安保法制インタビュー

集団的自衛権解釈は「苦肉の策」、「抑止力」議論も不十分

政治・外交

安全保障法制の論議はわかりにくい。浅尾慶一郎・旧みんなの党代表は、「抑止力が高まる」という政府の説明は不十分と指摘する。集団的自衛権の行使についても同様だとしている。

浅尾 慶一郎 ASAO Keiichirō

神奈川県出身、1964年生まれ。 衆議院議員(小選挙区 神奈川4区) 3期目 無所属。東京大学法学部、米国スタンフォード大学経営大学院卒業。日本興業銀行を経て1998年参議院議員(神奈川選挙区)初当選。2014年末に解散した旧みんなの党代表。

安保法制、「国民にプラスだ」と説明できていない

——安倍内閣の安全保障法制をどう評価されますか。

浅尾慶一郎 国民から見て一番大切なことは、日本の安全保障上の抑止力が高まること。従って国民にとってプラスだと説明できるのかどうか。安倍内閣はそういう説明をしていない気がする。

安全保障法制の中で、集団的自衛権の一部を行使できるようになったことは、意味があると思う。しかし、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」というのはかなり限定的、象徴的な話。

また、米軍の後方支援をやることによって、日米同盟が地球規模で機能するようになる。だから、「日本が有事になったとき、米国はこれまで以上に介入してくれる。従って(相手国は)日本に手を出さない」という説明だが、これに国民が納得するかどうかがポイントだと思う。

日米間に思惑の違いがある

——米国の戦争に「巻き込まれるのではないか」という国民の不安ですか。

浅尾 そこの部分の議論が深まっていない。米国の国防関係者からすると、「日本はやってくれる。それはいい改正だ」ということになる。2001年のアフガニスタンのためのインド洋の洋上給油の場合は 特別措置法(個別法)で対処したが、これからは恒久法をつくってやっていく。イラクにおける陸上自衛隊の復興支援(2003年)のようなことも恒久法でやることになると、米国は「よかった」となる。

逆に日本の立場からすると「米国がやるのであっても、すべてに参加するわけではない」ということなのかもしれない。例えば、インド洋での給油はやるが、「アプリオリ(先験的)にやるわけではなく、わが国に必要があればやる」ということになる。

——18年ぶりに日米防衛協力のための指針(ガイドライン)も改定され、日米同盟の深化で抑止力が高まるのではないですか。

浅尾 国民に近隣諸国に対する抑止力が高まることの説明をあまりしていない。たぶん、「米国の戦争に巻き込まれるものではない」と主張しているために、説明が足りていないと思う。米国が戦闘している地域での後方支援について、日本は「後方支援だから戦争していない」と言うが、それは「米国の戦争」を支援するわけだ。日本の安全保障に役に立つから支援するのだが、そこを正面切って説明していない。要は、それを言うと何か怖いことをやっているイメージを持たれてしまうと思っている。本質をちゃんと説明するべきだと私は思う。

「集団的自衛権の限定的使用」は苦肉の解釈

——集団的自衛権の行使の限定的使用については。

浅尾 集団的自衛権と個別的自衛権は、もちろん国際法的な概念。だが、「個別的自衛権なら安全」で、「集団的自衛権なら危険」というのは違う。今回の(自公両党の)整理だと「集団的自衛権“A”パターン、“B” パターン」に分裂し、「“A”ならやるが、“B”はやらない」ということになっている。

集団的自衛権の中をさらに分けて憲法解釈していくことは、要するに苦肉の策。ちょっと技術的に走ったかなという気はする。もっと言えば、憲法9条の中に「自衛権は存在する」とか、あるいは「自衛隊の存在」を書き込んだほうがより分かりやすいかたちになる。

——大きな議論になった「邦人保護」は、法律に書いてあることと実態とのギャップはありませんか。自衛隊は実際にできるのですか。

浅尾 まず、その能力があるのか、そして法律上できるかどうかということだと思う。今までやっていないことなので、能力は分からないが、訓練すれば獲得できるだろう。しかし、自衛隊員が負傷や事故に遭ったり、死亡したりする危険性のある場所への派遣は、かなり限定的だ。それを乗り越えられるだけの経験を積めるのかどうかが課題だと思う。

憲法を理由とする「派遣回避」は困難に

——法案の中に「国民を守るために他に適当な手段がない事態」という規定がありますが、分かりにくいですね。

浅尾 たとえとして、安倍首相はペルシャ湾のホルムズ海峡が機雷封鎖された場合、日本に石油が入って来なくなる事態もあり得ると言っている。そのとき、必ずやるとは言っていないが、機雷掃海のために自衛隊を派遣すると言っている。

それ自体、私は反対ではない。しかし、1回派遣した後、仮にシェールガスとか、ロシアからの石油・ガスが多く入るようになって、(中東からの石油の)依存度が下がったとき「今度は行きません」と国際的に説明できるのかどうか。しかも、それを憲法のせいにするのは難しい。要するに、政策論として「やらない」というのは分かるが、「憲法解釈上できないのでやらない」というのは、対外的な説明としては難しい。

