シリーズ 国際社会とともに
ハンセン病の差別問題を、もう一度考える
安倍首相も参加して差別撤廃を宣言
[2015.03.03] 他の言語で読む : ENGLISH |

2015年1月27日、東京都内のホテルで「ハンセン病に対するスティグマ(社会的烙印)と差別をなくすためのグローバル・アピール」の宣言式典が開催された。安倍首相も日本の過去の政策の過ちを認めた上で、差別と偏見の解消への決意を述べた。

人権問題としてのハンセン病

ハンセン病は治療法が既に1980年代確立され、早期に治療すれば障害が残らず完全に治る病気。感染力も非常に弱いことが分かっており、回復者はもちろんのこと、発病中の人でも治療薬(MDT)を服用していれば感染することはない。しかし、治療法か確立する以前、病気が進行すると体が変形することなどから、紀元前から世界中で「業病」「天刑病」などと恐れられてきた。今でも、世界中で患者や回復者に対する差別や偏見が根強く残っている。

日本では、明治時代からハンセン病患者に対する隔離政策が取られ、患者は子どもを持つことも許されず、療養所内で一生を終えることを強いられた。1996年にらい予防法が廃止、2001年に国家賠償請求も認められたことで、回復者はようやく自由を得て名誉回復のための取り組みも進められるようになった。しかし、療養所内で年を重ねた回復者たちの平均年齢は80歳を超え、療養所での生活を続けざるを得ない状況が続いている。

こうした人権問題に対応するには、世界中の人々に対してこの病気についての知識を伝え、誤解を解くことが必要だとして開始されたのが「ハンセン病に対するスティグマ(社会的烙印)と差別をなくすためのグローバル・アピール」(以下グローバル・アピール)だ。毎年1月最終日曜の「世界ハンセン病の日」に合わせて国際社会に宣言する試みで、10回目となる2015年は、初めて日本での発表となった。

世界の回復者が天皇・皇后両陛下に謁見

1月27日に行われた宣言式典には来賓の安倍晋三首相、塩崎恭久厚生労働大臣のほか、ラモス・ホルタ元東ティモール大統領、スリン・ピッスワン元ASEAN事務総長ら、国内外の回復者や、支援活動の関係者など約260人が出席。安倍首相は来賓挨拶で、日本の過去の隔離政策が患者や回復者の人権を制限し、差別や偏見を助長した経緯について述べた上で、「われわれは歴史を反省し、約20年前に大きな政策転換を行い、元患者の方々に謝罪、補償を行い、名誉を回復するための取り組みを行っています。また、現在も療養所で暮らす1700人を超える回復者のみなさまが、安心して穏やかに暮らしていけるように努め、差別と偏見の解消に取り組んでいきます」と述べた。

両陛下への謁見後、記者会見を開いた各国の回復者と、WHOハンセン病制圧特別大使の笹川陽平氏(日本財団会長)。

翌日の1月28日には、式典に参加した日本、インド、米国、フィリピン、インドネシア、エチオピア、計6カ国の回復者が皇居に招かれ、天皇、皇后両陛下に謁見。両陛下からは「それぞれの国で、今なお病気や差別に苦しんでいる人々のため、指導者として活躍していただきたい」というメッセージが伝えられたという。懇談後、インドのハンセン病回復者協会会長のヴァガヴァタリ・ナルサッパ氏は「今日の経験は、とても信じられないようなこと。自分の家族からも握手してもらえない私が、両陛下から握手していただけたのです。今日は、そのすべての痛みや苦労が消えたと感じました」と感激した様子で話した。

国際社会に向けて差別撤廃を宣言

第1回からこのグローバル・アピールを主催してきた日本財団は、1960年代からハンセン病支援に取り組み、1995年から1999年までの5年間は世界保健機関(WHO)を通じて世界中でハンセン病治療薬の無料配布(2000年以降は製薬会社ノバルティス社が引き継いでいる)を行うなど、国内外を問わず幅広くハンセン病制圧に向けて活動を続けてきた。2005年、患者数が世界最大のインドでWHOが定めた「人口1万人当たりの患者数が1人未満」という公衆衛生上の問題としてハンセン病制圧が達成されたことを受け、あらためて差別や偏見など社会面の課題に注目。国際的に人権問題に取り組むリーダーたちに呼びかけを行い、ジミー・カーター元米大統領、ダライ・ラマ法王、デズモント・ツツ元大司教ら、歴代のノーベル平和賞受賞者や各国の政治リーダーたちが趣旨に賛同、2006年1月、インドのデリーで第1回のグローバル・アピールが発表された。

その後も世界各国の回復者代表や、国際的な人権機関、宗教指導者、財界リーダー、世界64カ国110大学の学長、世界中の医師会、法曹協会など、ハンセン病の差別問題を解決するような影響力のある団体、関心を持って協力してくれる団体などが賛同してきた。グローバル・アピールの共同発表者になったことを契機に、回復者団体を発足させ、差別撤廃への活動が本格化した地域もあるという。また、国際法曹協会は2013年のグローバル・アピールへの参加後、世界各国に残る差別的な法律の撤廃に向けての取り組みを開始。2014年の共同発表者となった各国の人権機関も、発表後にハンセン病問題をそれぞれのアジェンダとして採りあげるなど、グローバル・アピールによって国際社会が動き始めている。

2015年の宣言は、患者に寄り添って病気と闘う看護の立場から、国際看護師協会と各国看護協会が共同発表者となった。

「保健医専門職の中で世界最大数を占める私たち看護職は、偏見を持つことなく人々の心身の苦しみを和らげ、すべての人に健康な生活をもたらすことに使命感を持って取り組んでいます。(中略)特にハンセン病のような誤解された病気に関する正しい知識を人々に伝えることの重要性を認識しています(後略)」とハンセン病への偏見と闘うという看護師の決意が宣言文に盛り込まれた。

回復者たちが体験した悲劇を風化させない

シンポジウムで自らの体験を語った回復者の平沢保治氏(国立ハンセン病資料館運営委員=写真右=) と、国立ハンセン病資料館の黒尾和久学芸部長

また今回、病気としての制圧から長い時間が経過している日本で発表した理由には、ハンセン病にまつわる悲劇の記憶や歴史を風化させないという狙いもあったという。国内の回復者の高齢化が進み、当事者の生の声を聴く機会は限られている。宣言式典終了後には「今、なぜハンセン病問題なのか?」と題した国際シンポジウムも開催された。国立療養所多磨全生園の平沢保治氏やインドの回復者団体のナルサッパ会長、フィリピンの療養所の病院長アルトゥロ・クナナン氏、ブラジルの支援団体のアルトゥール・クストディオ・モレイラ・デ・ソウサ氏らがパネリストとして出席、それぞれの体験などについて語り合った。また、活動の次世代を担う中国、タイ、ブラジルの若手スタッフによるパネルディスカッションも行われた。 

一方、これまでハンセン病に関心がなかった多くの人にも、病気への理解を深め、偏見や差別について考えるための機会をつくる「THINK NOW ハンセン病」ビデオ・キャンペーンも実施された。日野原重明・聖路加国際病院名誉院長、森喜朗元首相、タレントのマツコ・デラックスさんら多くの著名人を含む1000人以上から、差別撤廃への決意を語るメッセージ動画が寄せられた。

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