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元気を取り戻した日本のおもちゃ業界「東京おもちゃショー2015」

経済・ビジネス

日本のおもちゃ産業が元気を取り戻している。かつては世界第2位の生産国だったが、急速な少子化や欧米市場の縮小で低空飛行が続いてきた。しかし、2014年度の売り上げは『妖怪ウォッチ』の空前の大ヒットで、前年度比9%増の7367億円(日本玩具協会調べ)と、過去10年間で最高を記録した。

同協会の調査によると、玩具市場好調の要因は『妖怪ウォッチ』を中核とする商品が爆発的な販売を記録したことと、ディズニーの大ヒットアニメ映画『アナと雪の女王』関連商品の人気が高かったことによる。商品別にみると『妖怪ウォッチ』人気を受け、男児向けのキャラクター玩具が799億円で前年度比78.6%増と飛躍的に伸びた。アクセサリーづくりなど女児向けの「メイキングホビー」商品や、けん玉といった昔ながらのおもちゃをアレンジした「アナログ玩具」も人気を呼んだ。

過去10年間の玩具市場規模

総額(単位:億円) 総額(単位:億円)
2005 7053 2010 6694
2006 6513 2011 6904
2007 6720 2012 6716
2008 6553 2013 6758
2009 6474 2014 7367

(日本玩具協会資料から作成)

『妖怪ウォッチ』はなぜ売れたのか

DX妖怪ウォッチ ・タイプ零式 (株式会社バンダイ、税込み3360円)

社会現象にまでなった『妖怪ウォッチ』はもともと、2013年にニンテンドー3DSの専用ゲームソフトとして発売。その後アニメや漫画、おもちゃ、映画などに商品展開された。特にバンダイから発売されたメダル型ゲーム『DX妖怪ウォッチ タイプ零式』は大人気となり、累計で350万個を販売する空前の大ヒット。15年の第8回「日本おもちゃ大賞」で、過去1年間に最も消費者に支持されたおもちゃに贈られる「前年度ヒット・セールス賞」に輝いた。

『妖怪ウォッチ』のストーリーは、夏の日に虫取りをしていた主人公が“妖怪執事ウィスパー”と出会い、妖怪を見ることのできる腕時計(妖怪ウォッチ)を手に入れるところから始まる。出没する妖怪と次々に友達になり、町の人たちの悩みや問題を解決していく。

人気爆発の要因は、妖怪と友達になると妖怪メダルが渡され、「妖怪ウォッチ」で妖怪たちを呼び出せる(召喚)ことができることにある。特定の条件を満たすと、妖怪をどんどん進化、合成することができ、その種類は数百を超える。バーチャルとリアルの世界を結びつけたことに加え、体を動かして楽しめる「妖怪体操」などの多様なコンテンツづくりが子どもたちの心をつかんだ。

近年の不振は、「おもちゃ」ではなく「家庭用ゲーム機」

日本の玩具業界は、「おもちゃ」分野と「家庭用ゲーム機」分野があるが、中小企業が多く、少子化や欧米市場の販売不振に悩まされてきた。特に、近年の不振は家庭用ゲーム機分野によるもので、同分野をけん引する任天堂の業績低迷が業界全体の不振につながっていた。

こうした中で、「おもちゃ分野」は急速に回復し、元気さを取り戻している。それを象徴するのが、日本の玩具業界最大の見本市である「東京おもちゃショー2015(International Tokyo Toy Show 2015)」の活況だ。前回の14年には、157社(国内132社、海外25社)が出展、約16万人以上が来場した。

「東京おもちゃショー2015」のオープニングセレモニーで「日本おもちゃ大賞」各部門の受賞を喜ぶメーカー代表たち=2015年6月18日、東京ビックサイト

中でも、日本のおもちゃ産業の“底力”を示したのが、今回の「日本おもちゃ大賞」で特別賞に選ばれた「ガンダム プラモデルシリーズ」(バンダイ)だ。世界的にも人気の高い“ガンプラ”は発売から35年間で、販売総計が4億4500万個に達した。