2回目はやらないというのは、日本の勝手だと言えばそうかもしれない。しかし、国際的に困っているとの要請が来たときに、「輸入量が減ったので今度は行きません」というのは、「積極的平和主義」とは相容れないと思う。行かなければ、わが国の評判が落ちる。そうすると、日米同盟を毀損する可能性がある。

掃海艇ペルシャ湾派遣 出航する掃海艇「さくしま」(神奈川・海上自衛隊横須賀基地)©時事

「辺野古」への米軍基地移設、再検討の必要あるのではないか

——日米同盟の要である沖縄の米軍基地問題はこじれています。不信感が募る沖縄問題、どう解決していきますか。

浅尾 政府は沖縄に対して丁寧に説明をしていく必要性がある。普天間基地の移設先として、民主党政権のときも、結局、政府は沖縄に「辺野古」案の受け入れを求めた。沖縄県民からするとだまされたという気持ちが強いわけで、その気持ちを大事にしていく必要性があると思う。

沖縄県の翁長(おなが)雄志知事と菅義偉官房長官が会談するホテルの前で、「辺野古新基地建設を撤回せよ」などと抗議の声を上げる県民ら ©時事

同時に、日米間の文書では、「we believe」という言葉がついていて、辺野古が「the only viable option」(唯一の実行可能な選択肢)と信じているということだが、本当にそうなのかどうか検討してみることも必要なのではないか。

というのは、軍事的に言うと、海兵隊は橋頭堡をつくる打撃部隊で、出動する対象地域に必ずしも近くなくてもいい。南シナ海、東シナ海の緊張が高まっているとすれば、そこに近い所にいるよりは、少し北のほうに振ることも検証してみる必要がある。

もし、そのような可能性が出てくれば、その選択肢と辺野古の2つを沖縄の人に提示した上で、決めてもらえる。そういう選択肢を提示することが、もしかしたら逆に沖縄が辺野古を受け入れることにもつながるかもしれない。

——逆説的ですね。

浅尾 今の状況は、(沖縄の人が)安心して反対ができる状況だと思う。他に選択肢がない、自分たちが反対していれば、ずっと普天間基地のままでいると。普天間の地主さんにとって、仮に土地が返還されて他に使おうと思っても、今の地代では貸せない、それだけの収益を上げられない。そうすると、安心して反対していればいいということになってしまう。辺野古しか選択肢がないと、沖縄の人に押し付けているイメージになる。反発も大きいから丁寧にやったほうがいい。

憲法改正、「裏口入学」でなく「9条」から議論を

——憲法改正についてはどう見ていますか。

浅尾 みんなの党のときには、憲法9条について国民的議論を2年ぐらいするべきだということで取りまとめをした。首相公選とか、一院制とかを訴えていたが、憲法改正、それ自体、やることが必要だと思う。しかし、安倍首相、自民党政権は9条を本丸だと思っているので、9条からやらないという気がする。

——姑息なやり方に見えると。

浅尾 憲法9条からやって、衆参両院で3分の2賛成が集まるかどうかというのは分からない。例えば環境権だったら3分の2は集まるだろう。それで憲法を変えたという実績をつくり、「次は」と考えていることは容易に想像できる。

憲法9条について、自民党は「国防軍」と書いているので、そういう意味では先に9条から議論したほうがいい。別の言い方をすると、96条(憲法改正条項)の改正が一時期盛り上がったが、「裏口入学」的だと批判され、今は下火になっている。それと同じような意識を国民に持たれるのではないかと思う。

——基本的には憲法改正しなければならないということですか。

浅尾 そう。9条についても、「自衛隊の存在」ないし「自衛権はある」ことを書き込むべきだと私自身は思っている。別に「国防軍」と書く必要はなくて、「自衛権が存し、自衛隊を置く」という書き方でいいだろうと思う。

「穏健な保守」の結集が急務       

——野党は、安保問題についてバラバラです。再編は必要ではありませんか。

浅尾 世論調査で、仮に「自民党に対抗し得る野党は必要か、必要でないか」と聞けば、たぶん過半数の人は「必要だ」と答えると思う。「じゃあ今の野党はその任に足りているか」と言うと、「足りていない」が過半数になると思う。

では、なぜそうなるのか。2009年の政権交代で民主党を選んだが、やらせてみたら駄目だった。民主党が判断すべきことだが、党名を変え、政策を真ん中に戻すぐらいのことをしない限り、自民党に対抗する政党にはなり得ないのではないかなと思う。政策を真ん中に持っていき、他党ないしは他のグループも相当入って、党の構成が変わるのが一番いいことじゃないかなと思う。

——憲法改正を想定するとき、自民党の補完勢力である公明党はどのように動くと思いますか。

浅尾 公明党は自民党と政策的にいろいろぶつかったりしているが、やはり与党から離れることはないと思う。公明党の外側にいる保守的な勢力、別な観点から言うと「穏健な保守」が、今の自民党の外側で固まりをつくって対抗するのが国としては一番いいと思う。

(2015年5月19日都内にてインタビュー)
(聞き手=一般財団法人ニッポンドットコム代表理事・原野 城治)

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