シリーズ ハンセン病の差別撤廃を求めて
バチカンで初のハンセン病国際シンポジウム
世界の回復者、宗教者らが差別撤廃に向け議論
[2016.06.14] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | Русский |

キリスト教・カトリックの総本山、バチカン(ローマ法王庁)で6月9-10日の両日、ハンセン病に関する国際シンポジウムが開かれ、患者・回復者への差別撤廃に向けた「勧告」を発表した。世界45カ国から医療従事者や回復者、宗教者ら約250人が参加。ハンセン病をめぐる問題の解決に向けて議論した。

バチカンでハンセン病に関する国際シンポジウムが開催されるのは、今回が初めて。カトリックは2015年12月から1年間を「いつくしみの特別聖年」と定めており、シンポは特別聖年の中の「病者・障がい者のための記念日」に合わせて開かれた。テーマは「ハンセン病患者・回復者の尊厳の尊重と総合的なケアに向けて」。ローマ法王庁保健従事者評議会と日本財団が主催した。

差別解消に向け、宗教界も重要な役割果たす

シンポジウムの発言・議論を基にまとめられた「結論と勧告」は、社会に残る偏見・差別により、いまだにハンセン病の患者、回復者とその家族の人権が十分に確保されていないと指摘。2010年に国連人権理事会が採択した「ハンセン病差別撤廃のための原則と指針」に従った実践的な取り組みを各国政府に求めるとともに、現在も一部で残る差別的な法律を速やかに撤廃すべきだと宣言した。

また、患者、回復者とその家族の尊厳回復に当たっては、当事者の意見を十分にくみ、その参加を進めながら周囲が支援していくよう勧告した。

偏見・差別の解消に向けては、宗教界も重要な役割を果たしていくべきだと明記し、カトリックが今後、ハンセン病をめぐる問題解決に向けて取り組みを強化する決意をにじませた。加えて、ハンセン病に対するスティグマ(負の刻印)、偏見を助長するような用語、特に差別語である“leper”の使用は避けるよう求めた。

「結論と勧告」は今後、この問題に対するカトリック教会全体の指針になると見られ、アフリカや南米などカトリックが強い影響を持つ国々で、社会の偏見・差別を取り除く新たな一歩になると期待される。

ハンセン病への正しい理解を

シンポジウムで挨拶する日本財団の笹川陽平会長

シンポでは冒頭、世界保健機関(WHO)のハンセン病制圧特別大使を務める笹川陽平・日本財団会長が挨拶に立ち、「ハンセン病は治療法が確立し、治る病気になったにもかかわらず、神からの罰だとの誤った認識がまだ払拭(ふっしょく)されていない」と指摘。ハンセン病に対する正しい理解の促進を呼び掛けた。

WHO世界ハンセン病プログラムチームリーダーのエルウィン・コールマン氏は、多剤併用療法(MDT)がハンセン病の標準治療法となったことで、1985年から2000年の15年間で患者の数は9割も減り、WHOが定めた「1万人当たり患者1人」という制圧目標が全世界で達成されていると報告。現在行われている対策は国単位でなく、比較的患者数の多い地域レベルに焦点が移っていると指摘した。

ハンセン病をめぐる人権状況については、国連の人権小委員会で2005年に報告書をまとめた横田洋三・人権教育啓発推進センター理事長が、教育・就労・結婚という人間の尊厳にかかわるそれぞれの面で、当事者・家族がさまざまな差別を受けていると具体的な例を挙げて報告した。

回復者が苦悩の人生を証言

ハンセン病の回復者も次々に登壇し、差別と偏見にさらされた自らの人生の歴史を「証言」した。

現在はブラジルで患者の社会復帰、権利回復に取り組むバルデノラ・クルス・ロドリゲスさん(56)は、8歳で病気の症状が出て、9歳でコロニー(隔離地域)の病院で入院することに。しかし、そこまで行く汽船に乗ることを拒否され、汽船にロープでつながれた小船で出発した。16歳で退院し故郷に戻ったが、言われなき蔑視を受けて1年後に再びコロニーに戻った。その際に受けた苦痛が、社会運動にかかわる動機となったという。

インドのハンセン病回復者

韓国のハンセン病回復者

フィリピンのハンセン病回復者

中国の袁亜華さん(41)は回復後、介護職を経て義足を作る技師に。広州のハンセン病支援NGOに参加し、足を失った人々のために各地を回って義足をつくり続けている自らの活動を語り、会場から大きな拍手を浴びた。

日本からは、国立療養所・長島愛生園(岡山県)の自治会副会長、石田雅男さん(80)が登壇した。10歳の時に発病し、以後70年にわたり長島で生活する石田さんは「治療薬プロミンができたことで“人間として生きたい”との意識がよみがえり、患者組織ができて(強制隔離制度の廃止を求める)ハンスト、座り込みなどの人権闘争を繰り広げた」と、終戦後まもなくの様子を振り返った。

シンポジウムで証言する石田雅男さん

また、近年は療養所を見学し、ハンセン病の問題を学習してくれる小中、高校生が、大人の持つ偏見を正してくれていると指摘。「過酷な歴史を刻んだ国立療養所の13施設を世界遺産に」、「長島を“人権の島”に」したいという現在の取り組みを紹介した。

取材・文:石井 雅仁(nippon.com編集部)

バナー写真:ハンセン病国際シンポジウムの冒頭に、祈りをささげる参加者ら

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