シリーズ Japan Data
メッセージから見る、オバマ米大統領アジア歴訪
[2014.05.01] 他の言語で読む : ENGLISH |

TPP日米交渉最終合意の先延ばし、未曽有の海難事故で首脳会談どころではなかった韓国訪問などと、すべてが順調とはいかなかったが、22年ぶりの米軍のフィリピン回帰を決めるなど、アジアの地固めという目標は着実に進めた。

アジア重視政策(リバランス)を継続・強化

オバマ米大統領が2014年4月23〜29日まで日本、韓国、マレーシア、フィリピンのアジア4カ国を歴訪した。米政府は今回のアジア歴訪を外交、経済、安全保障面でアジア太平洋地域への関与を強化する一環と位置付け、各国首脳と精力的に会談した。オバマ政権のアジア重視のリバランス(再均衡)政策に対する疑念が広がっていた中で、訪問国との外交・安保関係強化を再確認し、アジア太平洋政策へのコミットメントを改めて明確にした。

「尖閣防衛」を共同声明に明記、中国は反発

オバマ大統領の訪日(4月23〜25日)は米国大統領として、クリントン元大統領以来18年ぶりの国賓としての訪日。オバマ大統領自身の訪日は3度目で、同月24日に安倍晋三首相と日米首脳会談を行うとともに、厳戒態勢の中で宮中晩さん会や明治神宮での流鏑馬、日本科学未来館の見学など過密スケジュールをこなした。

日米首脳会談の最大の焦点は、日中関係を含む安保防衛問題とTPP(アジア太平洋パートナーシップ協定)交渉をめぐる日米交渉。

オバマ大統領は首脳会談では尖閣諸島をめぐる日中紛争について、「日中双方は平和的に外交努力で問題解決をすることが重要。事態をエスカレートさせるのではなく過激な発言を控え、挑発的な行動をとらず、日中は信頼醸成措置をとるべきだ」と表明した。同時に「最終的な領有権の決定に関しては、米国の立場は示さない」とする従来の米政府の姿勢を示した。一方、同大統領は共同記者会見で、世界第2の経済大国となった中国について「米国は中国とも緊密な関係を維持しており、中国が平和的に台頭することは、米国も支持している」と明言し、中国への配慮もにじませた。

日米両政府が25日に発表した共同声明では、尖閣諸島を含め、「日本の施政化のすべての領域が安全保障条約第5条の適用範囲となる」ことを明記。「力による現状変更」には明確に反対することを日米は確認したとした。オバマ大統領は首脳会談で、安倍政権による集団的自衛権の憲法解釈の見直し検討を「歓迎し、支持する」と表明した。

これに対し、尖閣諸島の領有権を主張している中国政府は「釣魚島(尖閣諸島の中国名)が中国固有の領土であることは変わらない」と強く反発、日米同盟の枠組みを冷戦時代のものと批判した。

TPPは「前進する道筋」特定で継続交渉

オバマ大統氏の来日直後、安倍首相との非公式夕食会を銀座のすし屋で行った。1時間半の会食での会談内容は明らかにされていないが、大半がTPP交渉に関する話題だったとされる。大統領滞在中に、甘利明TPP担当相とフロマン米通商代表部(USTR)代表は精力的かつ断続的に閣僚交渉を行った。

その結果を盛り込んだ日米共同声明はオバマ離日直前に発表された。TPP交渉では日本側が“聖域”としている農産品5品目の関税引き下げ問題などで決着に至らなかったが、甘利・フロマン会談で合意までの詰めの作業はかなり進展した。共同声明では、「TPPに関する日米2国間の重要な課題について、前進する道筋を特定した」との表現で、交渉継続を確認した。

従軍慰安婦問題に言及、日韓関係改善を促す

オバマ大統領は日本に続き、韓国を訪問、25日の米韓首脳会談で韓国の客船セウォル号沈没の犠牲者家族に哀悼の意を表明。北朝鮮の4回目の核実験準備などについて「挑発を阻止するための米韓協力を強化する」ことで一致した。

同大統領は、朴槿恵(パク・クネ)大統領との共同記者会見で、従軍慰安婦問題についても触れ、「従軍慰安婦被害に遭った女性たちは、戦争という状況を考慮しても酷い人権侵害を受けた。被害者の声に耳を傾け、尊重すべきだ。過去を振り返りながら未来に向かうべきだ」と述べ、日本側にも注文をつけた。同時に韓国に対しても未来志向で日韓関係の改善するよう促した。朴大統領は「(日本は)村山談話や河野談話を継承するなど、安倍首相が約束したことを誠意をもって実践することが重要」と再強調した。

米大統領のマレーシア訪問は48年ぶり

オバマ大統領は韓国に続きマレーシアを訪問。現職大統領のマレーシア訪問は、ベトナム戦争中の1966年、ジョンソン大統領(当時)が訪問して以来、約48年ぶり。マレーシアは1981年から22年間続いたマハティール政権が米国に批判的な姿勢をとってきたため、両国関係がぎくしゃくしていた。

