シリーズ 安保法制インタビュー
「遠くは抑制的、近くは現実的」が民主党の基本方針
長島昭久・民主党 ネクスト外務大臣に聞く
[2015.06.01] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

安保法制審議が始まった。民主党の安全保障のエキスパート、長島昭久氏は、集団的自衛権については「『新3要件』に基づく武力行使は容認しないが、全面拒否ではない。」との立場。「安保法制は大風呂敷を広げ過ぎており問題だ。」と主張する。

長島 昭久

長島 昭久NAGASHIMA Akihisa民主党「ネクスト内閣」外務大臣、東京都連、幹事長を務める。1962年生まれ、神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学大学院、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)修了。防衛副大臣、内閣総理大臣補佐官(外交・安全保障担当)、防衛大臣政務官、衆議院で安全保障委員会筆頭理事、外務委員会筆頭理事を歴任。科学技術・イノベーション推進特別委員、米外交問題評議会上席研究員、ジョンズ・ホプキンス大学(SAIS)エドウィン・ライシャワー東アジア研究センター客員研究員。

「ここまで来た」安保論議

——まず、今回の安保法制をどう評価されますか。

長島昭久 ようやく日本も議論がここまで来たかという感じだ。もちろん、戦中世代を中心に「危うい」という批判や懸念が広がっていることも感じている。ただ、1980年代から集団的自衛権の議論はあり、日米両国がタッグを組みアジア地域の平和と安定を維持していくことは、これからも変わらない軸であり、どう強化するかは避けて通れない課題だ。

私は3つの観点があると思う。第1は、安全保障環境の変化にどう対応すべきか。第2は、日米同盟関係をどこまで成熟させられるか。双務的、より対等に近い関係に近づけていくにはどうしたらいいか。

第3は、そうは言っても憲法の規範の中に収まる改革ではなければならないが、憲法の範囲をどう確定するか。政府の「憲法解釈」との整合性も問われるし、砂川判決(1959年12月)など司法府による憲法9条の解釈もある。立法府も有権解釈権を持っているので、安保法制議論を通じて明らかにしていくいいチャンスだと思う。

憲法からはみ出す「安倍・安保法制」

——民主党内には左右両派がいて、安保法制をめぐり、党が割れている。今後、民主党はどう対応されていくのか。

長島 私はむしろ、野党の立場でこのテーマを突きつけられてよかったと思っている。民主党の議論を固めるのは容易ではないが、どこかで乗り越えなければ政権政党としての信頼は戻ってこない。憲法9条の「理想」と安全保障の「現実」、このバランスをどう取るか、戦後日本は悩み苦しんできた。しかし、安倍政権が示している安保法制の全体像と、民主党が目指す全体像にはズレがある。私はそのことを、国会審議を通じて国民に理解していただきたい。

——自民党とどこが違うかのですか。

長島 スローガン調に集約すれば、「遠くは抑制的に、近くは現実的に、そして人道復興は積極的に」ということ。「遠く」と「近く」とは、地理的な観点とともに我が国の平和と安全に直結した事態や事象かにより論点を整理したものだ。

安倍政権は、わが国の平和と安全に直結する課題も、わが国の平和と安全に必ずしも直結しない地球の裏側の課題も、「切れ目なき安全保障」ということで十把一絡げで全部同じ基準でやろうとしている。現行憲法の規範からもはみ出る部分がある。運用の面からも「オーバーストレッチ」で、いろんなものに手を広げすぎている。

「平和と安全に直結しない事態」は特別措置法で対処

長島 我が国の国益という観点から改めて法案を見てみると、肝心なところが欠落し、余計なものが混ざりこんでいると言わざるを得ない。第1に、「領域警備」に関する法制が抜け落ちている。いわゆるグレーゾーンで、平時でもない、有事でもない、まさに尖閣諸島で起きているような状況にどう対応するかが、喫緊の課題であるにもかかわらずだ。第2に周辺事態。周辺有事における日米協力の強化をどのように進めて行くべきかという我が国の存立に関わる課題が、その他の海外における米軍の軍事行動への支援と混同されているのには違和感を覚える。第3の国際平和協力についても、人道復興という意味でPKO(国連平和維持活動)を我が国の得意分野としてもっと深化させるべきなのに、今回の法案には余計な活動が加わり、自衛隊の現場では懸念の声も聞かれる。

領域警備、国土防衛、周辺有事対応、さらには国連PKO活動といった4分野に現実的、積極に対応し、それ以外の国益の観点から「遠い」事態に対しては、恒久法ではなく、これまで通りそのつど必要性や情勢をめぐり特別措置法を通じて国会で議論していく、という仕分けをした。国民にも納得していただける内容ではないかなと思っている。

付け加えれば、右から左までいる民主党内で、曲がりなりにも方向性を共有できたことは一つの前進。党内論議の過程で明確な方向性を示さなかった岡田克也代表の対応には多少不満は残るが、左右両方に配慮せざるを得ないので仕方ないと思う。

