シンポジウムリポート

複雑化する国際的課題:長期的視野で協力体制構築を

政治・外交

日本、英国の政府関係者、有識者が国際的な課題とその対処法について議論する「日英グローバルセミナー」が10月12、13の両日、東京・虎ノ門の日本財団ビルで開かれた。

英国のシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)と日本財団が共催し、2013年から年1回、ロンドンと東京で交互に開催している。第4回となる今回のテーマは「脆弱な世界における課題と不確実性:日本と英国からの応答」。参加者は世界が現在直面している経済や安全保障問題、社会的な課題に対し、両国がどのように連携し、効率的に協調できるかについて討議した。

セミナーでは冒頭、2010年から14年まで欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表を務めたキャサリン・アシュトン英貴族院議員が「劇的な変化の時代を航海するために」と題して基調講演した。

アシュトン氏は内戦や地域紛争による難民の大量発生、政治的ポピュリズムの台頭など、質、量においても複雑さにおいても「世界がかつてないほど激変の時期を迎えている」と指摘。これまでのような国際社会が試行錯誤しながら対応策を探る問題解決のアプローチを「再定義、再考」し、「長期的な観点で、将来を見すえた政策」を進めていくべきだと提言した。

キャサリン・アシュトン氏

具体的な例として、内戦を発端に長年にわたる治安の混乱、社会的・経済的な荒廃の結果、海賊行為が多発したソマリアを挙げて、「海賊行為は突き詰めれば、若者が将来の希望を持てなくなったことが原因だ」と指摘。国連平和維持活動(PKO)のような治安確保に加え、国際社会による「教育、保健衛生、雇用創出」などの支援充実が不可欠だと述べた。

フセイン政権崩壊後のイラク、紛争後のアフガニスタンについても、「簡単に解決する問題ではないものの、(国際社会による国家再建に向けた)投資戦略はなかった」とし、長期的な視点で問題を解決する包括的な取り組みこそが必要だと強調。そのためには、国連やEU、東南アジア諸国連合(ASEAN)といった既存の国際機構の枠組みを超えた、新たな諸国間の「協力・連携」を模索するべきだとの考えを示した。

一方、英国がEU離脱を決めた6月の国民投票の結果についても言及。「“Brexit”(ブレグジット)という言葉の意味をどのような内容のものにしていくかが、今後2年間の大きな課題になる」と述べ、英国が対EUに限らず2国間、多国間のあらゆる外交の場で「よりスマートに、スピーディーに、よりよい方法で」国際協調を図ることが重要だと強調した。

その際にも、特に「20年、30年後を見通した長期的な視野が必要だ」と重ねて指摘。これに関連して、「日本も中国や北朝鮮など近隣地域との関係を考える際、長期的な協力体制構築を目指していくことが重要だ」と述べた。

アシュトン氏はまた、EU外務・安全保障政策上級代表として取り組んだセルビアとコソボの交渉、イランの核交渉を振り返り、課題解決に向けた鍵として「より多くの国々の協力を取り付けること」「政治的な側面と経済的な側面を連携させ、当事者の関与を常に促していくこと」を挙げた。経済制裁の発動は当事国にドラスティックな影響を与える場合があるとし、「(当事国の)人々をどうサポートしていくかという視野も必要だ」と述べた。

2日間のセミナーでは、「ブレグジットが欧州とEUにもたらす意味」「環太平洋連携協定(TPP)や環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の貿易自由化がもたらす影響」「アジアの域内秩序への課題」「政治的ポピュリズム、アイデンティティ政治がもたらす影響」などをテーマに、5つのセッションが行われた。

バナー写真:基調講演するキャサリン・アシュトン前EU外務・安全保障政策上級代表=2016年9月12日、東京都港区の日本財団ビル

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