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川崎中1殺害事件で少年法改正論が再燃
[2015.03.19] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

川崎市川崎区の中学1年生、上村遼太さん(13)が2月20日未明、多摩川河川敷でリーダー格のA(18)ら3人の少年によって惨殺された事件で、少年法を改正すべきとの意見が再び強まっている。殺害の手口は少年とは思えぬ残忍さで、Aに対しては、氏名や写真の公表を含め、成人と同じ扱いであるべきだという意見も少なくない。が、慎重論も根強く、少年法改正論議が今後、一段と活発化してきそうだ。

真冬の川で泳がせカッターナイフで殺害

捜査が進むにつれて明らかになったAらの犯行は驚くべきものだった。上村さんは日ごろからAに暴力を振るわれ、殺害された日の夜は、何と、裸にされて真冬の川で泳がされたあげく、カッターナイフで何ヵ所も切りつけられ、首を刃物で刺されるなどして絶命していた。また、Aや上村さんと共に河川敷にやってきた17歳の少年2人のうち1人は、Aから「どこかに行っていていい」といわれて近くで待機。しばらくして、現場に戻ると、上村さんがひどい暴行を受けており、止めに入った。すると、Aは「お前もやってやるぞ」と脅し、カッターナイフで上村さんを切るよう命じ、少年は逆らえず、「ごめんね」と言いながら上村さんの頬を切ったという。

Aら3人はその後、全裸の上村さんの遺体を草むらに隠して現場を去り、上村さんの衣服を公衆トイレで燃やして証拠隠滅を図った。また、現場にプラスチック製の結束バンドが落ちていたことから、上村さんが両手をそれで縛られてひざまずかされ、イスラム過激派組織「イスラム国」が人質を処刑するときのように、首をかき切られそうになった可能性もあるといわれている。

少年の残虐な犯行に怒り・ネットに実名や顔写真

こうした残虐な犯行に対する世間の怒りは強く、インターネット上にAの実名や写真、さらには、家族の写真までが流され、『週刊新潮』(3月12日号)は「『18歳主犯』の身上報告」と題してAを実名で報じ、顔写真も掲載した。少年法第61条は犯罪少年の実名報道や顔写真の掲載を禁じている。が、同誌編集部は「事件の残虐性と社会に与えた影響の大きさ、少年の経歴などを総合的に勘案し、実名と顔写真を報道した」としている。

『週刊新潮』はネットに流れたAの顔写真を「友人らに確認」して掲載したそうで、ネットではいとも簡単にAの実名や写真を見付けることができる。新潮社側はそうしたネット社会の実情も考慮し、実名と顔写真の公開に踏み切ったともみえるが、「罰則はなくても、法律がある以上、順守するのは当然だ」との考え方もあり、新聞やテレビなどの主要メディアはもちろん、『週刊新潮』のライバル誌なども今は実名報道や顔写真の掲載を避けている。

少年の年齢は戦後、18歳未満から20歳未満に

法律は当然のことながら社会の実情に合わなくなると改正される。少年法も戦後、これまで5回にわたって改正されてきた。最初の改正は1949年で、日本が敗戦に追い込まれ、連合国最高司令官総司令部が占領政策を実施。日本に民主化を求める中で、戦前の旧法が改正され、少年の年齢が18歳未満から20歳未満に引き上げられた。また、家庭裁判所が設けられ、少年はまずそこに送られ、刑事か保護処分かが決まるようになった。

当時の日本は戦後の混乱期。戦争孤児も多く、食糧不足から窃盗や強盗に走る少年も少なくなかった。49年の少年法改正では、こうした非行少年たちを保護・教育することに重点が置かれていた。

しかし、日本が高度経済成長によって豊かになると、少年の犯罪形態も変化。非行の低年齢化が進み、少年による極めて凶悪な犯罪も起きるようになった。1988年には東京都足立区で女子高生を誘拐・監禁し、強姦したり、暴力を振るったりして殺害。遺体をドラム缶に入れてコンクリート詰めにし、江東区の埋立地に放置するというおぞましい事件も起きた。犯人は16-18歳の少年4人で、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」と呼ばれている。

社会を震撼させた神戸連続児童殺傷(酒鬼薔薇)事件

また、1997年2月と3月に神戸市内で小学校の女児4人が相次いでハンマーで殴られたり、ナイフで刺されたりする事件が発生。1人が死亡、2人が重症を負った。さらに、5月には、小学5年生の男児が殺され、その首が中学校の正門前にさらされるという猟奇的な事件が起きた。口には「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)」の名で書かれた警察を挑発するような手紙がくわえさせられていた。犯人は近くに住む14歳の少年で、一連の事件は「酒鬼薔薇事件」ともいわれ、社会を震撼させた。

その後も「光市母子殺害事件」(1999年4月)、「西鉄バスジャック事件」(2000年5月)、「大分一家6人殺傷事件」(2000年8月)などといった少年による凶悪事件が続き、2001年、少年法が52年ぶりに改正され、刑事処分可能年齢が16歳以上から14歳以上に引き下げられた。

少年犯罪の凶悪・低年齢化で厳罰化が進む

そして、2007年の改正では、少年院送致年齢の下限が「14歳以上」から「おおむね12歳以上」に引き下げられた。03年7月に長崎で12歳の少年が男児を誘拐して殺害する事件が、06年6月には佐世保で11歳の少女が同級生の小学6年生の少女をカッターナイフで殺害する事件が起きており、これらの事件が少年法改正につながったとみられなくもない。

