イベントリポート

和と洋、古と今の溶け合う京都に遊ぶ

文化

現代ニッポンの大人は、文化の根源である「遊び」をどこまで追求できるか? 毎年「日本」と「遊び」をテーマに京都の歴史的名所で行われるイベントを体験し、主催者にその狙いを訊ねた。

毎年秋、京都で行われるユニークなイベントがある。神社や仏閣など優美にして荘厳な空間を会場に、晴れやかに着飾った大人たちがシャンパンを片手に語り合う。音楽や舞踊のパフォーマンスを味わう。その後、会場を祇園のお茶屋に移して、秋の夜長を愉しむ。そんな贅沢なひとときを満喫できるイベントが「にっぽんと遊ぼう」だ。

平安建都1200年を記念するイベントとして1994年に始められた「にっぽんと遊ぼう」は、今年(2013年)で20回目を迎える。実行委員のひとり、矢幡聡子さん(CORE.S.LTD代表)に話をうかがった。

「いまから20年前、日本人は欧米の文化にばかり目を向けていたような気がします。日本人が日本の文化的な財産をもっと知らなければいけない、そういう思いで生まれたのがこのイベントです」

世界遺産級の名所が舞台の贅沢な宴

毎回「遊び」の舞台となるのは、とてつもないスケールの歴史的名所だ。重要文化財や国宝、あるいはそれに準じるクラスの場所で、レセプションやパフォーマンスが行われる。これまでに二条城、東寺、下鴨神社、平等院、上賀茂神社、仁和寺など、世界遺産を会場とすることさえあったというから何とも贅沢ではないか。

「お客様が特別な気分に浸れるのはもちろんですが、ゲストのアーティストにとっても世界遺産を会場に上演できるのは素晴らしいことでしょう。海外の一流アーティストがはるばるやって来てくださるモチベーションにもなりますね」

昨年(第19回、2012年10月23、24日)も、世界遺産に登録されている西本願寺を第一部「招宴」の会場にして開催された。

前回は2012年10月、西本願寺を会場に行われた

開場時刻の夕暮れどき、西本願寺境内の奥にしつらえられた会場。提灯の明かりが灯り、あでやかな晴れ着の女性たちから笑顔で迎えられる。このイベントの常連と思しき客たちの中にも着物姿が目立つ。秋の夜空に美しくライトアップされた国宝・唐門の前には、スポンサーが展示する高級外国車、その傍らに舞妓さん。シャンパンを飲みながら味わう京の味。古今、和洋が絶妙に溶け合ったもてなしが愉しい。

国宝・唐門をバックに高級外国車、舞妓、シャンパンという取り合わせがユニーク

西本願寺の南能舞台は国の重要文化財

気分もほぐれたところで、書院へと招じ入れられる。ゲストが座る203畳敷きの大広間は国宝の「対面所」だ。ここから観る今宵のパフォーマンスは南能舞台で行われる。17世紀末に建てられた現存する日本最大の能舞台で重要文化財。対面所も南能舞台も、普段はめったに入ることができない。

幻想的な照明に浮かび上がった能舞台では、中国と日本のアーティストが競演。中国からは古琴、そして箜篌(くご)という古来の楽器の奏者が招かれた。ハープに似た箜篌は世界最古の楽器といわれ、発掘された断片から復元したもの。演奏を聴ける機会は非常に稀だ。フィナーレでは、出演アーティストのコラボレーションにより、大陸からの古き音色が和太鼓やシンセサイザーと混じり合った。

祇園甲部の老舗「枡梅(ますうめ)」にて、シャンパンと京料理を味わいながら、磨き抜かれた芸を堪能

歴史の重みを感じさせる空間で、古今が融合したパフォーマンスを堪能した後は、祇園甲部のお茶屋へと移動。イベント第二部の「饗膳」は、京の花街を舞台にした情緒あふれるもてなしだ。美酒と京料理に舌鼓を打ち、舞妓と芸妓(げいぎ)の唄や踊りを愉しみながら、古都の秋の夜は更けていった。

「日本史を彩る舞台で、国内外の一流のアーティストたちが繰り広げる競演は、サプライズの連続でした。突然の大雨の中、海外からのアーティストが熱唱したこともありました。そうした偶然性もこのイベントの特徴と言ってもいいでしょうね。毎年何か新しいことにチャレンジしてきました。この20年間で、日本人自身が日本の美を再発見することに関心を深めたという手応えを感じます。それと同時に、日本と海外が出会うユニークな国際交流の場を提供できたのではないかと思います。20回目となる今回を最後にひと区切りつけようということになりました。今までの集大成にしたいですね。これが私のライフワークであることに変わりはありません。来年からは新しい形で日本文化を紹介していくつもりです」(矢幡さん)

