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「50年後1億人維持」を国家目標に-日本の人口

政治・外交 社会

日本政府は、6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、「50年後(2060年代)に1億人程度の人口を維持する」との国家目標を初めて打ち出す。日本の人口減少は当面、出生率を高めることでカバーするとし、移民受け入れには踏み込まない方針だ。

現状では人口急減で「超高齢社会」の到来は不可避

政府の経済財政諮問会議が設置した有識者会議である「選択する未来」委員会(会長・三村明夫日本商工会議所会頭)は5月に取りまとめた中間報告で、「今後50年、人口減少社会が続くのは確実」とした上で、「現状の出生率の水準が続けば、日本の総人口は50年後には約8700万人と現在の3分の2の規模まで減少する。人口の約4割が65歳以上というかつて経験したことのない著しい『超高齢社会』になる」と警告した。

仮に、2030年までに合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)が人口を長期的に一定に保てる2.07まで急速に回復したとしても、50年後には約1億人程度にまで減少する。人口減少が止まるのは約80年後の2090年代半ばと推計されている。

とりわけ、2013年に6577万人だった労働力人口(15歳以上で就業者と完全失業者を合計した人口)は、女性や高齢者の労働参加が全く進まない最も悲観的なシナリオの場合、60年に3795万人と今より42%減少。出生率が2030年に2.07まで回復し、かつ女性がスウェーデン並みに働き、高齢者が現在(60歳引退)よりも5年長く働いたとしても、2060年には5500万人程度まで減少する見通しだ。

待ち構える「人口オーナス」と「経済の縮小スパイラル」

労働力人口の減少がさらに加速し、生産性上昇率が低迷している現状を放置すれば、日本経済全体でプラス成長を続けることは困難になる。経済規模が縮小すると、海外経済や国際金融市場の影響を受けやすくなり、経済活動の短期的な振れ幅(ボラティリティー)が大きくなる恐れがある。

また、人口に占める働く人の割合が低下し、働く人よりも支えられる人が多くなる「人口オーナス」に直面し、経済成長の重荷となっていく。さらに、急激な人口減少が国内市場の縮小をもたらし、投資先としての魅力を低下させる。人々の集積や交流を通じたイノベーションも生じにくくさせる。経済規模の縮小がいったん始まると、それがさらなる縮小を招く「縮小スパイラル」に陥る恐れがある。

地方への影響も深刻だ。地方圏から大都市圏への人口移動が現状のまま推移する場合、2040年に20~39歳の女性人口が対2010年比で5割以上減少する自治体が896市町村(全体の49.8%)、うち40年に総人口が1万人未満となる自治体が523市町村(同29.1%)となり、これらの自治体は「消滅可能性」が危惧される。東京圏は超高齢化が避けられない。

日本を待ち構えているのは国家消滅の危機だ。「人口急減・超高齢社会」への流れを断ち切るしかない。

「子ども」への資源重点配分で流れを変える

報告が訴えているのは制度、政策や人々の意識の迅速な変革だ。「若い世代や次の世代が豊かさを得て、結婚し、子どもを産み育てることができる環境をつくる」ことだ。日本の未来を変えられるのはこれしかない。それが「未来の選択」だと主張。それによって「人口が50年後も1億人程度の規模を有し、将来的に安定した人口構造を保持する国であり続けることを目指す」と“人口1億人”の目標を掲げた。

三村会長は記者会見で、「日本の社会保障の資源配分は諸外国に比べても明らかに高齢者に偏っている。より若者に対する配分を高めたい。70歳まで働くことなどで高齢者対策を重点化・効率化し、少子化対策に大胆に振り向けたい」と強調した。その線に沿って、年内をめどに最終報告を取りまとめる意向だ。

少子化関連指標の国際比較

  日本 フランス スウェーデン アメリカ
女性の平均初婚年齢 29.2
(2012)
30.8
(2011)
33.0
(2011)
25.8
(※1)
第1子出生時の母親の
平均年齢
30.3
(2012)
28.6
(2006)
29.0
(2011)
25.1
(2005)
婚外子の割合
(2008年)
2.1% 52.6% 54.7% 40.6%
長時間労働者の割合
(週49時間以上)
(2012年)
計22.7%
男性31.6%
女性10.6%
計11.6%
男性16.1%
女性6.5%
計7.6%
男性10.7%
女性4.2%
計16.4%
男性21.8%
女性10.2%
夫の家事・育児時間
(2006年)
1:00 2:30 3:21 3:13

(※1)アメリカのデータは2006年から2010年までの平均値
出所:「選択する未来」委員会

報告は、未来を変えるための時間軸として、アベノミクスを推進し経済の長期低迷から抜け出し、長期の発展過程に早期に乗ることが重要としている。特に、2020年代後半になると、団塊の世代がすべて75歳以上になり、高齢化率が3割を超え、人口減少が加速することから、東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年をめどに「少子化・高齢化」トレンドを食い止める必要があるとの認識を示した。

改革・変革を集中するための5つの処方箋

報告が改革・変革を集中させるべき対象として示した処方箋は次の5つだ。

1. 子どもを産み育てる環境を整備する

結婚した夫婦が理想的とする子どもの数は平均で約2.4人だが、現実の数は1.7人。(※1)第三子以降の出産・育児・教育への傾斜支援などの少子化対策を推進し、理想を実現できる環境を整え、出生率を2程度まで回復させる。出産・子育て支援を倍増させ、その費用は次世代につけ回しをせず、現世代で負担していく。少子化対策を出産・子育て支援よりも広がりのある「子どものための政策」の視点から見直し、「未来への投資」と位置付けて積極的に拡充を図っていく。

2. 経済を世界に開き、「創意工夫による新たな価値の創造」で成長し続ける

成長・発展は国民生活の質や水準の維持に不可欠。オープンで柔軟な制度改革により、連続したイノベーションを起こしていくとともに、ダイナミックな産業構造の変革を起こし、産業・企業の「新陳代謝・若返り」を促す。オープンな国づくりにより、世界中からヒト・モノ・カネ・情報を集積し、世界の成長・発展を取り込む。高級人材をはじめ外国人材は国民的議論を進めながら戦略的に受け入れる。

3. 年齢、性別にかかわらず能力を発揮できる社会を構築する

男女の働き方を改め、出産・育児と仕事の両立がしやすい環境をつくることで20代後半から30代にかけて女性の労働力率が低くなるM字カーブを解消する。70歳まで働く人を「新生産年齢人口」と捉え直し、元気な高齢者が活躍できる社会を実現していく。

4. 個性を活かした地域戦略を推進する

地域にある資源(農業、観光など)を新しい発想で利活用し、地域に働く場所をつくる。市街地を中心部に集約し、行政サービスの集中と経済活動の活性化を図る。競争力のある本社が立地する地方の戦略的拠点都市を形成し、東京一極への人口流出を抑える。

5. 安全・安心の基盤を確保する

歴史と風土に育まれた固有の伝統・文化や美意識、価値観を継承・発展させ、日本ブランドを確立していく。国際貢献や国際ルールづくりへの参加により、世界の中で存在感を保ち、日本を世界に発信し続ける。

バナー写真=時事通信フォト

(※1) ^ 国立社会保障・人口問題研究所「出生動向調査」2010年6月1日現在。厚生労働省発表の人口動態統計によると2013年の合計特殊出生率は1.43。

人口 出生率