シリーズ シリーズレポート「老いる日本、あとを追う世界」
高齢化の世界最先端を走る日本が向かう未来
[2017.04.15] 他の言語で読む : ENGLISH |

かつて、1954年から1973年にかけての日本の高度経済成長は世界に衝撃を与え、その後発展途上地域の経済発展のモデルにもなった。だが今度は、資産バブル崩壊後の1990 年代後半からデフレに突入していまだに抜けきれず、欧米諸国を「明日はわが身」という不安に陥れた。そして今、世界の最先端を走る日本の少子化高齢化がどこへ向かうのか、あとを追う国々は固唾をのんで見守っている。シリーズの最終回にあたって、空前の高齢化に突入しつつある世界の現状と将来を最新のデータで整理したい。

延びる寿命

「今日直面している世界人口の高齢化は、人類史上前例のないものである。高齢化は今後長期間にわたってつづき、かつてのように若者が多い人口構造に戻ることはない。急速な高齢化に対する備えを考えるべきときだ」

国連は2016年6月高齢化する世界人口:1950-2050(英語版)と題する報告書を発表し、その中で以上のような警告を発した。米国国立高齢化研究所(NIA)に委嘱して、先進・途上両地域を問わず、平均余命、性差、健康、死亡率、医療制度、労働力、年金、貧困など世界の抱える高齢化の問題を包括的に分析したものだ。

近年の急激な高齢化は「平均余命の延びによる高齢人口の増加」と「少子化の進行による若年人口の減少」の2つが重なって発生したものだ。この背景にあるのは、生活環境や栄養面などの改善と医療技術の進歩である。

世界の高齢者の人口に占める割合は、他のどの年齢層よりも急速に増加している。国連人口推計(2015年改訂版)によると、世界の総人口に占める65歳以上は、2015年には8.5パーセントだったのが、2050年には21.6パーセントになる。日本は26.3パーセントから36.3パーセントになり、依然として世界の高齢化の最先端を走っていることに変わりはない。

2020年までには、歴史上はじめて65歳以上の人口が5歳未満の子どもの数を上回る。65歳以上の世界人口は2015年時点で6億1000万人だが、2050年までに3倍以上の21億人に増加すると予測される。80歳以上の「超高齢者」も、2015から2050年までに3倍以上の4億4660万人に増加する。

世界の平均余命(男女計)は1950年から2015年の間に、51歳から71歳に約20年も延びた。これが2050年までにさらに7歳近く延びて78歳近くになると予想される。つまり、人類は100年の間に27歳も長生きするようになる。日本は2050年までに83.3歳から88.1歳に延びる。

高齢化は、21世紀前半は先進地域を中心とした問題だが、後半は途上地域にとっても大きな負担になってくる。それまでに、公的な年金や医療補助などの高齢者福祉制度が整備されるかは、国によって大きなバラつきが出るだろう。

ただ、膨大な資金が必要なことから、多くの低所得国では実効ある制度の構築や実施は困難とみられ、深刻な社会問題を引き起こすことは避けられない。寿命の延びは、不老長寿を追い求めてきた人類にとっては大きな勝利だったが、それが高齢化となって跳ね返り人類の新たな足かせになってきた。

死亡率の低下

少子化の進行はベビーブームとの関係が深い。第二次世界大戦終結後、海外から兵士や居住者が帰還し、国内でも戦争で産み控えていた人たちが子どもをつくった。このため1946年以降、戦争に関与した国々でその前後世代に比べて一時的に人口が急増する現象が起きた。ベビーブームである。米国では1946~1964年の19年間、英仏では1946~1974年の29年間、ドイツでは1955~1967年の13年間がその時代だ。

ところが、日本では1947~1949年のわずか3年間で終わった。この間の出生数は800万人程度。いわゆる「団塊世代」だ。十数年後、この世代が生産人口(15~64歳)に達して、1950年代半ばからはじまる高度経済成長の担い手になっていく。これが、労働力増加率が人口増加率を上回る「人口のボーナス」で、経済成長を後押ししたとされる。

1950年から1959年の10年間に日本の人口は激変した。女性が生涯に産む子ども数である合計特殊出生率(TFR)は、4.32から2.04へと半減した。産業は2次、3次産業へ移行し、子どもの高学歴化や教育期間の長期化に伴って晩婚化も進んだ。

