベルまで引き上げることは可能だ。

また、今後も継続的に成長するためには、一つ重要な条件としてさらなる改革開放がある。成長拡大期において中日両国の貿易経済は、歴史、文化、地理的要因から特に重要となるだろう。

期間(年)1953~19781979~2011 1953~2011
年平均成長率(%) 6.1 9.9   8.1

中日経済文化の交流促進は世界の趨勢

第4は、世界経済発展の趨勢から見て、中日経済文化交流の拡大は非常に重要だ。今後、世界経済は大きく2つの流れを呈するだろう。

1つ目は、日本を含めた先進国の経済成長がますます厳しくなること。2008年のリーマンショックが良い例だ。金融危機以降、先進国は科学技術の進歩を加速させ、世界経済を成長させ、金融では監督機構を強化するなど多くの措置を講じている。しかし、根本的な解決には至っていない。

もう1つは、BRICsなどの新興工業国の経済成長がより強まることだ。その中で、中国、インド、ロシアはすべてアジアに位置している。そういう面から、日本は地理的にも非常に良い場所に位置している。中日両国間はこのような有利な環境下にあるので、経済協力の強化は非常に重要だ。

(2012年3月14日、国家行政学院で開催されたワークショップでの講演をもとに構成)

今後10年間の日中経済文化互恵関係に関するワークショップ参加者

日本側:
小倉和夫 青山学院大学特別招聘教授、東京オリンピック・パラリンピック招致委員会評議会事務総長
王 敏  法政大学教授
宮 一穂  一般財団法人ニッポンドットコム副編集長、京都精華大学教授
原野城治 一般財団法人ニッポンドットコム代表理事
近藤久嗣 一般財団法人ニッポンドットコム理事
高橋郁文 一般財団法人ニッポンドットコム多言語編集部スタッフ

中国側:
汪海波 中国社会科学院名誉学部委員、『中国経済年鑑』編集長
周紹明 国家行政学院経済学部公共経済研究会副会長
張孝徳 国家行政学院経済学部公共経済研究会幹事長
張占斌 国家行政学院経済学部主任
董 青 国家行政学院国際部副主任
縦向東 国家行政学院国際部処長

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