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外国メディアの日本注目度は低下したか?

社会

中国の台頭や新聞業界の世界的な長期衰退傾向などを背景に、外国メディアの日本のカバー体制が変化している。ただ、検証を進めると特派員の出身国、地域によっては、カバーの対象としての日本への関心も依然高く、ひところささやかれた「ジャパン・パッシング」(日本素通り)と単純に自嘲する必要もなさそうだ。

中国に焦点シフト、撤退特派員を戻すのは容易でない

英『フィナンシャル・タイムズ』紙の元東京支局長で現在、香港でアジア担当エディターを務めるデビット・ピリング氏は、日本で活動する外国特派員の数が減少傾向にあることについて、ニッポンドットコムにメールを寄せてくれた。

同氏は「恐らく2つの主要な要素がある。ひとつには日本に対する関心が薄らぐ一方、他国、とりわけ中国に焦点が移っている」と指摘。「1970、80年代は、日本は『奇跡』の経済大国であり、世界はそこで何が起こっているのか知りたがったが、90年代になると、日本がどこかおかしくなって、(市場が)暴落し、世界的な金融危機を引き起こすのでは、と懸念したものだ」と振り返った。

その上で、日本の現状について「景気低迷傾向というのでは、大原稿にはならない。日本ではいま、アベノミクスや中国との緊張関係などがあり、多少、興味がでてきたものの、いったん特派員が撤退してしまうと、彼らを戻すというのは難しい」と説明した。

同氏は、もうひとつの要素としてメディア産業全体の衰退を指摘。どこの新聞も人員削減で、東京の物価は依然高いことから、『フィナンシャル・タイムズ』も最大で6人いたスタッフを現在では記者3人に減らす一方で、中国、インドでは増員したという。

ただ、メディア業界の一般的な傾向として、経済専門誌は大胆な金融政策についての記事を好み、ソニーの苦戦について依然執着していると指摘。日本のサブカルチャー、マンガ、芸術などには一定の「マーケット」があり、高齢化に関する記事も、読者の多くは日本型の人口動態に入ろうとしている国に住んでいるため関心があるという。

アジア諸国の関心はむしろ高まる

一方、公益社団法人日本外国特派員協会(FCCJ)の会員向け雑誌『NUMBER 1 SHIMBUN』2011年11月号は、中国国営新華社の記者の話として、欧米のメディアが日本での規模を縮小する中、同通信社はカバー体制を増強しており東京支局の特派員の数は3年前の12人から17人に増加したと伝えている。

この記者によると、社会、教育、経済などの分野で中国は日本から学ぶことがたくさんあり、中国で何か問題が起きると、日本は同様の問題にどう対処したかを調べるよう指示されるという。

ソウル新聞の記者は同誌で、韓国メディアは日本については何についても関心があり、両国間の歴史問題、慰安婦、竹島などについてたくさん記事を書いたとも語っている。

外務省が発行する外国記者登録証からも、北米、欧州からの記者が減少する半面、アジアからの記者は近年、増加しているという傾向が読み取れる。全体の発行枚数では2003年の937枚から04年は590枚に急減しているが、関係者によると、これは突然外国メディアの日本に対する関心が低くなったというわけではなく、登録証の発行条件を厳しくしたのも背景にあるという。04年以降は500から600枚台で推移している。

外国メディア動向のもうひとつの手掛かりとしてFCCJの正会員数の推移をみると、2010年が329人、その後は漸減傾向にあり14年11月現在は302人となっている。日本人会員については一定期間の特派員経験を必要とするなど会員資格が厳しいこともあるが、外国メディアでは、経費削減の一環として登録会員の数を減らしているところもあるという。

2001年4月から年度ごとのFCCJ正会員数推移

 外国籍正会員日本国籍正会員合計
2001年4月 150 193 343
2002年4月 157 204 361
2003年4月 147 195 342
2004年4月 143 189 332
2005年4月 141 189 330
2006年4月 154 193 347
2007年4月 150 202 352
2008年4月 159 194 353
2009年4月 144 182 326
2010年4月 148 181 329
2011年4月 132 184 316
2012年4月 127 185 312
2013年4月 127 182 309
2014年4月 129 180 309
2014年11月 125 177 302

※日本外国特派員協会の正会員数の推移:同協会の資料を基にnippon.comが作成

苦戦する日本の英字紙

一方、日本の英字紙の動向はどうであろうか。日本にはかつて、朝日、毎日、読売の全国紙やジャパンタイムズ(紙名『Japan Times』)などが毎日、英字紙を発行していた。その後、英文サービスは徐々にウェブ配信に移行し、現在ではジャパンタイムズと読売だけが発行している。ただ、海外の経済専門紙としては『フィナンシャル・タイムズ』とともに『ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)』も日本で印刷しており、購読することができる。

一般社団法人日本ABC協会によると、読売の『Japan News』の2014年6月の販売部数は約2万5000部と2010年後半(当時は『Daily Yomiuri』)の約3万部から5000部ほど減少している。

ジャパンタイムズは、13年9月で販売部数の公表を中断、同月は約2万6000部となっている。同社はその後、米『ニューヨーク・タイムズ』紙と提携、2部構成に移行しており、販売部数が安定するまでの間は公表を控えるという。

それにしても、日本の英字紙全体の低迷傾向は否めない。大手通信社英文編集担当幹部は「英字紙の主な読者は、日本に住んでいる外国人と英語が好きな日本人」と指摘。「今やネットで、APやロイターといった有力通信社から『ニューヨーク・タイムズ』、『フィナンシャル・タイムズ』などの高級紙まで、言わば、本場の良質な英文記事が無料かつリアルタイムで読むことができるようになり、これまで日本の英字紙を買って英語を勉強していた日本人読者がわざわざ英字紙を買う必要がなくなった」と分析している。

「日本に住んでいる外国人にとっても、世界で何が起こっているのかを知るのに、英字紙を買わなくても、ネットのニュースを読むだけで十分になった。国際ニュースとなるような大きな日本のニュースは海外メディアも取り上げるので、日本の英字紙を買ってまで読む必要がない」とも語っている。

カバー写真=日本外国特派員協会で記者会見する石原慎太郎氏(2012年11月、提供・時事)