シリーズ シリーズレポート「老いる日本、あとを追う世界」
ベトナムの高齢者福祉と仏教

土居 義範【Profile】

[2017.03.15] 他の言語で読む : ENGLISH |

社会保障制度の整っていないベトナムでは、高齢者福祉において大乗仏教が一定の役割を果たしている。尼僧たちの支援を受けて高齢者たちが暮らす中部の古都フエの寺院を訪ねた。

仏教寺院が提供する高齢者福祉サービス

ベトナム中部の古都、フエ市の小高い丘にある妙圓寺(Chùa Diệu Viên)は、高齢者福祉を無償で提供しているお寺の一つだ。元々は、ベトナム戦争によって行き場所を失った高齢者を世話することから始まった。現在、妙圓寺には60代から90代まで23人の高齢者(すべて女性)が共同生活をしている。

妙圓寺での生活は日本の特別養護老人ホームに近いイメージである。しかし、専門の介護職は一人もおらず、またペットの犬が放し飼いにされているなど、いわゆる介護施設という感じではない。エアコンやテレビといった電子機器はないため、日本と比べれば質素な生活だが、閑静な場所にあり貧しさはあまり感じられなかった。

閑静で緑豊かな敷地

仏教の教えを実践する生活を選択した人々

お寺で暮らす高齢者は、身寄りのない人が大半だが、必ずしも家族に見捨てられてお寺にたどり着いたわけではない。生涯独身で通してきたというVさんは、自ら人生の最期に生活する場所としてお寺を選び、妙圓寺に行きたいと家族に希望を伝えてきたと言う。集団で生活していることもあり、日本でよくニュースになる高齢者の孤独死といった問題とも無縁である。

高齢者の日常の介護は、訓練を受けた10人の尼僧によって行われていて、敷地内に小規模なクリニックが併設されている。医師は常駐していないものの、病気の際は、尼僧が看護にあたり、対応できないものは、近くの病院に依頼することになっている。

治療費は高齢者本人が支払うことになっているが、支払うことができない人も多く、妙圓寺が寄付金を募って対応している。高齢者が亡くなった場合には、遺体を特別な部屋に数日間安置し、尼僧が死者を伴う儀式を行うなど、最期の看取りまで妙圓寺が責任を持つ。

食事については、比較的健康な高齢者が持ち回りで担当し、質素ながらも毎日健康的な食事ができる。76歳の高齢者の一人は「非常に満足している」と笑顔で語ってくれた。日常の食材は、敷地内の家庭菜園や、地域の企業の定期的な寄付に依存している。

高齢者同士のトラブルは、尼僧が仲介役になり、仏教の教えを諭すなど、日常の生活で仏教の教えを実践する場にもなっている。

「妙圓寺」での生活を満足気に語っていたVさん(左)

精神的に豊かな環境で余生を過ごす

インタビュー後の雑談で「将来どこにも行くところがなかったら、この施設に入れてくれるか」と尋ねたところ、性別・国籍などで受け入れを拒否することはないということであった。「意思疎通が大変だから、まずはベトナム語をきちんと勉強してね」という条件はつけられたが。

何を幸せと思うか、というQuality of Life(QOL)は人によって異なるが、衣食住が保障され、人とのつながりが保たれ、精神的にも豊かな環境で余生を過ごすには、一つの理想的な場所のようにさえ感じた。高齢者介護を担当している尼僧の無償のやさしさに触れ、心暖まる一日であった。

ゆったりとした時間が流れる古都フエの風景

プロジェクトの概要について

笹川平和財団 新領域開拓基金「アジアにおける少子高齢化」事業

バナー写真=高齢者福祉サービスを提供している「妙圓寺」(写真はすべて著者提供)

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  • [2017.03.15]

笹川平和財団 国際事業企画部研究員。2005年、カリフォルニア大学バークレイ校卒業後、株式会社東芝に入り、USB Flash Memoryの海外営業企画を担当。退社後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊(ベトナムおよびドミニカ国にて活動)、在トリニダード・トバゴ日本国大使館勤務などを経て、2016年から公益財団法人 笹川平和財団国際事業企画部「アジアにおける少子高齢化」事業担当。企業活動による経済利益と社会利益の両立や超高齢化社会におけるインフォーマルな「地域力」の再生・活用に関心を持つ。

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