シリーズ 北村森の“ヒット商品道”
「ミニタオルにぐるりとファスナー」で300万枚の大ヒット

北村 森【Profile】

[2012.11.28] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

とても身近なところから、得てしてヒット商品の着想が生まれる。単純だが、さまざまな使い方ができる便利さで多くの消費者の心をつかんだ「どっとポーチ」を紹介する。

社会人2年目の女性の発案がはじまり

ミニタオルのふちにファスナーをつけた「どっとポーチ」(上)は、2008年発売以来の出荷累計が300万枚を記録した。

ひとつの辺が20センチちょっとのミニタオル。半分に折ってファスナーを閉じると、小さなポーチとして使うことができる。

要は、ミニタオルのふちに、ぐるりとファスナーをつけたもの。ただそれだけの商品なのだが、これが飛ぶように売れている。2008年に発売、2011年5月には出荷累計で100万枚を突破、この秋には300万枚を記録し、トリプルミリオン商品にまで育っている。

商品の名前は「どっとポーチ」。玩具などの企画やデザインを手がける株式会社レイアップが開発し、販売はその子会社であるアイアップが担っている。値段は1260円。ミニタオルとしてはかなりの高値であるにもかかわらず、大ヒットとなった。ちなみにレイアップは東京・渋谷にある社員数百数十人という規模の会社だ。

この商品を発案した、レイアップの波賀麻里帆さんに、どっとポーチのアイデアを思いついたきっかけ、市場に出るまでのいきさつなどについて話を聞いた。

「中高生のころ、生理用品を持ち歩くのが恥ずかしいと思っていました。でも大きなポーチを使うのもわざとらしい。ごく自然に携帯できるものってないかなあ、と」

波賀さんは、中高生時代のことを思い出しながら、なんということもなく身のまわりにあったファスナーに目をやった。「ファスナーがついているものって、なんでもポーチ状になるんですよね」

そうしたことを考えていたとき、波賀さんの手元に偶然タオルがあった。このタオルの周囲にファスナーをつけたらどうなる―。どっとポーチの原案が生まれた瞬間だった。波賀さんはこのときまだ入社2年目の若手社員である。

メーカーが相手にしてくれない

冒頭で「ただそれだけの商品」と私は表現したが、その「ただそれだけ」のポイントを見いだすことがいかに難しいか。事実、どっとポーチのように、単純だが斬新な着想から生まれた商品は、それ以前にはまったく存在していなかった。さらに言えば、思い立った商品を実際に市場へと送り出すまでが、得てして大変なものだ。実際、どっとポーチも例外ではなかった。「企画案は社内ですぐに通ったのですが、製作してくれるタオルメーカーが見つからなかったんです」と波賀さん。

今治タオルの赤・青・白3色のブランドマークはどっとポーチの「強み」のひとつ。

こんな少ないロットでは無理、ファスナーを縫製する技術がない……話をもちかけた相手メーカー側の断わり文句はさまざまだった。ミニタオルにファスナーをつけるという作業は、メーカーにすると実際けっこうな手間のかかる作業のようで、なかにはレイアップが受け入れるはずもない高額な製作費を提示して、言外に拒絶するメーカーもあったという。

製品化がついえそうな場面で、波賀さんは、今治タオルを製造する1社に声をかけることを決意する。今治タオルといえば、国産タオルの一大ブランド。「ダメで元々という気持ち」であったという。

相手の答えは、意外なまでにさらりとしたものだった。「『いいですよ、作りましょう』と即答でした。自社で織り機を持っているメーカーだから、オリジナルの生地も作ってもらえることになりました」

こうして、期せずして、今治タオルという人気ブランドとの協業を果たせることにもなった。どっとポーチは現在に至るまで、一部の派生商品を除く大半の商品が今治製であり、それらには今治タオルのタグが縫いつけられている。このことはヒットを後押しする武器になったはずだ。

1260円の「高値」でも売れに売れた

発売にあたって最後の悩みどころが価格だった。1260円という価格設定は、社内での議論も呼んだという。世の中に出回っているミニタオルは500円からせいぜい800円だ。ファスナーをつけただけで1000円以上取っていいものか。

「でも、原価を考えたら仕方のない価格なんです。それになにより、このどっとポーチには競合商品がないのです。『これまでにない初めての商品』にいくらの売価を付けても、それが理屈にかなったものであるなら消費者に納得してもらえるはず、と最後は考えました」と波賀さんは言う。

最初は5色の展開。販売目標は立てておらず、まずは1ロット(500枚)を売り切ることに専念した。広告を打つ余裕はなく、店頭のPOP広告で使い方を表示するのがせいぜいだった。それが今では100アイテムにまでラインアップが広がった。

使い方はそれこそユーザー次第という商品である。化粧品や化粧道具を入れてもいいし、500mlのペットボトルを包むのにも便利だ(結露を気にせず、カバンの中に安心して突っ込める)。スマートフォンの保護ケースにもちょうどいい。

化粧道具、ペットボトル、そしてスマートフォンを入れたりと、どっとポーチに何を入れるかはユーザー次第だ。

異業種だからこそ生み出せた商品

この手の商品にありがちなことだが、どっとポーチの成功を見た他社が、似たような商品を販売し始めている。意匠登録済なのだが、形状を少し変えて出してくるのだそうだ。「ミニタオルにファスナーをつけた、ただそれだけの商品」だけに、類似品はたやすく作れるのだろう。

社会人2年目の女性が、身近なふたつの素材を結びつけ、商品化にこぎつけた。その着想と努力は称賛に値するものだし、業界他社は「オリジナル」への敬意をもう少し払うべきだ。波賀さんは話す。「今治のメーカーさんに言われました。『たとえ何十年とやってきたタオルメーカーであっても、これは出てこない発想』と。私たちが異業種だからこそ生み出すことのできた商品でしょうね」

撮影=北村 森

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  • [2012.11.28]

1966年、富山県生まれ。小学校低学年の時に「暮しの手帖」を読んで、その商品テストの徹底ぶりに魅せられ、早くも雑誌編集者を天職と定める。慶應義塾大学法学部を卒業後、1992年に日経ホーム出版社に入社。「日経アドレ」「日経トレンディ」などの編集者として、ホテル宿泊チェックをはじめとした、数多くの商品テストに携わる。2005年から2008年3月まで「日経トレンディ」の編集長を務め、2008年以降は商品ジャーナリストとして「消費者がお金で買えるモノ全てを評価する」を旗印に、精力的に地方取材、講演、執筆をこなしている。ひと月にチェックする商品サンプルやサービスは数十アイテムに及び、国内外のホテル、レストランの覆面取材も行う。ソフトバンクなどが設立したインターネット上の「サイバー大学」では、ITマーケティング論の講座を担当している。

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