生活環境や公衆衛生の整備によって、乳幼児死亡の低下に弾みがついた。歴史を振り返ってみると、乳児死亡率が下がると、将来を考えて子どもを多くつくる必要がなくなって出生率が低下する。その結果、養育・教育費の負担が減って経済の発展をうながす。日本の乳児死亡率は1960年には1000人当たり39.8人もあったのが、1975年には19人になり、2015年には1.9人で世界の最低水準になった。

経済の成長につれて出生率が低下して若年人口が減少していく。ついに1990年、日本では早くも人口ボーナスが終わった。短かったベビーブームのツケでもある。他のアジア諸国では、20年遅れて、2010~2015年にシンガポール、タイ、中国、韓国などがボーナスを失った。

日本は、1970年代末から若年人口の減少がはじまり、少子化問題がクローズアップされた。少子化に伴う労働力供給の減少、年金や保険などの国民負担率の上昇、家族の形態の変化などが重荷になってきた。さらに経済への影響も懸念されるようになった。人が減れば、少なくとも既存の消費市場は縮み、子どもに関連する産業の収益は悪化する。その結果、税収が減って国家財政が維持できなくなり、社会保障などの制度は崩壊していく。

少子化は日本だけではなく、多くの先進国が抱えている問題だ。特に、欧州や東アジアでは日本と同様に少子化が進行している。世界の国・地域のTFRは過去半世紀で半減して、2.45にまで下がった。さらに減りつづけて2050年には2.2人になる予想だ。15年時点で最低は台湾の1.12。日本も1.43で204ヵ国・地域中189位と下から数えた方が早い。先進地域では、人口が増減なしの静止状態になるのは、TFRが 2.07とされる。

高齢化への挑戦

報告書を取りまとめたNIAのR. J.ホーデスNIA所長は「寿命が延びたといっても、必ずしも彼らが健康的に生活しているという意味ではない。老齢人口の増加は、これから取り組まねばならない多くの課題が増えることを意味する。急速な高齢化は、短期・長期の医療ニーズ、年金制度、労働力不足、交通体系の整備など国民生活に大きな影響を及ぼすからだ」と述べている。

全世界の病気の23%は65歳以上に集中している。この負担の多くは、がん、慢性呼吸器疾患、心臓病、関節痛、そして認が知症などの精神障害だ。この結果、患者のみならずその家族、さらに国家的な医療システムや経済にも悪影響がおよぶ。

2015年の調査では、がんは世界で1750万人に発症して870万人が死亡した。2005年からの10年間でがんの死亡は33%増加したが、その16%は高齢化によるもの、13%は人口増によるものとされる。男性では前立腺がんがもっとも多く(160万人)、次いで気管支・肺がん(120万人)だった。女性では乳がんによる死亡(240万人)がもっとも多かった。

国際アルツハイマー病協会が発表した「世界アルツハイマー報告書2015」によると、世界の認知症患者の数は約4680万人で、これが2050年には1億3200万人に達し、現在の3倍近くになる可能性がある。日本でも2025年には認知症患者が700万人を超え、高齢者の5人に1人かかるとする予測を厚労省が発表している。

世界が注目する日本の取り組み

日本は世界のどの国も経験したことのない「長寿大国」の道を走りつづけている。2050年には1人の生産年齢人口(15~64歳)が、ほぼ1人の若年(14歳以下)と高齢(65歳以上)の従属人口を支えるという異常事態になる。

2050年に日本人の平均寿命は、男性で84.9歳、女性は90.3歳。2050年までに新たに566万人の高齢者が増える。都市では、2.5人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上。100歳以上人口は15年の5万3000人から44万1000人に増える。

このときに、日本はどうなっているのだろう。その未来図は、「安定している」か「破綻している」の両極端の意見に分かれる。日本の技術力は高く潜在的女性労働力もあり、ロボットの導入や大規模な移民受け入れでしのげる、という楽観論がある。

その一方で、人口が減るので所得税が減る、会社も減るので法人税が減る。他方、介護・医療・保険などの社会保障費は急増する。すでに持続可能な社会の維持は困難、という悲観論も根強い。今のところ決定的な少子高齢化を止める手立てはない。国際社会は「日本なら何とか解決策を見いだすだろう」と見つめている状況だ。

この1年間で日本の人口は29万人も減った。2016年の日本の出生数は1899年統計開始以降はじめて100万人を割り込んだ。急激な人口変動に対してさまざまな警鐘が鳴らされているが、国民の間にもうひとつ危機感が感じられない。それがもっとも大きな問題かもしれない。

プロジェクトの概要について

笹川平和財団 新領域開拓基金「アジアにおける少子高齢化」事業

バナー写真=小浜島のばあちゃん合唱団「KBG84」(AFP=時事)

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