グローバル食文化としてのラーメン

大手チェーンから最新の人気店まで:日本のラーメン、加速する海外進出

経済・ビジネス 暮らし

諸外国でラーメンが脚光を浴び、認知度が高まるに伴って、日本のラーメン店の海外進出の動きが加速している。欧米への本格進出を狙う大手チェーンと、アジア諸国でのビジネスチャンスを伺うベンチャー企業経営者に取材し、今後の展望や課題を聞いた。

海外店舗は「稼ぐ力」ある

1960年代に創業し、積極的なフランチャイズ展開で一時は全国に1200店舗ものネットワークを広げた「どさん子ラーメン」。2014年にブランド戦略を再構築(リブランディング)し、同年10月にはフランス・パリ中心部に海外1号店をオープンさせた。

その後、米ロサンゼルス、オーストラリアのメルボルンにも相次いで出店。欧米を中心に「少なくとも5年間で海外に50店舗」(株式会社どさん子経営企画室)の出店目標を掲げる。同社は現在、国内で300店舗を展開するが、ホームページに掲げた事業方針では「今後の成長戦略を『海外』展開と捉え、国内事業は『シンボリック的拠点』という位置づけ」とまで断言する。

どさん子パリ店の外観

海外展開の手応えはどうなのか。本社の伊奈信太郎・社長室長は「日本国内のラーメン市場が飽和状態であるのは事実。海外店舗は『稼ぐ力』が抜きんでている。例えばパリの店舗は客単価が日本に比べ2倍、売り上げは4倍もある」と話す。

「パリ店の近くには中国系、韓国系の人たちが営む日本食レストランも数多くあるが、レベルの違いは明らか。いいものを出せば確実にお客様は来てくれる」とも。欧米では“日本文化はかっこいいもの”というイメージが定着し、今後も堅調な需要が期待できるという。

「すし」ブームから「ラーメン」へ

実は同社は1970年代、他のラーメンチェーンに先駆けて米ニューヨークに進出。米国内に11店舗を構えたが、「時期尚早で、現地の作り手自体がそもそもラーメンのおいしさを分かっていなかった。日本の駐在員にも『残念な味だった』と言われたという」(伊奈氏)。90年までには撤退し、その後に“日本食”ブームが起こるものの、注目を集めたのはすし、鶏の照り焼きなどだった。

どさん子のラーメン「味噌 赤練(あかねり)」

一方で、どさん子チェーン自体は2000年前後から、業界の構造変化で苦難の時期に入る。高度成長期に商売を始めたフランチャイズ店が代替わりの時期を迎え、店をたたむケースが急増。チェーン本部の技術指導に従わない店舗も出てきて、ブランドイメージが損なわれつつあった。

そんな中で火が付いた「海外におけるラーメンブーム」。同社は、世界展開で一歩先を行くラーメン店「博多一風堂」で知られる「力の源」グループの協力を得て、海外進出を念頭に置いたブランド再構築を決断したという。

食材確保に物流システム整備が課題

伊奈社長室長によると、欧州では各国にまず直営店舗をつくり、そこで実績を上げることで現地のビジネスパートナーを獲得し、それぞれの国でフランチャイズ店舗を増やすビジネスモデルを描いている。運営上の課題は、「日本と同等の味、サービスをどうやって維持するか」。海外店舗では現在、冷凍麺を使っているが、水準以上の食材を常時確保するには現地物流システムのさらなる整備がかかせないという。

日本文化を海外に売り込む官民ファンド、海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)は2014年12月、「力の源ホールディングス」(福岡市)に、欧米や豪州での海外展開資金として計20億円を支援すると発表して話題になった。これには北米・欧米で麺やスープ、そのほかの日本食材を製造する拠点となる「セントラルキッチン」設立も計画に盛り込まれているとされ、数年後にはこの拠点から、より高い品質の食材を手に入れることも期待できる。

ベンチャー企業が小規模有名店と提携

日本の有名店の直営店舗、フランチャイズ店舗を含め、100店舗以上のラーメン店がしのぎを削るシンガポール。そこに2014年11月、「日本で評判の“一店もの”ラーメン6種類が、そのままの味で食べられる」というユニークな店「宅麺」がオープンした。

