シリーズ 日本のヤクザは今
山口組が3分裂:激変するヤクザの世界
[2017.09.04] 他の言語で読む : Русский |

日本最大の指定暴力団「山口組」が3つに分裂した状態になって、4カ月が過ぎた。かつてだったら報復が報復を呼び、あっという間に血で血を洗う一大抗争になっていてもおかしくない状況だが、取り締まりの強化や法律の整備もあって、表面上はお互いがうかつに手を出せない膠着状態が続く。それでも水面下では、静かに地殻変動が進んでいるのは間違いない。分裂によって日本の暴力団はどう変わったのか。

盤石の体制を誇ってきた山口組が分裂し、日本のヤクザ社会の力学が変わりつつある。

「六代目山口組」から2015年8月末に分裂した「神戸山口組」、さらに神戸山口組から今年4月末に分裂した「任侠(にんきょう)山口組」、という3団体の対立関係が続いている。ただ、暴力団対策法などの法整備が進んだ現状では、それぞれが全面的な武力衝突に至れば、お互いの組織壊滅につながりかねず、基本的には小競り合い程度で大きな衝突は起きていない。不思議な“均衡状態”が保たれている状態だ。

「2年前に分裂してからは、ものすごく気を使っている。とにかく神戸山口組と変なことでぶつからないように、酒を飲みに行く回数も劇的に減った。行く場所がないから自宅や事務所、知人の会社とかで缶ビールを飲むばかり。たまに外に行っても親戚の店や若い衆の内妻の店とか、内輪の範囲ですよ」

こうぼやくのは、六代目山口組傘下の組員だ。対立関係にある神戸山口組傘下の組員も、こう語る。

「最近は、飲みやカラオケなども、もっぱら昼間。夜はトラブルに巻き込まれやすいからと、窮屈で仕方ない。夜は夜で突発的なもめ事で対応をしなきゃいけないこともあるし、ゆっくり寝ていられない。携帯電話を常に枕元に置いている」

山口組分裂をめぐる経緯

2005年 弘道会(本部・名古屋市)出身の司忍(本名・篠田建市)6代目組長が就任
15年8月 山口組が分裂。離脱派が神戸山口組(井上邦雄組長)を結成
16年5月 両組の幹部が和解交渉をするも決裂
8月 分裂1年で殺人4件を含む86の事件が起き、延べ976人を逮捕
17年4月 神戸山口組が分裂。離脱派が新組織「任侠団体山口組」(織田絆誠代表)を結成(8月に「任侠山口組」に名称変更)。離脱派は、会費をめぐる対応などで神戸山口組組長に不満

「分裂」がもたらした西vs東の対立構図

警察庁の統計などによると、2年前の分裂以降、六代目山口組と神戸山口組による抗争事件は約100件。組事務所へのダンプカー突入事件(16年3月)や、神戸山口組傘下組織の幹部が射殺される事件(同5月)などが起き、逮捕者は計2000人に及ぶ。今年6月6日には、兵庫県警が神戸山口組の井上邦雄組長を、4年前に知人女性名義で携帯電話を機種変更したという“微罪”で逮捕し、その後、京都府警が1月に起きた別の傷害容疑で再逮捕した。井上組長は7月に処分保留で釈放されたが、警察当局が執拗(しつよう)に攻勢を強めているのは、30年前の「山一抗争」(1985~87年)の記憶があるからだろう。

2016年5月15日、名古屋市中区であった神戸山口組傘下組織幹部の射殺事件で、現場付近を捜査する愛知県警の捜査員(時事)

山口組の後継争いから組織が分裂し、山口組四代目射殺事件に発展した山一抗争は、終結までに全国で約320件の対立事件が発生し、一般市民を含め95人が死傷した。ただ、このときと違うのは、当時山口組から離脱した「一和会」が賛同組員の切り崩しに遭い、勢力を失っていったのに対し、今回の分裂では離脱した神戸山口組が一定の勢力を保っていることだ。

