シリーズレポート「老いる日本、あとを追う世界」

フィリピン高齢者の健康と生活をサポートするNGO

社会

フィリピンも人口が1億人に達し、高齢化が進んできた。政府や自治体は高齢者支援の制度の整備を進めてはいるものの、予算の不足などから、NGOとの連携によるボランティア活動への期待が高まっている。

社会福祉予算の不足で高まるNGOとの連携への期待

人口が1億人に到達したフィリピンにも、高齢化の波が迫っている。フィリピン統計局によると、全人口に占める60歳以上の人口の割合は、2010年の段階で6.8%であった。その割合は、2030年までに11.5%になると予測されている。

2012年のJICAの報告書によると、政府予算に占める社会分野全体の支出は増加傾向にあり、2008年には予算の32%が社会分野に割り当てられた。しかし、その内訳をみると、教育・文化・人間開発分野が社会分野支出の半分を占め、社会保障・社会福祉分野の支出は、約6%であった。社会福祉分野における予算が少ないフィリピンでは、高齢者福祉においても、地方自治体とNGOとの連携が必要であると共和国法(Republic act No. 9994)にも記載されている。

高齢者の健康と栄養の維持、自然災害からの復興支援活動

フィリピンでは、さまざまなNGOやNPOが活動しているが、高齢者を対象として活動する組織の数は少ない。Coalition of Services of the Elderly, Inc. (COSE)は、高齢者への支援を1989年から展開してきた。

COSEは、高齢者の健康と栄養サポートのプログラムを展開しており、政府と連携して在宅介護、高齢者の精神面の支援のほか、アクティブエイジングのサポートに携わるヘルスボランティアを育成している。

COSEメンバーたち(前列)。

また、COSEは2013年の台風「ハイヤン」で被災したネグロス、セブ、レイテにおける高齢者支援にも力を入れている。国際NGO「HelpAge International」と連携して、高齢者のための組織づくり、モバイルヘルスケア、そして共有の農場づくり「デモ・ファーム」を展開中だ。

組織づくりのプログラムでは、高齢者は組織運営を通じて自らの現状を認識し、メンバーとともに課題への解決策を見出す課程で、積極的に社会に参加することができる。

モバイルヘルスケアは、バイクを利用してへき地に医療を提供する活動で、COSE、HelpAge、そして地方政府の協力のもと、2014年12月に、セブとレイテで導入された。10カ月で約1万3,000人の高齢者がこのサービスを利用した。

デモ・ファームは、台風により収入が激減したココナツ農家を対象に、年に複数回の収穫が可能な作物に転作するための技術支援プロジェクトだ。新技術を習得した農家が、地域の高齢者とともにデモ・ファームを開墾する。参加した高齢者たちにとっては、農作業を通じて交流を深めたり、収入を得たりなど、自立に向けて効果のある活動となっている。

社会の一員として参加できるような支援を

COSEとHelpAgeの高齢者支援は、高齢者のニーズに沿って展開されていると言える。健康面で不安を抱える高齢者に対しては行政と連携し医療提供者への訓練を支援し、日常生活動作に支障のない高齢者や持病のない高齢者に対しては、高齢者の自立を目指した支援が行われている。虚弱な高齢者に対する介護とサービスの提供と並行して、高齢者が社会の一員として参加できるような支援の形は、今後、他の途上国でも求められるだろう。

プロジェクトの概要について

笹川平和財団 新領域開拓基金「アジアにおける少子高齢化」事業

バナー写真=アクティブエイジング(COSE提供)。その他の写真はJasebell Bañares De Jesus, R.N and General, Jojana Christine Pの撮影(すべて著者提供)

少子高齢化 フィリピン アジア 笹川平和財団