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日本の電源構成:2030年の原発比率20~22%へ

経済・ビジネス 社会

将来の日本に望ましい電源構成(エネルギーミックス)はどうあるべきか。政府は2030年時点の電力供給を原子力発電で20~22%、再生可能エネルギーで22~24%賄う方針を決めた。ただ国内ではなお意見は分かれている。

再生可能エネ比率は22~24%

政府は2015年6月1日開いた総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の小委員会で、2030年時点の日本の望ましい電源構成として、

  • 再生可能エネルギー(※1)22~24%
  • 原子力20~22%
  • 石炭火力26%
  • 天然ガス火力27%
  • 石油火力3%

とする原案を固めた。再生可能エネがほぼ倍増し、現在稼働ゼロの原発も復活する。

電源構成案とともに、家庭用や自動車用、工場用の燃料などを含む一次エネルギー(※2)の15年後の構成案についても

  • 石油32%
  • 石炭25%
  • 天然ガス18%
  • 再生可能エネ13~14%
  • 原子力10~11%

とした。これらの比率は、今夏に政府方針として決定される。

この電源構成案を基に、政府は2030年までに温室効果化ガス排出量を2013年度比で26%削減する目標を掲げ、今年11月にパリで開催されるCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)に臨む。

原発は「重要なベースロード電源」

主要国の電源構成は、資源の有無や保有する資源の種類などによって異なる。政府は、資源に乏しい日本固有のエネルギー事情を踏まえ、①エネルギーの安定確保、②温室効果ガスの排出量削減など環境への配慮、③経済や雇用への影響、④東電福島第一原発事故の教訓など、さまざまな観点から総合判断し、電源の多様化をめざしている。
             
政府は2014年4月、今後の長期的なエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」を4年ぶりに閣議決定した。その際、福島原発事故後も原発を「重要なベースロード電源(※3)」と位置づける一方、「原発依存度を可能な限り引き下げる」「再生可能エネルギーを最大限導入する」(安倍晋三首相)と表明してきた。ただ、電源構成案の作成は今年にずれ込んだ。

事故後に高まった原発是非論

原発再稼働や原発比率については、2011年3月の福島原発事故に高まった厳しい世論を背景に、さまざまな議論が展開されてきた。原発再稼働による経済効果については、発電量が安定し、燃料費も他の電源より安く、温室効果ガスが発生しないなどの利点が挙げられる。また原発再稼働により代替燃料輸入の抑制が図れ、赤字基調にある貿易収支の改善にもつながる。産業界などは電力コスト抑制が国際競争力強化につながるとの観点から原発の「適切な活用」を求めている。

他方、福島原発事故を受けて、原発への依存に対して慎重論や反対論も根強い。原発事故に伴う被災難民対策や補償、高濃度汚染水処理、放射性廃棄物の最終処分に向けた作業など、事故後の原発にかかる費用は膨大だ。事故原発の廃炉作業には、過去に例のない長い年月が必要となる。こうした中で、首相経験者の小泉純一郎、細川護煕両氏らが「原発ゼロ」を唱えるなど、原発の功罪をめぐる議論は平行線のままだ。

温室効果ガス抑制で火力割合は56%に低下

原発依存度は、原発事故前には約3割あった。事故を機に電力各社の原発が軒並み長期停止し、2013年9月からは全国で原発稼働ゼロになったことから、2013年度全体では1%に落ち込んだ。この結果、代替する火力発電の燃料費増加や円安進行もあり、国内の電力料金は原発事故前に比べ産業用で3割弱、家庭用で2割弱上昇している。

今回打ち出された2030年の電源構成案では、経済性重視とともに温室効果ガス抑制に大きく寄与する原子力の比率を20~22%とし、再生エネも現在より倍増する22~24%に高めた。火力(石炭・天然ガス・石油)は2014年度には発電量全体の88%を占めていたが、56%まで低下するため、燃料費は2030年度時点で4割以上減少すると試算している。

原発「40年以上稼働」の可能性

ただ、現在全面停止している原発の比率を2030年時点で20~22%に高めるとする方針については専門家の間にも異論が出ている。国内の原発は震災前、54基が稼働していたが、事故を起こした東電福島第一原発の1~6号機を含め11基は廃炉が確定している。このほか、活断層の存在や設備が最新の基準に適合しないなどの理由で、10基近くの稼働が危ぶまれている。

さらに、福島原発事故後に改定された原子炉等規制法で、原発の寿命は「原則40年」に制限されている。これを順守した場合、2030年度の原発比率は15%以下になる。20%以上とするには、かなりの原発を40年以上稼働させる必要が出てくる。このため、同法が例外的に可能性を認めた「60年運転」が常態化することになる。

再生可能エネ高めるべきとの声も

今回の電源構成案を決めた総合資源エネルギー調査会小委員会の議論では、原発や再生可能エネの比率について、専門委員である有識者の意見は最後まで一致しなかった。小委員会の委員の一人である橘川武郎・東京理科大学大学院教授は、政府案について「2030年時点の原発比率を15%程度に抑え、再生可能エネルギーの比率を30%程度に引き上げる大胆な修正が必要」と指摘している。

このエネルギー構成案は今後3年ごとに見直すとしており、将来の環境変化などに対応できるよう変更の余地を残した。政府が打ち出したエネルギー政策をめぐる基本方針ではあるが、国内論議はなお収束していない。

文:原田 和義(編集部)

バナー写真:九州電力川内原子力発電所1号機の原子炉建屋内で、設備の性能確認を行う原子力規制委員会の検査官ら=2015年4月16日、鹿児島県薩摩川内市(代表撮影、時事)

(※1) ^ 太陽光、太陽熱、水力、風力、地熱、波力、温度差、バイオマスなど自然エネルギー全般を総称していう。本来「絶えず資源が補充され枯渇することのないエネルギー」という意味の用語。

(※2) ^ 自然から採取されたままの物質を源としたエネルギー。石炭・石油・天然ガス・水力・原子力など。これに対し、一次エネルギーを電気や都市ガスなどに変換・加工したものを二次エネルギーという。

(※3) ^ 季節・天候・昼夜を問わず、一定量の電力を安定的に低コストで供給できる電源。原子力、石炭火力、水力、地熱などを指す。しかし「ベースロード電源」の定義は、日本と欧州などでも異なるといわれる。

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