警察庁の統計によると、16年末時点で、分裂後の六代目山口組の構成員は依然として全国最大の約5200人、神戸山口組も約2600人(任侠山口組の離脱前)と全国で3番目の規模を誇る。神戸山口組の中心は、従来の山口組の最大派閥だった山健組であり、組を象徴する紋章の「代紋」も変更せず、自ら“本流”を主張している。

全国の指定暴力団(22団体)

名称(所在地) 代表者 構成員数
六代目山口組(兵庫県神戸市) 司忍(本名・篠田建市) 約5200人
住吉会(東京都港区) 西口茂男 約3100人
神戸山口組(兵庫県淡路市) 井上邦雄 約2600人
稲川会(東京都港区) 清田次郎(本名・辛炳圭) 約2500人
松葉会(東京都台東区) 荻野義朗 約650人
極東会(東京都豊島区) 松山眞一(本名・曺圭化) 約590人
道仁会(福岡県久留米市) 小林哲治 約540人
五代目工藤会(福岡県北九州市) 野村悟 約420人
旭琉会(沖縄県沖縄市) 富永清 約360人
浪川会(福岡県大牟田市) 浪川政浩(本名・朴政浩) 約240人
五代目共政会(広島県広島市) 守屋輯 約180人
三代目福博会(福岡県福岡市) 長岡寅夫(本名・金寅純) 約150人
双愛会(千葉県市原市) 椎塚宣 約140人
二代目東組(大阪府大阪市) 滝本博司 約140人
太州会(福岡県田川市) 日高博 約130人
六代目会津小鉄会(京都府京都市) 馬場美次(引退) 約110人
三代目侠道会(広島県尾道市) 池澤望(本名・渡邊望) 約100人
七代目合田一家(山口県下関市) 末広誠(本名・金教煥) 約90人
五代目浅野組(岡山県笠岡市) 中岡豊 約90人
四代目小桜一家(鹿児島県鹿児島市) 平岡喜榮 約70人
二代目親和会(香川県高松市) 𠮷良博文 約40人
九代目酒梅組(大阪府大阪市) 吉村光男(本名・吉村三男) 約30人

※警察庁組織犯罪対策部「平成28年における組織犯罪の情勢」などから作成。データは2016年末時点

離脱派の力が温存された理由の一つは、全国の友好団体への根回しがうまくいったこともあるだろう。『王国の崩壊―山口組分裂の深層』などの著書がある元山口組系幹部で作家の桜井健治氏は、「関西から西は、神戸山口組に親近感を持っている組が多い」と語る。大阪の九代目酒梅組や岡山の五代目浅野組などは、これまで六代目山口組の親戚団体(同盟関係)だったが、分裂後は神戸山口組に近づいているという。

一方、六代目山口組は分裂後、東日本の団体との友好関係を深める方針を強めているという。「分裂前、関東の組織は山口組に対抗意識を持っていましたが、それが消えつつあります。もともと友好団体だった稲川会、松葉会が仲介し、住吉会も六代目山口組との距離を縮めた。内部には神戸派も少なからずいて異論も出ているものの、表面的には落ち着いています」(桜井氏)

大きな構図として、分裂の結果、関西を中心として西vs東の対立構造が押し進められた形だが、「暴対法や暴力団排除条例に加え、この7月に施行されたテロ等準備罪(いわゆる共謀罪)が現実的な脅威となって身動きが取れない状況になっている」(桜井氏)という。表向き抗争ができないこの状況が、ある意味、“力の均衡”を生んでいるのも事実だろう。

変質するヤクザの「掟」

こうした流れのなかで、ヤクザ社会の「掟」まで変質されようとしている。

ヤクザ組織をヤクザ組織たらしめているのは「直参(じきさん)制度」である。直参とはもともと、江戸時代の徳川幕府に直属した旗本・御家人のことを言うが、ヤクザの世界では親分から直接「盃」(さかずき)を受けた組員のことを指す。暴力団社会では盃によって「親子」あるいは「兄弟」の擬似的な血縁関係を結び、絶対的な関係性を固めている。

