日中の懸け橋

ファッション激戦市場の上海で日系ブランドが苦戦-ユニクロ、無印良品は善戦

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香港、台湾を含む中華圏の市場規模は2013年、何と、日本の18兆円の約3倍に当たる50兆円にまで拡大し、2020年には113兆円規模の世界最大のマーケットに成長すると予測されている。この中心に位置するのが中国最大の都市・上海で、各国のアパレル・メーカーや専門店が続々と進出しており、業界関係者の間で上海は「ファッションのワールドカップ開催地」と言われ、激しい競争が繰り広げられている。

ショートパンツとロゴ入りTシャツが大流行

ショートパンツ姿で颯爽と歩く女性。スラッと伸びる長い脚が美しい

今夏、上海の街ではスラッとまっすぐ伸びた素足を惜しげなく出して歩く女性たちの姿がそこかしこで見られた。日本同様、ショートパンツが流行したからだ。今世紀に入るころまでは、中国の流行の最先端を行く上海でも、「(若い女性が人前で素足を見せることは)はしたない」とされ、夏、サンダルを履く時も、足首までのストッキングで、素肌を出すことを慎んでいた。当時を思い出すと、同じ国の風景とは思えない。

また、ショートパンツに加え、ここ数年、上海の女性に人気なのがロゴ入りTシャツとワンピース。同じロゴ入りといっても、控えめを好む日本人とは異なり、中国人は大きくてはっきりし、一目でブランドがわかるデザインを好む。また、ワンピースが人気なのは「身にまとえばそれなりに奇麗に見え、存在感が出るからだ」そうだ。思い思いのファッションに身を包み、スマートフォンで友だちとチャット、タブレットで動画を視聴し、週に数回、友だちや恋人とショッピングや食事を楽しむ。これが今の上海の若者たちのひとつのライフスタイルなのだ。

上海っ子は欧米志向・キーワードは「上質な生活」

ファッションの分野で上海っ子の目は東京、それも原宿に向いているといった説もあるが、日本貿易振興機構(ジェトロ)が13年、華東地域主要7都市(上海、蘇州、南京、無錫、杭州、寧波、合肥)の20代~50代を対象に行ったライフスタイル調査(表1)によると、

彼らの目はむしろ欧米を向いており、「注目する国のスタイルは欧米」と答えた人が約40%を占め、次いで韓国、日本の順だった。このため、欧米のデザインを参考にしている国内カジュアルブランドが少なくない。

「FASICART」店内。こうしたセレクトショップが上海で流行り始めている

上海でセレクトショップ「FASICART」を経営し、コンサルティング業なども行っている株式会社Pubsonの兒玉公人氏は欧米ファッションが好まれる理由について「高級感があり、かっこよくてスタイリッシュなデザインに加え、ドラマや映画の影響が大きい」と指摘する。日本でも大ヒットした米国ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SEX and the CITY)」は中国人女性の心も捉え、ドラマの中の登場人物が着るセクシーでかっこいいファッションが上海でも厚い支持を得ているのである。

兒玉氏は「米国アップル社のiPhoneやiPadを代表とするさまざまな商品、海外旅行、ドラマなどで触れる欧米のイメージは強く、彼らが求める上質なライフスタイルそのものなのだ」と語る。

ユニクロが躍進、中華圏店舗数はH&M抑さえNo.1

この中で、善戦しているのが日系ではユニクロと無印良品だ。中国は世界展開するファストファッション大手のH&M、ZARA、GAPなどがしのぎを削る国際市場なのだが、ユニクロは躍進を続け、中国での6月末総店舗数は289店と2位のH&Mの209店を大きく上回り、頭ひとつ抜け出した。

