シリーズ シリーズレポート「老いる日本、あとを追う世界」
韓国の高齢者の居場所「思い出プラス」

金 成垣【Profile】

[2016.11.30] 他の言語で読む : ENGLISH |

ソウル市内で高齢者が集まる町として知られる鐘路では、高齢者向けの支援活動が充実している。中でも民間企業の社会貢献活動による支援を受け、安価に飲食と憩いの場を提供する「思い出プラス」は、高齢者同士の交流促進や雇用創出などの効果を生み、注目されている。

大きな敬老堂と呼ばれるパゴダ公園

鍾路は、李氏朝鮮王朝がソウルを首都としてから、400年以上、政治、経済、文化、教育の中心地として発展してきた。20世紀後半以降になると、政府主導の都市開発政策により、漢江の南(江南)が開発され新市街として発展することとなり、漢江の北(江北)に位置する鍾路は古き良き時代の風景が残る街へと変わった。旧市街の中心地であった鐘路は、現在、急速な高齢化の進展とともに、高齢者が多く集まる街となっている。

鍾路のなかでも、特に数多くの高齢者が集まるのが、パゴダ公園(タプコル公園)である。パゴダ公園は、韓国初の近代式公園で、歴史的な名所としても知られるが、近くに韓国最狭といわれる人口密集度の高いドヤ街があったこともあって、公園の中や周辺は、昔から行き場のない高齢者やホームレスがたむろする場所でもあった。そのような人々のために、長期にわたって民間団体による炊き出しなどの支援活動が実施されており、ますます多くの高齢者が集まるようになった。大きな敬老堂とも呼ばれている。

高齢者が集まるパゴダ公園。

高齢者のための居場所「思い出プラス」

パゴダ公園の周辺には、食堂や喫茶店、服屋や美容室など高齢者向けの商店街が形成されている。なかには、いわゆる貧困ビジネス的な店もあるが、政府や民間企業の支援のもとで、利潤追求より、高齢者に憩いの場を提供することに力を入れる店も多くみられる。政府や民間企業の財政支援を受けて、できるだけ安価でモノやサービスを提供しつつ、高齢者同士の交流をはかろうとしているのだ。その1つとして「思い出プラス」を紹介したい。

「思い出プラス」は、高齢者向けの映画館(「ハリウッド・クラシック」)内にあった小さい食堂が独立し、2013年9月にパゴダ公園の近くの商店街にオープンした。民間銀行の社会貢献活動による財政支援を受けて経営しており、高齢者に安い食事とお茶やコーヒーなどを提供している。厨房で料理をしたりホールでサービングをしたりする従業員もすべて高齢者であり、地域の高齢者に働く場を提供するという重要な役割も果たしている。店内は、1970~80年代を思い出させる内装で、DJが紹介する当時の音楽も人気の理由だ。食堂としてだけでなく、高齢者同士の交流も盛んに行われる場所となっている。

筆者が店を訪れたのは午後2時過ぎだったが、食事やお茶、コーヒーと、音楽や会話を楽しみながら思い思いの時間を過ごしている高齢者は少なくなかった。安心できる居場所として根付いているようである。

高齢者が思い思いに過ごす「思い出プラス」。

プロジェクトの概要について

笹川平和財団 新領域開拓基金「アジアにおける少子高齢化」事業

バナー写真=懐かしい曲で「思い出プラス」の雰囲気を演出するDJ(写真はすべて著者提供)

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  • [2016.11.30]

明治学院大学社会学部准教授。韓国ソウル生まれ。延世大学社会福祉学科卒業、東京大学大学院人文社会系研究科の修士・博士課程修了。博士(社会学)。東京大学社会科学研究所、東京経済大学経済学部を経て現職。専攻は福祉社会学、比較福祉国家論。主な著書に、『後発福祉国家論——比較のなかの韓国と東アジア』(単著、東京大学出版会、2008年)、『現代の比較福祉国家論——東アジア発の新しい理論構築に向けて』(単編、ミネルヴァ書房、2010年)、『若者問題と教育・雇用・社会保障——東アジアと周縁から考える』(共著、法政大学出版局、2011年)、『世界ははぜ社会保障制度を創ったのか——主要9カ国の比較研究』(共著、ミネルヴァ書房、2014年)『福祉国家の日韓比較——「後発国」における雇用保障・社会保障』(明石書店、2016年)などがある。

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