所属していた組の親分から盃を受けながら組を割って出るのは、いわゆる「盃を返す(逆盃)」行為で、親分が絶対であるヤクザ社会では認められない。ただ、それを乗り越える「大義」がある、というのが離脱派の主張だ。六代目山口組は、離脱した神戸山口組の幹部らを「絶縁処分」とし、神戸山口組はさらに離脱した任侠山口組の幹部らを「絶縁処分」とした。

本来、ヤクザ組織において「絶縁」「破門」は追放処分であり、処分を受けた者はヤクザ社会では生きていけなくなる。処分を受けた者と付き合えば、それはすなわち、処分をした組への敵対行為とみなされるためだ。それがヤクザ社会の「鉄の掟」であり、その厳格なルールのもとで秩序が保たれてきた面がある。

ところが、一連の山口組の分裂によって、この秩序が崩壊しかねない状況に陥っている。

先の桜井氏が指摘する。「これまで破門、絶縁は絶対的なケジメでした。それが、何の効力もなくなってしまった。破門されようが絶縁されようが、対立組織に行けば迎えてもらえる。破門も絶縁も怖くなくなれば、もうやりたい放題です。もはやルールが変わってしまった。このタガがはずれてしまったことは不安要素です」。

もめ事をしているヒマはない

加えて、現在どこの暴力団も苦しんでいるのが組織力の低下だ。

全体状況としては、捜査当局の集中的な取り締まりなどによって全国の暴力団の規模は縮小の一途をたどっている。1990年代初頭に7万人近くいた暴力団構成員の人数は、2016年末時点で1万8100人。かつて準構成員も含めて「4万人軍団」と言われた山口組は、分裂の影響もあって約4分の1まで勢力が落ち込んだ。

絶対的な人数が減っている上に、分裂がさらに追い打ちをかけた。組員からは、こんな声も漏れる。

「いつどんなきっかけで抗争になるかわからないから頭数の確保は重要なのだが、うちの事務所でも組員はピーク時の5分の1以下という有り様。本家の駐車場当番に人を出せないという直参の組も、いくつもある」(六代目山口組)

「こっちでも、山健組の一部が離脱して任侠山口組となり、士気の低下は事実。人数も足りていなくて、幹部でも子分が数人、という人がいる状況だ」(神戸山口組)

こうした窮状に、現場の組員たちの間では「無駄にもめても何もいいことない」という意識が強まっているようだ。六代目山口組傘下のある組員が語る。

「割れたのは上の意向で、下は関係ないし、よく分からない。もめそうになっても、現場同士で話せばお互い本音は同じだからスムーズだし、みんな同じ業界だからどこかで兄弟分の知り合いとつながるのがヤクザの世界や」

例えば、この時期ならば夏祭りの屋台などの商売に行くと結局、六代目山口組、神戸山口組、任侠山口組が呉越同舟で営業していることもあるという。

「法律が厳しくなってマーケットがどんどん小さくなっている中、ヤクザ同士でもめ事をしているヒマはなくて、組織は違っても現場は結束という感じもある」

神戸山口組の組員も、思いは同じだ。

「現場レベルでは六代目山口組と“共存共栄”って感じです。暗黙の了解というのかな。街で会っても、お互い目で合図して事を荒立てないようにする。うちも向こうも、任侠山口組も代紋は同じ。だったら、ケンカはやめて早く一つに戻ってほしいですよ。もうお互いにいがみ合っているのではなく、ヤクザという一つのカテゴリーで物事を考えなければいけない気がします」

取材・文:POWER NEWS編集部

バナー写真:指定暴力団「六代目山口組」のトップ、司忍(本名・篠田建市)組長=2011年4月9日、神戸市のJR新神戸駅(時事)

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