シリーズ 日本で見つけたイスラムの世界
日本でのラマダンの過ごし方
[2015.07.09] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS |

ムスリムにとって大切なラマダン。日中の飲食を約1カ月間断つので、生活のリズムも変わる。日本で暮らすムスリムはどのようにラマダンの期間を過ごしているのだろうか。日没後の食事会で話を聞いてみた。

自分自身を強くする断食月

ムスリムにとって大切な1カ月がやってきた。ラマダンである(2015年は6月18日から7月17日まで)。ラマダンとはイスラム暦9月の約1カ月間、日が昇ってから沈むまでの間、水や食べ物をいっさい口にしない断食月のことだ。

エジプト出身力士、大砂嵐も7月12日から始まる大相撲名古屋場所中にラマダンを迎える。体力勝負の力士にとって、ラマダンは過酷なしきたりに見えるが、大砂嵐はこれまでも我慢の限界に挑戦し続けてきた。

ラマダンは日ごろ食事をまともにとれない貧しい人の気持ちを理解するための大事なムスリムの習慣。感謝の気持ちが自然に生まれてくるという。日常生活で、ついつい他人に対して怒ったり、嘘をついたりすることもあるが、ラマダン中は意識してこのような気持ちをおさえ、普段の悪い癖を直すチャンスであるとムスリムはとらえている。ラマダンは飲食を断つだけでなく、欲望をおさえ、意志を鍛えることで、自分自身を強くする。

ラマダンに理解ある日本人上司

日本に滞在しているムスリムはラマダンをどのように過ごしているのだろうか。2004年に来日し、現在大手電機会社に勤めているモハメド・アブバクルさん(スーダン出身、男性、33歳)は、普段は朝8時半には出勤。残業が多いため、退社は早くても20時で、時には22時をまわることもある。しかし、ラマダン中は夕方5時、6時頃には会社を出て家に帰る。

イスラム諸国ではラマダン期間中は学校も会社も午後3時頃には終了し、早めに家に帰るからだ。帰宅後は家でテレビを見たり、仮眠をとったりして、日没までの時間を過ごす。日没後に最初に食べる食事をイフタールと言う。

アブバクルさんは「上司がラマダンのことを理解してくれてありがたい。夕方4時頃が空腹で一番つらい時間帯だが、『今、大変なときで悪いのだが、この仕事をお願いできますか?』と上司が気遣ってくれるのが嬉しい」と言う。平日は仕事で帰宅が遅くなり、妻と一緒に家で夕食を食べることが少ないだけに、ラマダンの時こそなるべく早く仕事を終えて、妻とイフタールを取ることが楽しみと話す。

最初に食べるのは栄養価の高いデーツ(なつめやしの実)と、レンズ豆などの温かいスープ。その後、ジュースや水で水分を補給しながら、普段の食事と同じように野菜、ライス、肉などを食べる。「一日中、飲み食いしていないので、他の人からは一気にたくさん食べると思われますが、少しの量であっという間にお腹いっぱいになってしまうんですよ」と話していた。

理解されないがゆえの葛藤も

2010年に来日し、筑波大学大学院で日本語を専攻しているリナ・アリさん(エジプト出身、女性、28歳)は、現在、博士論文執筆の真っ最中。ラマダン中は午後7時を過ぎてからまず、デーツを食べ、牛乳やスープを飲む。お祈りしたり、休んだりした後、午後9時頃に軽く食事をし、夜中の2時半を過ぎる前に、翌日の断食に備えてバナナ、ヨーグルト、パンなどを食べてから寝る。

夕方になると疲労がピークに到達し、集中力がなくなる。あまりの空腹に、アイスクリームを山ほど食べている夢を見たことがあるという。日本ではラマダンについて知らない人が多く、ラマダン中といってもあまり理解されないことが多い。だからといって、ラマダンを理由に博士論文の執筆を遅らせるわけにはいかない。リナさんの葛藤は大きい。

深まる家族のきずな

日本とイスラム諸国におけるラマダンには大きな違いがある。イスラムの国ではラマダンは当たり前のことで、周りの人もやっているので自分も頑張れる気持ちになれる。それにイフタールは、毎日家族そろって食べる特別な食事で、普段より豪華な食事だ。時には親戚、友人、通りがかりの見知らぬ人も誘って大勢でワイワイ食べるのはラマダンの楽しみである。いわば、日本のお正月のようなお祝いの気持ちだという。

しかし、日本ではラマダンがあまり知られていないこともあり、一人で孤独に戦っているような気持ちで断食をしているムスリムが多い。日本の会社に勤務している、あるエジプト人男性は、「お昼休みに同僚が食べているお弁当の美味しそうなにおいが漂ってくると、たまに空腹に耐えられなくなり外に出ます」と話していた。

15年前から在日ムスリムのイフタールを開催

家族や友人と賑やかに過ごす食事が大事だから、日本に住むムスリムはラマダン中に大勢で集まって食べる夜の食事の時間を大切にしている。日本で約30年生活しているエジプト出身のヤハヤ・シューシャさんは、在日エジプト人コミュニティのまとめ役的存在。日本で生活するムスリムでイフタールを楽しみたいと思い、15年ほど前から皆が一堂に会する機会を設けている。

今年も6月27日に目黒区菅刈住区センターでイフタールが開かれ、エジプト人、スーダン人など約30名が集まった。日本ではなかなか食べられないエジプトの家庭料理が机の上に並んだ。キャベツの葉にご飯を巻き込んで煮た料理や、豆とひき肉を煮込んだ一品、甘辛いひき肉がつまったパンなど、どれも皆で手分けして手作りしたものだ。あっという間に皿が空っぽになった。

イフタールの様子。左から時計回りで、テーブルの上に準備された料理の数々。皆で協力してパンを作る様子。ひき肉が中に入っているパン。キャベツの葉の中にご飯を巻き込んだエジプト料理。

首相官邸でもイフタール

意外に知られていないが、首相官邸でもイフタールを毎年開催している。2015年も安倍晋三首相は、6月30日に首相官邸で、在京イスラム諸国の大使や関係者を招待し、イフタールを開催した。今年は39の国・地域代表が参加。出席した各外交団は、各国の郷土料理を提供したという。

代々木上原にあるイスラム教のモスク「東京ジャーミイ」では、ラマダン中は毎晩、イフタールが開かれ、無料で夕食を提供している。ムスリムに限らず、誰でも参加できるとあり、日本人も多く参加している。

ムスリムにとっては、懐かしい故郷の料理に心がほっとする。子供から大人まで勢ぞろいするイフタールで日本に住むムスリム同士のきずなも深まるというわけだ。

(バナー写真:イフタールの会場で飾られていたラマダンの時期に飾る特別な布。「良いラマダンを!」と赤い文字で書いてある。)

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