シリーズ シンポジウムリポート
パブリック・ディプロマシーの時代(3):「好かれるため」のそれぞれの思惑
[2013.12.03] 他の言語で読む : ENGLISH | ESPAÑOL | العربية | Русский |

第2セッションでは「パブリック・ディプロマシーの手段」をテーマに、パネリストがそれぞれの立場からパブリック・ディプロマシー(広報文化外交、以下PD)の経験や、実践した際の手段について発表を行った。モデレーターは渡辺靖・慶応大学教授。

日独が実践したパブリック・ディプロマシー

第2セッションで登壇したのは、モデレーターの渡辺教授のほか、駐仏大使、国際交流基金理事長、東京オリンピック招致委員会評議会事務総長などを歴任した小倉和夫氏、ジョンズ・ホプキンス大学米国現代ドイツ研究所シニアフェローのリリー・ガードナー・フェルドマン氏、ドイツ学術交流会東京所長のホルガー・フィンケン氏、シリア出身のジャーナリスト、ナジーブ・エルカシュ氏の4人。

まず、小倉氏が「明治時代以降、日本では海外でのイメージ作りが優先され、『非文明国ではない文明国だ』『軍国主義ではない平和主義だ』『エコノミックアニマルだけではない世界貢献だ』などと、日本に対する偏見や誤解があると『そうではないんです』と否定する『ないない外交』を続けてきました。常に日本は変わったと世界にアピールしてきたわけです。日本そのものがPDの手段だったといえます」と指摘。

さらに「PDという言葉は好きではない」とした上で、「日本文化とは日本人だけのものではなく、世界中の人のものであります。極端な意見かもしれませんが、文化交流というのは世界の豊かさを促進するためのものであって、日本を発信するためにだけ使うべきではないと考えます」と主張した。

第1セッションに続いて登壇したフェルドマン氏は、第2次大戦後のドイツのPDの3つの手段について説明。

「第一がおわびです。1950年代に当時のアデナウアー首相によるドイツの戦争犯罪を認めた声明文や、フランスやポーランドとの間に締結された条約などがこれに当たります。第二にイスラエルのヤド・バジェム(ホロコースト博物館)など象徴的な場所への訪問や各国での式典への出席です。シュレーダー元首相がフランスの『ノルマンディー上陸60周年記念式典』、ポーランドの『ワルシャワ蜂起60周年記念式典』、ロシアの『対独戦勝60周年記念式典』に出席したほか、ケーラー元大統領も『アウシュビッツ収容所解放60周年記念式典』に出席しています。また、ドイツが実践した第三の手段が首脳同士の友好関係の構築です。アデナウアー元首相とイスラエルのベングリオン元首相、アデナウアー元首相とフランスのド・ゴール大統領は非常に親しかったことが知られています。近年では、メルケル首相とポーランドのトゥスク首相が親密な関係を築いています。PDでは個人レベルでの外交も大事だということを指摘したいと思います」

一方、フィンケン氏はドイツ学術交流会のプログラムがPDに果たした役割について説明。ドイツ人学生や若手研究者の海外での学術研究への支援や、海外の研究者のドイツへの留学支援などのプログラムの例を挙げた。特徴的な活動としてはドイツ連邦選挙が実施される際に、各国の政治学者をドイツに招待しているという。

「多くのドイツ人をフェローシップやスカラシップで他国に派遣したり、外国の研究者を招いて交流の場を設けたりすることで、ドイツがより好かれるようになることに貢献できたと考えております」

アラブ諸国との相互理解を深める方法

シリア出身のジャーナリスト、ナジーブ・エルカシュ氏はアラブ側から見た日本とアラブ諸国の間のPDについて発表した。

「日本は石油の必要性から経済的にはアラブ諸国を重視していますが、その他の面では理解が薄いと思います。イラクへの自衛隊派遣もアラブ人にとっては不本意なものでした。当時日本で行われた文化交流の内容も納得できないものでした。私も開催に携わったアラブ映画祭で、地域の映画大国であるエジプトの映画を推薦したら、主催の国際交流基金から『今回はイラク映画で』と言われてしまいました。アラブと日本の相互理解を深めるためには、他国の作品も必要だったと思います」

今後のPDの進め方についても持論を展開。

「東京の2020年のオリンピック開催が決まりましたが、アラブ諸国は東京を応援しました。アラブ諸国にとっては、ライバルであるトルコのイスタンブール開催を止めるためには、東京都の猪瀬知事がイスラム教に対して行った失礼な発言も忘れることができたのです。同じ2020年の万国博覧会の開催都市に、アラブ首長国連邦のドバイとトルコのイズミルが立候補しています。日本の方々にはこういう点を意識してもらいたいと思います」

日本以外の国のアラブ諸国に対するPDについての質問に対して、エルカシュ氏はフランスと中国の例を挙げた。

「フランスがシリアのダマスカスにフレンチ・インスティチュート・オブ・アラブ・スタディーズという研究機関を設立しています。シリアの中でも大きな組織で、地域の知識人がここで働くとフランスの友人になっていきます。また中国はアラブ諸国の大学に中国語の講師を派遣して活発に交流を図っています」

民間によるパブリック・ディプロマシーの強みとは 

セッション後半は、渡辺氏を中心にパネリストと会場の参加者も交えた討論となった。

まず、渡辺氏が小倉氏に「安倍政権のコンテンツ産業への支援」への評価を求めたところ、小倉氏は「日本からの発信を正確に受け止められる人材を育てることが優先」と答えた。

「米国の動向には世界中が関心を持っているため、米国のPDでは受け手の育成という発想は必要ありませんが、日本のような国はそこからスタートしなければならないでしょう。また、私自身としては、『クールジャパン』を売り込むためのキャンペーンにはいささか抵抗があります」

これに対してフィンケン氏は「ドイツから日本を訪れる学生や研究者は日本のポップカルチャーに本当に感銘を受けています。クールジャパンが格好いいから、ドイツの若者は日本に向かうのだと思います」と指摘した。

また、会場から沖縄の基地問題などで国と地方自治体の姿勢が一致しない場合のPDの在り方についての質問があった。

小倉氏は「国と地方、そして住民の意見が海外に伝わることは、日本の多様性を示す上でも大事です。政府にとって有益な情報を伝えることだけがPDの目的ではないと思います」と答えた。

フェルドマン氏も「ドイツとフランスの和解と協力を定めたエリゼ条約も、非公式に青少年の交流が始められ、後に正式に条約が締結されました。逆に、ポーランドの『連帯』の反政府運動では、ドイツ政府の方針に反してドイツの労組は連帯を支持しました。PDにおいては、民間と政府が相互補完的な関係になることも、競争的な関係になることも十分にありうると思います」と述べた。

最後に小倉氏が「国際的に普遍的な価値を求めて、国を離れた立場で活動できることが民間のPDの強みだと思います」とまとめて、第2セッションを締めくくった。

写真=板橋 雄一

  • [2013.12.03]
関連記事
このシリーズの他の記事

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告