シリーズ イベントリポート
若手芸術家の合戦場『“petit”GEISAI #15』
[2012.01.06] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

村上隆氏が主催する芸術の祭典『GEISAI』。世界で通用する日本人アーティスト発掘の場として知られるこのイベントは、他の展示会とは一線を画す独特の熱気が漂う。10周年を迎え、新展開を見せる『GEISAI』の魅力とは?

若手芸術家のための祭典『“petit(プチ)”GEISAI #15』が、2011年10月9日、東京スカイツリーを見上げる浅草の産業貿易センター台東館で開催された。

会場が小規模になり、タイトルに“petit”(小さい)と付けられた今回の『GEISAI』。しかし、参加アーティストたちの熱意や会場の盛り上がりは、これまで以上のものがあった——。


熱気溢れる会場の雰囲気は360°パノラマで御覧ください→【360°】「“petit”GEISAI #15」

「GEISAI」の初心に帰る

日本のみならず、世界のアート界を牽引する村上隆氏が『GEISAI』の前身となる『芸術道場グランプリ』をスタートさせたのは2001年。「プロデビューを目指すアーティスト発掘の場」、さらに「アートの販売を気軽に行えるマーケット」として、村上氏の個展と同時に開催されたのが始まりだ。

事前審査なしで誰でも参加できる間口の広さや、審査員陣に著名人が揃ったことで注目され、200組を超えるアーティストが参加。一般のアートファンも全国から訪れ、『芸術道場グランプリ』は大盛況となった。

翌2002年からは、日本の美術大学の学園祭を由来とする『GEISAI』(芸術祭の略称=芸祭)に名を改め、会場の規模や出展者数も拡大。受賞者をはじめ、数多くの参加者が出展をきっかけに個展や画廊デビューのチャンスをつかみ、若手アーティストの登竜門として浸透していった。

2009年からは台湾にも進出し、日本では東京ビックサイトなどの大会場で1万人以上の来場者を集めるなど、イベントとして順調に成長を続けた。しかし、2011年3月13日に予定していた「GEISAI#15」は、3月11日の東日本大震災の影響で中止を余儀なくされた。

半年が過ぎ、改めて企画を立て直すにあたって、村上氏は初心に帰り「若手アーティストのデビュー」に主眼を置くことを決定。参加条件に「29歳以下」の年齢制限を設け、出展作品のクオリティを強化するために事前審査も導入。会場も縮小して今回の『 “petit”GEISAI#15』に開催されることとなった。

唯一の“生きた”コンペ

こうして新たなスタートを切った『 “petit”GEISAI#15』だが、会場は熱気と力強い空気に満ちていた。

初期の『GEISAI』と同規模の200あまりのブースには、絵画、イラスト、オブジェ、インスタレーションなど様々なジャンルの作品が展示され、狭い通路を来場者たちが行き交う。会場の一角では村上氏自らマイクを握り、イベント内容や作家の説明をジョーク混じりでしゃべり続ける——。

事前審査を経たことで作品の質は向上し、会場の小ささがアーティストと来場者の間により緊密なコミュニケーションを生み出していた。参加者と来場者たち双方から、「ここ数回ちょっとパワーダウンしていた感じがあったけれど、今回は『GEISAI』が始まった頃のような勢い」との声が聞こえた。

熱の入ったマイクパフォ―マンスで会場を沸かせた村上隆氏。

今回初めて導入された、来場者の投票によるポイントランキング・システムも会場のムードを盛り上げた。上位入賞者には特典としてギャラリー『Hidari Zingaro』での個展などが約束されており、刻一刻と変化する投票状況を村上氏が実況するたびに会場から大きな歓声が上がった。

その一方で、『GEISAI』名物とも言えるアート関係者のスカウトも繰り広げられた。中には開始30分で画廊からスカウトされたアーティストもいるが、デビューに直結しなくとも、ギャラリーや出版関係者と直接会話することで学ぶことも多いという。

今回審査員を務めたのは、松井えり菜氏、桑久保徹氏、ob氏の3名。みな、出展者と同世代のアーティストである。彼らも『GEISAI』のようにギャラリーとの直接的なコンタクトができる場は貴重だと語る。特に松井、桑久保両氏は『GEISAI』をきっかけに国内外で活躍することになっただけに、その思いはなおさら強い。

「日本のアートシーンを活性化するには、コマーシャルギャラリーが作家を救うシステムをもっと充実させる必要があると思います。今のところ『GEISAI』が、作家が世に出るチャンスを得られる一番のコンペなんです」(桑久保氏)

「コンペ自体はたくさんあるけれど、後につながる“生きたコンペ”って本当にこれしかないんです。だから、ここは作家にとってある意味“合戦場”なんですよ」(松井氏) 

審査員賞に選ばれた3名。上:松井えり菜賞のHIROKOさん。下左:ob賞の藤川さきさん。下右:桑久保徹賞の横山奈美さん。

決め手となるのはプロデュース力

アーティストとしての飛躍につながる、日本最高の登竜門。それだけにアーティストたちも真剣勝負だ。「2年の時間をかけた」、「仕事を辞めて集中した」といった、悲壮な覚悟で臨むアーティストも少なくない。それだけの思いで練り上げた自分の世界観を限られたブースでいかに表現し、アピールするか——自らのプロデュース力が試される。

「私は初めての『GEISAI』体験だったのですが、他のイベントとは作家の方の本気度が違いますね。“ここを勝ち抜いていく”っていう熱意に触れて、自分のモチベーションも上がりました」(ob氏)

来場者の投票で選ばれるポイントランキングで1位を獲得した江崎太郎氏。

イベントの最後には審査員賞とランキング入賞者の授賞式が行われた。壇上に上がり笑顔を見せる受賞者以外にも、チャンスと手ごたえをつかんだ作家が数多くいるはずだ。戦いを終えた作家たちの表情は、一様に清々しかった。

次回の「GEISAI#16」は2012年の4月1日に開催される。それを目標にして、多くの若手アーティストがすでに作品制作を進めている。日本から世界に羽ばたくための合戦が、また始まろうとしているのだ。

取材・文=真島 絵麻里
写真=染瀬 直人

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