惜しまれながらグランドフィナーレを迎える第20回「にっぽんと遊ぼう」は、2013年12月3日と4日、2002年以来2度目となる祇園甲部歌舞練場を舞台に行われる。

■にっぽんと遊ぼう 過去の会場とゲスト・アーティスト

第1回(1994年)二尊院:茂山千作、茂山千之丞(狂言)、片山旭星(琵琶)
第2回(1995年)法然院:野村万之丞(狂言)、太鼓一座(竹太鼓)
第3回(1996年)高台寺:日紫喜恵美(ソプラノ)、藤舎名生(横笛)
第4回(1997年)永観堂:片岡孝夫、片岡孝太郎(舞)、藤舎名生(横笛)、中川秀亮(締太鼓)、デヴァカント(バンブーフルート)
第5回(1998年)嵯峨大覚寺:スラヴァ(カウンターテナー)、ラスタ・トーマス(モダンダンス)、古澤侑峯(地歌舞)
第6回(1999年)平安神宮:ローラン・コルシア(ヴァイオリン)、ホセ・アントニオ(ギター)、ホセ・デ・ラ・マル(歌)、三好芫山(尺八)、藤舎呂悦(鼓)、京都少年合唱団
第7回(2000年)二条城:大倉正之助(鼓)、山口小夜子(パフォーマンス)、バラット・ウォー(歌)、山中義慈(能楽シテ方ほか)
第8回(2001年)知恩院:サイモン・ル・ボン(歌)、ニック・ウッド (シンセサイザー)、寺井尚子(バイオリン)、炎太鼓(和太鼓グループ)
第9回(2002年)祇園甲部歌舞練場:呉汝俊(京胡奏者・京劇俳優)、茂山七五三、茂山宗彦、茂山逸平(大蔵流狂言茂山家)、芸妓・舞妓連中(京舞井上流)
第10回(2003年)
白沙村荘庭園:井上堯之(ギター)、白濱櫻子(バイオリン)
京都芸術劇場(歌舞劇「OKUNI」):市川右近、市川笑也、市川猿弥、市川段治郎、市川弘太郎、二十一世紀歌舞伎組、池田美由紀(和太鼓)、TAEKO+DIALOGUE CHOIR(ゴスペル)
第11回(2004年)青蓮院門跡:ザッハトルテ(歌・演奏)、武田双雲(書道)、TAEKO+DIALOGUE CHOIR(ゴスペル)、藤舎名生(横笛)、藤舎呂悦(鼓)、八木仁(シンセサイザー)
第12回(2005年) 相國寺:三好芫山(尺八)、高安マリ子(舞踊)、松田美緒(歌)
第13回(2006年) 東寺:マイケル・ナイマン(ピアノ)、宇高竜成(金剛流能楽師シテ方)、野田弥生(生田流筝曲)、笹岡隆甫(華道未生流笹岡次期家元)
第14回(2007年) 萬福寺:チェン・ミン(二胡)、梵天(和太鼓)、柴礼敏(琵琶)他、中谷美風(煎茶美風流四世家元)、ゴスペルクワイヤー(ゴスペル)
第15回(2008年)下鴨神社:マドレーヌ・マルロー(ピアノ)、佐藤弘樹(朗読)、小山豊(津軽三味線小山流)、平安雅楽会(雅楽)
第16回(2009年)平等院:テレンス・イン(歌)、AUN(和楽器ユニット)
第17回(2010年)上賀茂神社:スラヴァ・グリゴリアン、レオナルド・グリゴリアン(ギター)、斉藤ノブ(パーカッション)、増田いずみ(ポップオペラ)、Duality(マリンバ、サックス、ディジュリドゥ)
第18回(2011年)仁和寺:ウルリク・ロロフ(フルート)、ステファン・ロロフ(映像)、市川慎、山野安珠美(箏)、小林桃、千葉亜由、福士夏子、関美弥子(和太鼓)
第19回(2012年)西本願寺:崔君芝(箜篌)、巫娜(古琴)、ヒダノ修一(和太鼓)、ミッキー吉野(キーボード)、スティーブ・フォックス(ベース)

写真=にっぽんと遊ぼう実行委員会、nippon.com編集部
ビデオ=nippon.com編集部

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