「集団的自衛権行使」への民主党対応は今後の情勢次第

長島    政府提案の一括法案は、一部だけでも反対だと結局すべてに反対せざるを得ないので、「限りなく反対に近い」状況でスタートすることになってしまった。しかし、私たちはできる限り対案を出し、修正を迫っていくので、単なる反対ではない。

集団的自衛権については、安倍政権が進めている非常に曖昧な「新3要件」に基づく武力行使については容認せずということを党として決めた。しかし、集団的自衛権の行使を将来的に全部拒否したかというと、そんなことはない。

例えば、ミサイル防衛や周辺事態における日米協力は必要で、そういう部分でこれまで個別的自衛権をはみ出すと思われていたようなわが国の行動についても、憲法上許容され得る余地があるというところは否定していない。そこがマスコミから分かりにくいと言われるところだが、現実は単純に割り切れるものではないと思っている。

——法案には国民に分かりにくい「何々事態」が多く、野党として詰める責務があるのではないですか。

長島 そう思う。私たちは特に周辺事態をめぐり「地理的概念」を残せ、と主張している。わが国の平和と安全とは必ずしも直結しない地球の裏側の事態と、わが国の平和と安全に直接影響を与えるような事態とを切り分けて考えるべきだと強く主張していきたい。

18年ぶりのガイドライン改定、実は民主党政権下で提案

——日米防衛協力のための指針(ガイドライン)も18年ぶりに改定されました。

長島 日米ガイドライン改定は、日本の安全保障環境が大きく変化したことに鑑み、約3年前、森本敏防衛相のときに私が防衛副大臣として訪米し、珍しく日本側から米側に持ち掛けたイニシアチブだった。

1993〜94年の北朝鮮核危機に対応できず、米側からいろいろな要求を突きつけられ、それに応えようとして改定されたのが1997年の日米ガイドラインで、周辺事態法で立法化した。

今回、日本側から米側に要請した当初は、米国は中国を対象にしたガイドライン改定に及び腰だった。

集団的自衛権の行使まで踏み込むかどうかは、全く考えていなかったが、視野になかったかというとそうでもない。現場のニーズから米側を引き込んで議論を始め、そして安倍政権に引き継がれて、今日のガイドラインになった。

テポドン2号 ©KRT/ロイター/アフロ

今あるのはミサイルの脅威で、18年前にはミサイル防衛はなかった。北朝鮮のミサイル「ノドン」が開発され始めたばかりで、98年に日本上空を通過してびっくり仰天した。核もそんなに開発されていなかった。しかし、今やノドンは200基以上、移動式で日本列島のほぼ全てを射程に置いている。核は小型化され、ミサイル搭載が可能。しかも射程も米本土まで届くようになっている。中国の軍事力も日本の3~4倍。そういう大きな変化を捉えて、「ロール&ミッション、ケイパビリティ」と言うが、日米間でもう一度、役割、任務、能力の分担を考え直すことが必要になっている。

米国から見れば期待下回る「集団的自衛権の行使」

——民主党として、米国の考え方をしっかり把握しているのですか。

長島 私は5月の連休中にワシントン、ニューヨークへ行ってきたので、最新の状況は把握している。問題は2つで、1つは地球規模で日米協力ができると意気込んでいる人たちがいるが、それが本当に日本の国益かどうか、米国に対してしっかり発信していかなければいけない。

もう1つは、集団的自衛権が行使できるようになったと喜んでいる人たちがいるが、自公両党が合意した集団的自衛権の行使は、言ってみれば個別的自衛権にちょっと毛が生えたようなもの。米側からすれば期待を大きく下回る代物で、これが運用、さらに現場の作戦面に落ちてきたときに、「なんだ、そんなものか」ということになるのではないか。

安倍首相は米議会演説などでかなり大風呂敷を広げてきたので、私は非常に心配している。だから、私は「実態をよく見てください」「過剰な期待をすると裏切られますよ」と説明してきた。これ以上やるのなら、憲法改正が必要になるだろうと思う。

「邦人保護」と「邦人救出」は別物

——「邦人保護」の議論は分かりにくく、現状の自衛隊が海外で武力行使を伴うような邦人保護をできるのでしょうか。

長島 非常に大事なポイントで、アルジェリアの人質事件(2013年1月)やイスラム過激派「ISIL」人質事件(15年1月)があって、邦人保護への国民の関心が高まった。しかし、邦人保護というが、今回は「救出」までできるようになっている。保護と救出は随分違う。われわれは邦人保護はやるべきだと主張しているが、人質奪還作戦のようなものまでは到底手が出せない。

