韓国の高齢者の居場所「思い出プラス」
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大きな敬老堂と呼ばれるパゴダ公園
鍾路は、李氏朝鮮王朝がソウルを首都としてから、400年以上、政治、経済、文化、教育の中心地として発展してきた。20世紀後半以降になると、政府主導の都市開発政策により、漢江の南(江南)が開発され新市街として発展することとなり、漢江の北(江北)に位置する鍾路は古き良き時代の風景が残る街へと変わった。旧市街の中心地であった鐘路は、現在、急速な高齢化の進展とともに、高齢者が多く集まる街となっている。
鍾路のなかでも、特に数多くの高齢者が集まるのが、パゴダ公園(タプコル公園)である。パゴダ公園は、韓国初の近代式公園で、歴史的な名所としても知られるが、近くに韓国最狭といわれる人口密集度の高いドヤ街があったこともあって、公園の中や周辺は、昔から行き場のない高齢者やホームレスがたむろする場所でもあった。そのような人々のために、長期にわたって民間団体による炊き出しなどの支援活動が実施されており、ますます多くの高齢者が集まるようになった。大きな敬老堂とも呼ばれている。
高齢者のための居場所「思い出プラス」
パゴダ公園の周辺には、食堂や喫茶店、服屋や美容室など高齢者向けの商店街が形成されている。なかには、いわゆる貧困ビジネス的な店もあるが、政府や民間企業の支援のもとで、利潤追求より、高齢者に憩いの場を提供することに力を入れる店も多くみられる。政府や民間企業の財政支援を受けて、できるだけ安価でモノやサービスを提供しつつ、高齢者同士の交流をはかろうとしているのだ。その1つとして「思い出プラス」を紹介したい。
「思い出プラス」は、高齢者向けの映画館(「ハリウッド・クラシック」)内にあった小さい食堂が独立し、2013年9月にパゴダ公園の近くの商店街にオープンした。民間銀行の社会貢献活動による財政支援を受けて経営しており、高齢者に安い食事とお茶やコーヒーなどを提供している。厨房で料理をしたりホールでサービングをしたりする従業員もすべて高齢者であり、地域の高齢者に働く場を提供するという重要な役割も果たしている。店内は、1970~80年代を思い出させる内装で、DJが紹介する当時の音楽も人気の理由だ。食堂としてだけでなく、高齢者同士の交流も盛んに行われる場所となっている。
筆者が店を訪れたのは午後2時過ぎだったが、食事やお茶、コーヒーと、音楽や会話を楽しみながら思い思いの時間を過ごしている高齢者は少なくなかった。安心できる居場所として根付いているようである。