シリーズ 日中の架け橋
中国高齢社会に支援の手=与論島の介護施設経営者・川畑益雄さん
[2014.06.20] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 |

日本よりも急速に高齢化社会に突入しつつある中国。そんな中国に日本の高齢者介護の経験を伝え、お年寄りに優しい豊かな社会を築いていこうと奮闘する日本人がいる。沖縄に近いサンゴ礁の美しい海に囲まれた与論島で老人介護施設を経営する川畑益雄さん。風力発電を利用して島の環境保護にも気を配る。

川畑 益雄

川畑 益雄KAWABATA Masuo1937年与論島生まれ。54年に人工授精士の資格取得し、奄美動物検疫所に勤務。59年奄美測量設計事務所設立。大島支庁土地改良課嘱託技術員、与論町土地改良区嘱託技術員などを歴任。その後、建設会社や自動車会社などを設立・経営。77年に社会福祉法人ハレルヤ保育所を設立して理事長に就任。97年には医療法人・龍美会を立ち上げ、99年2月に介護老人保健施設・風花苑をオープン。理事長を務める傍ら、海外で評価の高い日本の介護技術などを中国に紹介するなど、日中間の“草の根交流”に努めている。

日本の介護ノウハウを中国に伝授

沖縄本島から北に28キロ、美しいエメラルド色の海に浮かぶ周囲23キロの小さな島がある。鹿児島県最南端の与論島で、人口は6000人にも満たないが、一年を通して色とりどりの花が咲く“長寿の島”。ここで介護老人保健施設「風花苑(かざはなえん)」の理事長を務めながら、高齢化社会に突入し始めた中国に対し、日本の優れた介護ノウハウを伝えようとしている人物、それが川畑益雄さん(77)だ。

日本の高齢化社会の問題も深刻だが、中国社会の高齢化は日本を上回るペースで進んでいる。中国国家計画生育委員会のまとめた報告書によると、中国の65歳以上の人口は2020年に11.69%を突破し、2040年には20.6%に達すると予測されている。人口増加抑制のための“一人っ子”政策などの影響で、「若い夫婦2人で、子供と、双方の両親4人の面倒をみなければならなくなる」といった話も出ている。

川畑さんが、高齢者介護分野で中国側に協力するきっかけとなったのは4年前。北京で開かれた「中国介護産業国際セミナー」だった。川畑さんは沖縄のある社団法人の紹介で同セミナーに参加。「風花苑」経営の経験を生かして、日本の優れた介護技術や現場対応、高齢者用食事、スタッフの研修方法などについて紹介した。中国側はこれに直ぐ反応、川畑さんに協力を要請してきた。

急速な高齢化で増える中国の“三無老人”

中国の来訪客に介護施設の説明をする川畑益雄理事長

中国では高齢化社会に関するノウハウがほとんど蓄積されていない。中国は社会主義国家だが、封建時代から続く伝統や文化が色濃く残っており、「育ての親を養老院に行かせるのは親不孝の最たるもの」といった考えが強く、高齢者たちは個々の家で守られてきた。このため、養老院(中国語では「敬老院」)はあるにはあったが、数が圧倒的に少なく、入所者はいわゆる“三無老人”。即ち、収入なし、労働能力なし、扶養してくれる者なしの高齢者が中心で、豊かな老後を保障するような施設ではなかった。

北京郊外のある養老院を視察したことがあるが、施設は質素な木造で、入所者たちは食事と寝る場所を与えられているだけのような印象を受けたことを思い出す。しかし、改革開放で経済が急速に発展し、少子化や核家族化が進み、若い世代が高齢者を支えきれず、養老院への入所を希望する人たちが急速に増えている。政府も養老院や介護施設を増設しているが、とても追いつかず、「2億近くの老齢人口が、400万床のベッドを奪い合う状況にある」という。

中国人医師らを積極的に受け入れ、「協力は当然」

「風花苑」外観

そこで中国政府が真っ先に目を付けたのが高齢化社会の先を行く日本。特に、高齢者に対する日本のきめ細かなサービスだった。

「中国側は日本の優れた介護システムを取り入れていきたいと言ってきました。高齢化社会の問題は日本も、中国も避けては通れません。協力するのは当然です」

 川畑さんはその場で「中国高齢者介護業務視察団」の受け入れを快諾。中国の北京から医師や看護・介護関係の学生ら10数人が遠く離れた与論島の「風花苑」に二度もやってきた。もちろん、入所者を対象にした日本式のきめ細かな介護を体験、中国に導入するためだ。

「同行の通訳さんを除いて日本語ができる人はいませんでしたが、皆、熱心に勉強していました」

川畑さんは中国の視察団の印象をこう振り返る。「風花苑」が設立されたのは1999年2月。ベッド数は100床。「風花苑」では毎日、各分野の専門スタッフがてきぱきと対応しており、2階建ての建物の中には、クリニックや入院施設、大浴場や談話室などもあって、高齢者たちが快適な生活を送っている。

配慮の行き届いた新鮮な食事にびっくり

風花苑に毛筆の書を贈呈する中国代表団

入所者の大きな楽しみは食事で、「風花苑」は地元でとれた新鮮な野菜や魚を使い、郷土料理を織り交ぜながら、入所者の疾患や栄養バランスを十分考慮し、それぞれに食事を提供。お正月や祝祭日、誕生日には特別メニューを用意している。

 「(これには)中国の方も驚いたようですよ」

入所者の多くは地元のお年寄りで、「風花苑」は「家庭復帰のための自立支援」にも力を入れており、川畑さんが「島外、さらには中国からもお年寄りを迎えたい」と言うと、中国の視察団のメンバーの1人は「この島に来て、大陸にない珍しい島の風景とゆったりする療養生活を味わえるようになればいいですね」と応じたという。

日中高齢者の“短期入居交流”も検討

風花苑の風力発電施設、余った電力は電力会社に販売している

実際、川畑さんは中国の複数の高齢者介護施設との間で、入所者の“短期入居交流”の可能性について検討しているそうだ。

また、川畑さんは、高齢者介護事業だけではなく、与論島の貴重な自然環境の保護にも積極的に取り組んでおり、「風花苑」の施設内に巨大な風力発電施設を建設。施設で利用し、余った電力を電力会社に販売している。

「お年寄りに優しい、正真正銘のクリーンな介護総合施設をつくるためです」

川畑さんが目指すのは人と自然の調和であり、この理想の前には日本人も、中国人もない。

取材協力:介護老人保健施設「風花苑」

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