シンガポールに出店した「宅麺」の店舗外観

「宅麺」の店内。お客のほとんどがローカルの人たちだ。

仕掛けたのは、ベンチャー企業「グルメイノベーション株式会社」の井上琢磨社長。提供するのはとんこつ味の久留米ラーメンに横浜家系、二郎インスパイア系、鶏白湯、味噌、勝浦タンタン麺とバラエティ豊か。いずれも日本のラーメンファンによく名の知られる有名店と提携し、オープン前には日本の店主らがシンガポールに足を運んで味の調整を施すなどして、「行列のできる店の味」を再現した。

「宅麺」が提供する6種類のラーメン。

「宅麺」と提携した店主の一人で、東京・京橋などで東京スタイル味噌ラーメン「ど・みそ」を営む齋藤賢治さんは「自分はまだまだ国内を伸ばしていきたいと考えているので、宅麺さんにやっていただければいいなと。外国では今はとんこつ味が人気一辺倒だが、舌が肥えてくるといろんな味のラーメンが食べたくなる。何年かしたら味噌ラーメンも必ず人気になりますよ」と話す。

井上社長は店の評判について、「来店者の7割以上がローカルのお客様。それぞれのラーメンにファンができ、『これまで食べたことのなかった味。おいしい』と言われる」と、手ごたえを感じているようだ。

「お取り寄せ」ビジネスのつながり生かす

井上社長はネットベンチャー企業の社員、役員を経て、2010年にグルメイノベーションを立ち上げ。インターネットで注文を受け、有名店のラーメンを「冷凍したそのままの麺、そのままのスープ」という形で家庭に宅配する“お取り寄せサイト” 「宅麺」を始めた。

グルメイノベーションの井上琢磨社長。「宅麺」のお取り寄せサイトでは、ラーメンにまつわるさまざまな情報も発信している。

繁盛している店でも客の少ない時間帯はあるし、行列が絶えるのが嫌で休憩してしまう店もある。そんな時間に麺やスープをパック、冷凍して送ってもらい、それを自社の倉庫で保管し、注文が入ったら顧客に宅配するというビジネスモデルだ。「誰もが食べたい店のラーメンをと、とにかく店舗とメニューの品質にはこだわった」という。職人肌の店主の信頼を得るため、“店に絶対損はさせない”と商品は「買い取り制」に。このビジネスを通じ、「宅麺」は数々の有名ラーメン店とつながっていく。

海外での日本ラーメンブームを受け、井上社長は「宅麺こそ、バラエティ豊かな『日本の最新ラーメンの数々』を、外国人に伝えていける立ち位置にいる」と考えたという。仕事でつながりのあるラーメン店主に、海外での店舗展開で提携を申し入れ。店側がレシピの伝授など技術指導を行う見返りに、「宅麺」が売上額に乗じた一定のロイヤリティを支払うことで合意した。

「宅麺」は現在、シンガポールに自前のセントラルキッチンを持ち、6種類のラーメンそれぞれのスープを製造。麺も一部は自社で作っているという。味の最終調整のために日本から現地降りした店主たちに「『こんなにきちんとやってくれるとは思わなかった』と言われた」(井上社長)のが自慢だ。

海外市場は「今後、日本以上の規模に」

日本全国には3万5000~4万軒のラーメン店があり、市場規模は5000~7000億円と言われている。井上社長は「海外市場は、今後日本と同等かそれ以上になる。だが現在は1000億円強ぐらいという段階で、まだまだ伸びる。加えて日本は個人店舗が大半だが、海外のラーメン店は大手が寡占していく市場になる」と読む。

当面の目標は、少なくとも「5年で100店舗」と野心的だ。「それぞれの国に“ラーメンおたく”が出てきて、ネットでのやりとりが活発になればラーメンブームもさらに加速する」と、日本のラーメン・コンテンツの現地語翻訳も手がける。ネットベンチャー出身の起業家として、井上社長はラーメンにまつわる文化の発信も見据えながら、アジアでのビジネスを進めている。

取材・文:石井 雅仁(編集部)
バナー写真:シンガポールに出店した「宅麺」で働く現地スタッフ

ラーメン 麺類