シリーズ シリーズレポート「老いる日本、あとを追う世界」
「高齢化先進国」日本企業の挑戦(タイ編 ②)

竹内 幸史【Profile】

[2016.09.30] 他の言語で読む : ENGLISH |

タイの急速な高齢化と富裕層の需要を狙い、「高齢化先進国ニッポン」の企業が進出し始めた。老人ホームの運営など介護サービスの「日本モデル」が広まることで、良い効果が期待されている。

日本モデルの介護サービスを提供

介護サービス業界大手のリエイ(本社・千葉県浦安市)は2016年1月、バンコク北部のラプラオの住宅街に老人ホーム「Riei Nursing Home Ladprao」を開設した。6階建てビルを賃貸し、20室を設けるなど総投資額は約4千万円。電動の介護用ベッドなど最新設備を日本から輸入した。個室の入居料は月5万バーツ(約15万円)からだ。

介護の訓練を受けた職員が24時間常駐し、提携先の病院から医師、看護師の派遣を受ける。胃瘻(いろう)、痰の吸引、インシュリン注射など項目ごとに料金設定をしている。介護にはタイ式マッサージも取り入れ、仏教僧の法話や誕生会などの催しもある。

タイ人の富裕層は自宅に外国製介護用品を買いそろえ、人を雇い、月何万バーツもかけて在宅介護をする。そんな事情を考えれば、リーズナブルな価格設定だという。2016年8月現在、入居者は4人だが、年内には満室になると見込み、新施設の開設も検討していくという。

リエイの老人ホームの外観(左)と「癒されてこそ介護」と日本語で書かれたポスター

北京・上海に次ぐ海外進出

リエイのアドバイザーで、看護師の川口香代子さんは40年以上タイに住み、看護や介護の教育をしてきた。「タイ人の間では、老人ホームには死期が近づいている人々の施設だというイメージが強く、死に対する恐怖感がある」という。また、「高齢者介護では、食べる力が少し衰えると、すぐに胃瘻の措置をとってしまう。高齢者をそっと見守り、自助努力を促す姿勢が介護に必要なのに、家族の間では、施設に料金を払っているのだから完全な介助をしてくれ、という考え方がある」と指摘した。

川口香代子さん

リエイはレストラン経営や企業の社員寮管理などで業績を伸ばし、2000年ごろ介護事業に進出し、日本国内46カ所で施設を運営する。中国にも進出し、北京と上海で介護施設を開いた。タイでは2010年から訪問介護サービスを始め、タイ財閥のサハ・グループと介護人材育成で提携している。

リエイの老人ホームの個室

モニタリング・システムで参入も

北海道で介護事業を営む健康会(本社・札幌市)も初の海外事業としてタイに進出した。2015年末に合弁会社を設立し、まず美容サービスに着手した。人材を確保しながら、介護分野への参入を目指す。また、九州のソフトウエア開発会社、エイビス(本社・大分市)は、高齢者の転倒などを防ぐため、センサーで動きを検知する「みまもりシステム」を開発し、介護に導入している。これをタイで展開するための実証実験を2016年から始めた。国際協力機構(JICA)の中小企業海外展開支援事業の助成を受けた。タイ企業では、サイアム・セメント・グループが高齢者向け住宅を開発している。病院運営のトンブリー・グループも訪問介護サービスを始めた。

タイに進出した日本企業に期待されるのは、日本型のきめ細かい介護サービスの意義が理解され、タイの社会風土に溶け込んでいくことだ。リエイのような施設が「ショーウィンドー」となり、安易な胃瘻の選択を正したり、老人ホームの印象が改善したりする効果も期待できる。その際、日本的な介護サービスを押し付けるのでなく、選択肢として、そっと提示し、参考にしてもらう姿勢が重要だ。

バナー写真=真新しいタイの老人ホームの食堂(写真はすべて著者提供)

プロジェクトの概要について

笹川平和財団 新領域開拓基金「アジアにおける少子高齢化」事業

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  • [2016.09.30]

「国際開発ジャーナル」編集委員、笹川平和財団「アジアにおける少子高齢化」委員会委員。1980年、慶応大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り、バンコク、ニューデリー特派員、編集委員などを務める。2011年に退社後、米国ライシャワー東アジア研究所客員研究員などを経て、2014年からODA専門誌「国際開発ジャーナル」編集委員。岐阜女子大学南アジア研究センター客員教授、拓殖大学大学院(国際協力学研究科)講師。共著に『脱原発の比較政治学』(法政大学出版)など。

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