中国人消費者にユニクロについて意見を聞くと、「手ごろな値段で品質が高い」「店員のサービスが良い」と答える人が圧倒的に多い。しかも、ある20代の女性は「ユニクロでは代金のおつりを両手で渡してくれるし、店員さんに商品の売り場を尋ねると、とても丁寧に教えてくれて、買い物していてとても気持ちいい」と答えた。日本式サービスが中国人の心をつかんでいるのだ。

ユニクロとともに人気なのが無印良品。中国で100店まで店舗数を増やしている。シンプルでありながら優れたデザイン性を持つ商品と店内の雰囲気がよく、「買い物をすることで、上質な生活をしている自分を感じられる」のだそうだ。

ユニクロと無印良品の2社は、現在、中国の大型商業施設デベロッパーが最も誘致したい企業だといわれる。

日系ブランドの多くが苦戦・撤退の動きも

しかし、日系アパレル企業の“負け組”も少なくない。

身体の線を強調したファッション。「SEX and the CITY」の出演者を彷彿とさせる

「ユニクロや無印良品には及ばないものの、少しずつ成長している日本企業もある。しかし、ここ数年、撤退の動きが活発化していて、特に今年に入ってから著しい」

こう指摘するのは前出の兒玉氏だ。今回の取材で、上海の買い物客に日系アパレルについて聞いてみたところ、「流行のデザインでもないのに値段が高い」「中間色が多く、ぼんやり見える」「体の線を隠すデザインのものが多く、中国人好みでない」といった意見が少なくなかった。

日本ブランドの洋服は「可愛い」「シンプル」「コーディネートしやすい」という特徴であることが多いが、中国人がよく好むのは「色が鮮やか」「存在感がある」「コーディネートしなくてもかっこよく見える」なのである。

こうした“ミスマッチ”、“ブランド力の欠如”、“資金力不足(で中国式の大々的なPRを展開できない)”といった事情から、戦いに敗れ、中国から撤退していく日系アパレル企業は後を絶たない。

伏兵・韓国企業は“韓流ブーム”を利用

これに対し、ここ数年、着実に伸びてきているのが韓国勢だ。前出のジェトロの調査でも触れたが、中国の人たちが注目している国のライフスタイルということでは、韓国が欧米に次いでナンバー2。韓国ブランドの人気の背景には、韓流ブームや韓国企業の徹底したマーケティングと優れたPR力がある。

中国では今年、「星から来たあなた」という韓流ドラマが大ヒットした。すると、韓国アパレル各社は直ちに、この勢いに乗り、衣装提供によって出演者たちが着た自社商品をインターネットや店頭で宣伝・販売した。この結果、店頭には商品を求める長蛇の列ができ、品切れが相次いだという。

日系アパレル企業が苦戦していることの背景には、日本のデザインがそのまま中国で売れると思っている日系企業が少なくないこと、販売店がメーカーから商品を買い取る大手日系ブランドのビジネスモデルが中国市場で倦厭されていることなどもある。いまだに現場の決定権が小さく、迅速さが求められる中国ビジネスで後手を踏むことが多い。たまにしか中国に来ない企業上層部と現場との意見に齟齬があることも大きな弱点だ。

日系アパレル企業が巨大市場中国で復活していくためには日本の慎重すぎる商業習慣を改め、メディア・コンテンツの発信や文化交流をさらに進め、それを両輪として進んでいくしかない。政府も、民間企業も、よくよく考えてみなければなるまい。

【アンケート】注目している国のスタイルは?(複数回答可)

国別スタイル 上海 南京 蘇州 無錫 杭州 寧波 合肥
中国 144 145 167 155 163 153 160
ヨーロッパ 97 81 67 79 84 77 57
アメリカ 79 58 41 58 73 58 50
日本 44 38 29 35 23 22 21
韓国 55 61 59 75 55 69 50
その他 2 1 0 1 3 2 2

※日本貿易振興機構(ジェトロ)「中国華東地域主要7都市の消費者ライフスタイル調査」(2013年3月)より抜粋。

撮影:崔明
執筆:永島雅子

















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