福島第一原発「汚染水」対応
政治・外交
東京電力福島第一原子力発電所事故が発生して2年半以上が経過した。しかし、放射性物質に汚染された水が地面や海に漏れる深刻な事態は依然解消できていないのが現実だ。
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経緯
汚染水問題は2011年3月11日の事故直後からの懸案だった。同年4月に2号機取水口付近のコンクリート亀裂部から高濃度汚染水が海に流出しているのが見つかったのが最初だった。
今年4月には汚染水を大量保管する地下貯水槽からの漏出が発覚。7月には汚染水を含む地下水が1日当たり約300トン海に流出していることが判明。8月には地上タンクから約300トンの汚染水漏れが明らかになった。
東電の対応は後手に回り、状況は悪化するばかり。原子力規制委員会は8月21日、汚染水漏れ事故を国際原子力事象評価尽度(INES)で「レベル3」(重大な異常事象)と認定。国家の信頼性に関わる事態を憂慮した日本政府は9月3日、汚染水対策の基本方針と総合対策を決定。「東電任せにせず、政府が前面に立ち、解決に当たる」(安倍晋三首相)方針を表明し、本格的な取り組みに乗り出した。
*グレー地は「発生・発覚した事象」
*青地は「東電の対応」
*黄地は「日本政府の対策」
日付 | 事象 |
---|---|
2011年 | |
3.11 | 地震発生。1~3号機自動停止。津波により1、2号機の緊急炉心冷却システム停止 |
3.12 | 1号機で水素爆発、建屋上部吹き飛ぶ。1号機に海水注入開始 |
3.13 | 3号機、バッテリー切れのため冷却給水がストップ |
3.14 | 3号機で水素爆発、建物上部崩壊。2号機で核燃料棒が原子炉内の水からすべて露出 |
3.15 | 2号機で爆発音。4号機の使用済み燃料プールで火災発生 |
3.17 | 陸自のヘリ、3号機に7.5トンの水投下。自衛隊消防車も地上から放水 |
3.24 | 3号機建屋水たまりで作業員3人が被ばく |
3.27 | 1、2、3号機の坑道で放射性物質含む水検出 |
4.2 | 2号機取水口付近のコンクリート亀裂から高濃度汚染水が海に流出しているのが判明 |
4.4 | 低濃度汚染水の海への放出開始 |
4.5 | 2号機付近の海水から国の基準の750万倍の放射性ヨウ素、同200万倍の放射性セシウムを検出したと発表 |
4.6 | 2号機取水口からの海への流水、止水剤注入で止める |
4.14 | 取水口付近の海水を仕切る「シルトフェンス」設置作業終了 |
4.17 | 事故収束に向けた工程表を発表 |
4.18 | 2号機建屋地下や坑道にたまった高濃度汚染水の移送開始 |
5.11 | 3号機取水口付近で高濃度汚染水の海への流出見つかる |
6.17 | 工程表の改訂版を公表。「中長期課題」に遮水壁の設置を盛り込む |
8.1 | 海側の遮水壁を陸側に先駆けて着工すると発表(14年9月完成予定) |
10.26 | 陸側の遮水壁設置見送り発表 |
12.16 | 野田首相、「冷温停止状態。事故そのものは収束」と宣言 |
2013年 | |
3.30 | 放射性物質除去装置「アルプス」の試運転開始(トラブルで6月運転停止) |
4.5 | 汚染水を大量保管する地下貯水槽からの汚染水漏出見つかる |
4.16 | 汚染水の地上タンクへの移送開始(6.9完了) |
4.26 | 経産省、汚染水対策委で検討開始 |
5.30 | 経産省委、陸側遮水壁(凍土方式)の設置方針取りまとめ |
6.19 | 1、2号機タービン建屋東側の地下水から高濃度トリチウム、ストロンチウムの検出発表。海への流出の可能性は否定 |
7.10 | 原子力規制委、「海洋への拡散が強く疑われる」と指摘 |
7.22 | 汚染水を含む地下水の開渠内(海)への流出を一転認める |
8.2 | 原子力規制委、汚染水対策検討WG初会合 |
8.7 | 資源エネ庁、1-4号機には1日当たり約1000㌧の地下水が流れ込み、このうち約400㌧が建屋に流入。残り600㌧のうち300㌧がトレンチ内の汚染源に触れ、汚染水として海に放出されているとの試算結果公表。 |
8.19 | 地上タンクで汚染水が漏れたと思われる水たまり見つかる |
原子力規制委、汚染水漏れを「レベル1」と暫定評価 | |
8.20 | 地上タンクから漏れた汚染水、300㌧と発表 |
8.21 | 漏れたタンク近くの排水溝で毎時6㍉シーベルトの放射能を検出したと発表。「汚染水が海に流出した可能性は否定できない」と説明。地下水の海流出で漏れ出た放射性ストロンチウムは累計で最大10兆ベクレルとの試算結果発表 |
原子力規制委、汚染水漏れ評価の「レベル3」への引き上げ検討 | |
8.22 | トレンチ内の高濃度汚染水くみ上げ開始 |
9.3 | 原子力災害対策本部、汚染水対策の基本方針と総合対策決定。安倍首相、東電任せにせず、政府が前面に立ち、解決に当たる方針表明。関係閣僚会議を設置し、財政措置(470億円)も講じる |
9.7 | 安倍首相、IOC総会で、「フクシマの状況はコントロールされている」と言明。汚染水対策は国際公約に |
9.18 | 原子力規制委、福島県沖で放射性セシウム濃度海底測定調査開始 |
9.25 | 福島県沖で底引き網漁の試験操業再開 |
9.27 | アルプス1系統の試運転再開(11月までに3系統に) |
衆院経済産業委、汚染水問題で閉会中審議 |
政府の汚染水対策の3つの基本方針
- 汚染源を取り除く
- 汚染源に水を近づけない
- 汚染水を漏らさない
緊急対策
- トレンチ(配管、電線を通す地下の空間)内の高濃度汚染水の除去開始(13年8月22日から開始)
- 水ガラスによる汚染エリアの地盤改良(13年8月9日に一部完了)、アスファルト等による地表の舗装(13年10月から順次開始)、地下水のくみ上げ(13年8月9日から開始)
- 山側から地下水をくみ上げ(地下水バイパス)(13年3月に設置完了、稼働開始時期は調整中)
抜本対策(今後1~2年)
- サブドレン(建屋近辺の井戸)による地下水くみ上げ(14年9月ごろ設置完了予定)
- 海側遮蔽壁の設置(現在一部設置済み。14年9月完成予定)
- 凍土方式による陸側遮水壁の設置(14年度中をめどに運用開始)
- より処理効率の高い高濃度汚染水の浄化処理設備を整備
(バナー写真提供=東京電力)