徹底的に議論されていない自衛隊派遣

しかし、ペルー人質事件やアルジェリア人質事件のようなとき、陸上自衛隊を投入して特殊部隊作戦をやれるようにしようというのが今回の法改正。私も自衛隊の現場の人たちと交流しているが、今の陸上自衛隊では無理。そのようなミッションの議論は、まだ防衛省内で徹底的になされていない。従って、今回の法制は政治的な意図や判断が優先されたものだ。

自衛隊の中央即応集団の中に特殊作戦群があるが、300人ぐらいの規模で、米海兵隊や陸海空軍特殊作戦部隊の規模に比べたら何十分の一。しかも、海外災害派遣やPKOの任務で手いっぱい。そこに、邦人救出を狙撃部隊も含めてやっていくは相当気の遠くなる作業で、現場はついてこないのではないかと思う。

また、海上自衛隊も南西方面の常続的な監視体制の維持と海賊対策派遣で手いっぱい。護衛艦の定員充足率も7~8割に落ち込んでいる。そういう状況で、南シナ海監視、ペルシャ湾、インド洋もとなったらそれこそオーバーストレッチだというのが現場の悲鳴だ。まず自衛隊の現有勢力と装備、予算を足元から振り返って法制度を考えていかなければいけない。

中国の軍事的プレッシャーに対峙

——長島先生は石原慎太郎元都知事の近しい関係から、尖閣諸島の国有化問題に相当関与されました。

長島 民主党政権が尖閣諸島の購入に踏み切ったのは2012年9月だが、実は08年から中国公船の領海侵犯は始まっていた。08年は、中国が「韜光養晦」といわれる鄧小平以来の、隠忍自重の方針を大きく転換した年。この頃から中国海軍首脳は、米国に対して「太平洋を二分割して、東側はおまえ、西側はうちが担当する」みたいなことを主張し始めた。軍事的な影響力を行使していこうという攻勢に転じた時だった。

尖閣諸島沖の領海警備で、中国の漁業監視船「魚政35001」(奥)と対峙する海上保安庁巡視船(手前) 提供 海上保安庁 ©時事

だから、民主党は中国漁船による衝突事故、頻繁に繰り返される尖閣周辺への領海侵犯行為、南シナ海での強引な領土拡張活動を総合的に考えて対処した。中国側の対応は明らかに常軌を逸していた。

中国のプレッシャーを跳ね返しておかないと、尖閣、あるいは南シナ海の島々も「サラミ・スライス」のように、徐々に浸食されていきかねないと考え、思い切って尖閣を購入し政府による管理下に置いた。当初は、国の責任で名義を変えるだけで、建造物を造ったり、人を派遣しないということで中国側と折り合いをつけようしたが、中国側も権力闘争の真っただ中だったので、大衆を煽る猛烈な反発を招く非常に不幸な結果となった。

安倍首相の危うい「speak loudly」

——安倍内閣への注文は。

長島 セオドア・ルーズベルト米大統領は「Speak softly, and carry a big stick.」と言った。大好きな言葉で、「speak softly」、つまり外交は柔らかにやるが、「carry a big stick」、いざという時の備えはきちっとやっておくと。安倍政権が危ういのは、「speak loudly(声高)」なこと。stick(備え)はちゃんと用意しておかなければいけないが、声高に挑発するような外交では駄目。安倍首相も少し自重されたほうがいい。

しかし、中国の進出には早めに手を打っておく必要がある。米国も鷹揚に構え過ぎていたので、尖閣の事例をテコにして南シナ海や東シナ海で中国が強圧的(coercive)な外交をとらないように、ルールに基づく安定的な秩序をつくり、それをバックアップする抑止体制を整えて行くべきだ。

民主党、生産的な憲法論議が急務

——安保法制の先には憲法改正があります。民主党は基本的な対処方針をまだ集約していませんね。

長島 民主党は2006年に憲法提言をまとめ、「創憲」という立場を明らかにした。つまりは改憲、今のままでは駄目だと。改憲というと「9条」に焦点が当たり過ぎ、どうしても「平和主義を捨てるのか?」みたいな議論になりがち。一方でプライバシーの権利や環境権、犯罪被害者の権利などは直接的な憲法条文がないため、行政現場で人権が十分に保護されていない実態がある。こういう部分は不断に見直していくべきだと考え、論点を明らかにした。

問題は、10年近く経過して、議員もかなり入れ替わり、2013年から党の憲法調査会で議論が始まったが「行きつ、戻りつ」の状態であること。この間、衆参両院で憲法調査会の本格審議が始まったが、民主党内の議論が集約されていないため、「安倍政権下の憲法議論に参加しない」みたいな逃げ口上が聞かれる。私は不満だ。

民主党も現実を見据えた健全野党として、入り口のところで「入れない、入るべきじゃない」みたいな議論を克服していかないといけない。そのような議論は、生産的ではないと思っている。

(2015年5月18日都内にてインタビュー)
(聞き手=一般財団法人ニッポンドットコム代表理事・原野 城治)

  • [2015.06.01]
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