さらに2008年、少年法が改正され、殺人など他人を死傷させた重大事件で、犯罪被害者や遺族の傍聴などが認められるようになった。04年に犯罪被害者の権利利益保護を目的とする「犯罪被害者等基本法」が成立したことを受けたものだ。また、14年の改正では、18歳未満の少年に対し、無期懲役に代わって言い渡せる有期懲役の上限が15年から20年に、不定期刑についても「5年~10年」が「10年~15年」に引き上げられた。

しかし、厳罰化によって少年犯罪が減少するとの見方には異論も多い。「警察白書」によると、刑法犯少年の検挙人数は減少傾向にあり、2004年が13万4847人だったのが、13年には5万6469人と半分以下に減少。このうち凶悪犯罪(殺人、強盗、強姦、放火)の検挙人数は04年に1584人だったのが、13年には786人にまで減っている。非行の低年齢化は確かに進んでいるようだが、この数字をみても、少年による凶悪犯罪が増えているとまではいえそうもない。

18歳選挙権法案成立の見通しで改正論に追い風

ただ、今回の「川崎中1殺害事件」のように凄惨な犯罪事実がメディアで報じられると、「少年法は甘すぎる」などといった批判が巻き起こる。しかし、今回の少年法改正論議の高まりは少し違っている。18歳以上に選挙権を与える法案が今国会で成立する見通しとなっているためで、「選挙権をもてばもう大人であり、少年法で保護すべき対象ではない」という意見が強まっているからだ。戦前の旧法のように、少年の年齢が18歳未満に戻る可能性もでてきた。

カバー写真=川崎中1殺害事件で逮捕された少年を乗せて川崎署を出る車と報道陣(提供・時事)

刑法犯少年の包括罪種別検挙人員の推移(平成16~25年)

年次 16 17 18 19 20
区分
総数(人) 134,847 123,715 112,817 103,224 90,966
 凶悪犯 1,584 1,441 1,170 1,042 956
 粗暴犯 11,439 10,458 9,817 9,248 8,645
 窃盗犯 76,637 71,147 62,637 58,150 52,557
 知能犯 1,240 1,160 1,294 1,142 1,135
 風俗犯 344 383 346 341 389
 その他の刑法犯 43,603 39,126 37,553 33,301 27,284
年次 21 22 23 24 25
区分
総数(人) 90,282 85,846 77,696 65,448 56,469
 凶悪犯 949 783 785 836 786
 粗暴犯 7,653 7,729 7,276 7,695 7,210
 窃盗犯 54,784 52,435 47,776 38,370 33,134
 知能犯 1,144 978 971 962 878
 風俗犯 399 437 466 566 523
 その他の刑法犯 25,353 23,484 20,422 17,019 13,938

(平成26年警察白書統計資料)

戦後少年法改正の歴史

施行年月日 改正点 事件
1949年1月1日 戦前の旧法に代わって新たな少年法を施行(①少年の年齢を18歳未満から20歳未満に引き上げた②家庭裁判所を設けて刑事処分か保護処分かを決定することになった‐など) 日本がポツダム宣言を受諾して降伏、連合国軍最高司令官総司令部が占領政策を実施(1945年8月‐52年4月)
2001年4月1日 刑事処分可能年齢が16歳以上から14歳以上に引き下げられた 女子高生コンクリート詰め殺人事件(1988年11月-89年1月、犯人・16-18歳少年4人)
神戸連続児童殺傷事件(1997年2月-6月、犯人・14歳少年)
光市母子殺害事件(1999年4月、犯人・18歳少年)
西鉄バスジャック事件(2000年5月、犯人・17歳少年)
大分一家6人殺傷事件(2000年8月、犯人・15歳少年)
2007年11月1日 14歳未満の少年事件に対する警察の調査権限を強化した
少年院送致年齢の下限を14歳以上から「おおむね12歳以上」に引き下げた 
長崎男児誘拐殺人事件(2003年7月、犯人・12歳少年)
佐世保小6同級生殺害事件(2006年6月、犯人・11歳少女)
2008年12月15日 殺人など他人を死傷させた重大事件について犯罪被害者や遺族の傍聴などを認める 犯罪被害者等の権利利益保護を目的とする「犯罪被害者等基本法」が成立(2004年)
2014年5月7日 18歳未満の少年に対し、無期懲役に代わって言い渡せる有期懲役の上限を15年から20年に、不定期刑についても「5年~10年」を「10年〜15年」に引き上げた 石巻3人殺傷事件(2010年2月、犯人・17-18歳の少年2人)
吉祥寺女性強殺事件(2013年2月、犯人・17-18歳の少年2人)
広島・呉少女集団暴行死事件(2013年6月、犯人・21歳の男と16-17歳の少年、少女6人) 
三重中3女子殺害事件(2013年8月、犯人・18歳少年)
XXXX年X月X日 佐世保高1女子殺害事件(2014年7月、犯人・15歳少女)
名大女子学生殺人願望殺害事件(2014年12月、犯人・19歳女子大生)
川崎中1殺害事件(2015年2月、犯人・18歳少年と17歳少年2人)

作成:nippon.com編集部

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