27日に行われたナジブ首相の首脳会談では、南シナ海で海洋進出を強める中国との領有権問題をめぐり、米国とマレーシアは海洋安全保障を含む包括的な協力関係の強化で合意した。ASEANと中国が策定を進める、紛争回避のための「行動規範」の完全履行が不可欠との認識でも一致。ナジブ氏は共同記者会見で、「米国によるアジアへのリバランス政策は、地域の平和と安定、繁栄に貢献するもので歓迎する」と述べた。米海軍が協力するインド洋南部でのマレーシア航空機の捜索も協議された。

フィリピンと新軍事協定で正式合意、22年ぶりに米軍回帰

最後の訪問国フィリピンでは、アキノ大統領と28日に首脳会談し、南シナ海で実効支配を強める中国を念頭に、フィリピンへの米軍派遣拡大に道を開く新軍事協定で正式合意した。有効期間は10年間で、延長も可能とした。

オバマ氏は共同記者会見で、アジア重視政策の目標について、「(海洋進出を図る)中国に反撃したり、封じ込めたりするものではない」と強調した。新軍事協定の位置付けについては「単に海洋紛争への対応ではなく、フィリピン軍を訓練し、災害など新たな脅威に対応するものだ」述べた。

米政府はアジア歴訪で一定の成果得る

4カ国歴訪を通じて、海洋進出で攻勢を強める中国問題が大きな関心事となり、対中政策が米国の大きな政策課題であることを浮き彫りにした。米政府は、習近平国家主席が提唱している「新しい大国関係」を新型の大国(G2)関係と受け止める一方で、中国の東シナ海での防空識別圏(ADIZ)設定を批判し、尖閣諸島を安保条約の適用対象と明言。さらに南シナ海での周辺国との領有権をめぐる紛争でも訪問国との協力関係を確認した。

中国の軍事的台頭が顕著となる中で、アジア太平洋地域の緊張も高まっている。今回の4カ国歴訪で、米国のアジア重視政策の継続を明確にし、訪問国との同盟関係や協力関係の強化を確認したことで、一定の成果を得ることができた。

オバマ米大統領のアジア4カ国歴訪での成果(2014年4月23~29日)

日程 訪問国 各国首脳による主な発言内容、共同声明のポイントなど
4/23~25 日本

【日米首脳の共同記者会見】
・オバマ大統領:「日中双方は平和的に外交努力で問題解決をすることが重要。事態をエスカレートさせるのではなく過激な発言を控え、挑発的な行動をとらず、日中は信頼醸成措置をとるべきだ」
・オバマ大統領:「最終的な領有権の決定に関しては、米国の立場は示さない」
・オバマ大統領:「米国は中国とも緊密な関係を維持しており、中国が平和的に台頭することを米国も支持している」

【日米共同声明】
・(日中問題)尖閣諸島を含め、日本の施政化のすべての領域が安全保障条約第5条の適用範囲となる。
・「力による現状変更」には明確に反対することを日米は確認。
・(集団的自衛権)安倍政権による集団的自衛権の憲法解釈の見直し検討を米政府は歓迎、支持する。
・(TPP問題)TPPに関する日米2国間の重要な課題について、前進する道筋を特定した。

4/25~26 韓国

【米韓首脳会談】
・北朝鮮の4回目の核実験準備などについて「挑発を阻止するための米間協力を強化」することで一致。
・朝鮮半島有事の際の戦時作戦統制件を米国から韓国へ移管する時期を2015年12月以降に延期することで合意。

【米韓首脳の共同記者会見】
・オバマ大統領:(日韓関係について)「従軍慰安婦被害に遭った女性たちは、戦争という状況を考慮しても酷い人権侵害を受けた。被害者の声に耳を傾け、尊重すべきだ。過去を振り返りながら未来に向かうべきだ」
・朴大統領:「(日本は)村山談話や河野談話を継承するなど、安倍首相が約束したことを誠意をもって実践することが重要」

4/26~28 マレーシア

【ナジブ首相との首脳会談】
・南シナ海での中国との領有権問題で、米国とマレーシアは海洋安全保障を含む包括的な協力関係の強化で合意。
・ASEANと中国が策定を進める、紛争回避のための「行動規範」の完全履行が不可欠との認識で一致。
・米国とマレーシアは、両国間の経済、安全保障、技術関連の課題について連携強化を可能にすることで合意。
・ナジブ氏:「米国によるアジアへのリバランス政策は、地域の平和と安定、繁栄に貢献するもので歓迎」(共同記者会見)

4/28~29 フィリピン

【アキノ大統領と首脳会談】
・南シナ海で実効支配を強める中国を念頭に、フィリピンへの米軍派遣拡大に道を開く新軍事協定で合意。有効期間は10年間で延長も可能。
・オバマ大統領:「(アジア政策の目標について)中国に反撃したり、封じ込めたりするものではない」(共同記者会見)新軍事協定の位置付けについては「単に海洋紛争への対応ではなく、フィリピン軍を訓練し、災害など新たな脅威に対応するものだ」

バナー写真:2014年4月23日、アジア歴訪初日、東京のすし店で安倍首相らと会食するオバマ米大統領。日米首脳の親密さをアピールすることには成功したが、その後、注目のTPP交渉は合意に至らなかった。写真提供・内閣広報室/時事。

  • [2014.05.01]
関連記事
このシリーズの他の記事

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告