特別賞を受賞した「ガンダム」のプラモデル

「日本おもちゃ大賞」は、玩具の素晴らしさを消費者にアピールすることを目的にしたものだが、知育・教育に貢献した「エデュケーショナル・トイ部門」、世代や性別を問わず楽しめる娯楽性の高い「コミュニケーション・トイ部門」、素材・技術的に優れた新規性のある「イノベイティブ・トイ部門」、大人が楽しめる「ハイターゲット・トイ部門」など、7部門の大賞が毎年選ばれている。

「日本おもちゃ大賞2015」各部門大賞受賞作品

カテゴリー 受賞作品とメーカー
共遊玩具部門 JOUJOUみつけてみよう!いろキャッチペン(タカラトミー)
エデュケーショナル・トイ部門 「一歳半からの体幹☆脳力トレーニング みんなで!育脳マット」(ジョイパレット)
ボーイズ・トイ部門 「野球盤3Dエース」(エポック社)
ガールズ・トイ部門 「Jewel watch」(セガトイズ)
コミュニケーション・トイ部門 「ヒミツのクマちゃん」(タカラトミーアーツ)
イノベイティブ・トイ部門 「リニアライナー超電導リニアLO系スペシャルセット」(タカラトミー)
ハイターゲット・トイ部門 「カメラ付き超小型ヘリコプター ナノファルコンデジカム」(シー・シー・ピー)

おもちゃ産業の変化を表す“キーワード”

日本のおもちゃは、これからどう変化、発展していくのか。「日本おもちゃショー2015」に展示された新しい技術や新しい機構を導入した商品の中に、その方向性とキーワードがいくつか見えている。

日本玩具協会によれば、そのキーワードは「夢の実現」、「ウェアラブル」、「インタラクティブ&コミュケーション」などだ。「長年の夢を実現する」——、そんな商品の1つが、本物と同じように磁力浮上・走行を実現した「リニアライナー超電導リニアL0系スペシャルセット」(タカラトミー)。「イノベイティブ・トイ部門」賞に選ばれた。実物の90分の1の大きさだが、そのスケールスピードは時速500キロを超える。

「リニアライナー超電導リニアL0系スペシャルセット」(タカラトミー、税込み3万7800円)

もう1つの「夢の実現」は、古典的なおもちゃである野球盤を進化させ、投手の投げる球が空中を飛ぶようにした「野球盤3Dエース」(エポック社)。臨場感が一気に高まったと評価され、「ボーイズ・トイ部門」賞を受賞した。

「野球版3Dエース」(エポック社、税込み7538円)

「ウェアラブル」や「飛ぶ」も

「ウェアラブル」は、IT世界のトレンドをいち早く商品化したもの。セガトイズの「Jewel watch(ジュエルウォッチ)」は、女の子のニーズを取り込んだデザインと300通りから選べる「動く・しゃべる文字盤」を持つ時計。日英両言語で対応する優れものだ。「ガールズ・トイ部門」賞に輝いた。

「Jewel watch(ジュエルウォッチ)」(セガトイズ、税込み7020円)

もう1つのキーワードは、規制問題が騒がしい“ドローン”に象徴される「飛行」。カメラ付き超小型ヘリコプター「ナノファルコンデジカム」(シー・シー・ピー)は、おもちゃのレベルを超えた精密機械だ。ヘリ搭載のデジカメで撮影した静止画、動画を保存し、パソコンで確認でき、“小型秘密兵器”のような印象さえある。「ハイターゲット・トイ部門」賞を受賞した。

カメラ付き超小型ヘリコプター「ナノファルコンデジカム」(シー・シー・ピー、税込み9698円)

さらに注目されるキーワードは「時代はアナログ」。古くからあるおもちゃを新感覚で作り替えたもので、室内でも遊べる不思議な砂の「キネテイックサンド」(ラグスジャパン)、現代版けん玉「ケンダマクロス」(バンダイ)などが人気を博している。

最後に、高齢化対応で「オトナ男子・オトナ女子」を対象とした商品開発もこれから活発化する分野だ。映画「スターウォーズ」の12月公開に合わせた、アダルト世代に向けた高級志向の商品も目立っている。

文・原野 城治(ニッポンドットコム代表理事)

バナー写真:玩具見本市「東京おもちゃショー2015」にシー・シー・ピーが出展したカメラ付き超小型ヘリコプター=2015年6月18日、東京都江東区の東京ビッグサイト(時事)

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