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歴史的転換点を迎えた日本の農政

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農地解放による個別農家創出はかつて戦後日本の最大の改革といわれたが、今や市場開放の足かせに。安倍政権は、農協中央会解体、農地流動化など、農業政策を180度転換できるか。

「農協改革」軸に強い農業再生めざす

政府の産業競争力会議は、アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略の目玉の一つとして、抜本的な農業改革の最終案をまとめた。2014年6月27日に閣議決定する新たな成長戦略に盛り込む。これまでの規模の小さい農家の保護を優先する政策から、生産性向上や競争力強化を基本に据え、「魅力ある農業」「農業の成長産業化」を実現する農業政策に転換する方針を打ち出した。

農業改革の最終案は、①農業協同組合(農協=JA)組織の見直し、②企業の参入促進策、③農業委員会制度の見直し——などが柱となる。大詰めを迎えた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉が締結された際に、農業の国際競争力を高めておかないと海外からの割安な農産物に押されて国内農業が打撃を受ける恐れがある。このため、大規模な農家を増やして日本の農業の競争力を強化するには、農業組織の抜本改革が欠かせないと判断した。

これらが実現すれば、戦後の日本の農業政策は、政府が2013年秋に決めた減反政策(コメの生産調整を行うための農業政策)廃止の方針を含めて、歴史的な大転換となる。

中央会制度が今や農業経営の足かせに

JAは、農業従事者や農業を営む法人によって組織された協同組合で、戦後の食糧難に対応するため設立された。全国約700の地域農協を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)が頂点に存在し、中央の司令塔としてJAグループ全体の指導・監督を行っている。JAグループ内には、農産物の集荷や販売を一手に担う全国農業協同組合連合会(JA全農)、貯金や融資などの信用事業を行う農林中金・信連、生命保険や損害保険のサービスを提供する全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)、などの組織がある。

戦後の日本では、農業従事者は農協に農作物を納めていれば確実に代金を回収でき、農業に専念できるなどの利点があった。また農機具の購入に際しても農協を通したほうが安心して購入でき、資金面でも農協を通じて融資のサービスを受けることもできた。しかし、現在では農産物の販売ルートも多様になり、農機具の購入でも安価に購入できる手段が増えた。

こうした環境変化の中で、JA全中を中心とした中央会制度が逆に自由な農業経営の足かせとなり、地域農協が農作物の生産で自らの創意工夫を生かす余地を制限してきた。このため、政府の規制改革会議・農業ワーキンググループでは、JA全中の指導による全国一律の活動体制を改め、各農協が独立し、地域の実情に合ったサービスを提供するよう提言してきた。

規制改革会議での農業改革論議では、JAグループの抜本的な改革をどう図るかが大きな焦点となった。JA全中を頂点とした地域農協への指導体制を改めるため、JA全中の廃止案も出た。しかし、全国一律体制を崩してしまうと、弱い立場の農業従事者の声が農政に反映されなくなるとして改革案に反対する声もある。自民党にとって、農協は選挙の際に組織票が見込める有力な支持基盤でもあることから、最終的にはJAに配慮した妥協案となった。

今後5年間でJAの自己改革を促す

最終案では、JAの「廃止」の文言は盛り込まず、中央会制度について「自律的な新たな制度へ移行する」との表現にとどめ、農協法に基づく指導権限を持つ組織から社団法人や株式会社などに改編する方向性が示された。今後5年間を「改革推進期間」と位置づけ、JAグループの自己改革を促す。具体的な組織のあり方については、JAグループ内の検討を踏まえたうえで、2015年の通常国会で農協法などの改正を行う。

今回の農業改革案では、農協改革以外でも農業生産法人に対する企業の出資制限を「25%以下」から「50%未満」に緩和した。また、農地の売買や転用に強い影響力を持つ農業委員会についても、選挙・選任方法の見直しを含め洗い直す。企業の農地所有を事実上解禁する案については、5年後の検討課題に先送りされた。

第二次安倍内閣は、農業改革に関しては、過去40年にわたりコメの生産縮小に対し助成金を給付してきた「減反政策」(生産調整制度)を見直し、生産数量目標の配分を5年後に廃止する方針を決めている。

バナー写真提供=時事

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