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安倍政権、70年談話までの紆余曲折をたどる

政治・外交

8月14日、注目の安倍首相による「戦後70年談話」が発表された。ここに至るまでの騒動は何を示しているのだろう。

いったい何が注目されたのか

20年前に、当時の村山富市首相が打ち出した「戦後50年談話」は、歴代内閣が「その内容を継承する」という表現で日本の公式の歴史認識となってきた。ところが安倍首相がこれを継承しないのではないか、という危惧が内外で強くなり、外交問題にまで発展していた。

まず村山談話を振り返ってみよう。その中心部分は次のようになっている。

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます」(1995年8月15日)。

要するに、「日本の国策の誤りによる戦争(戦争責任)」「植民地支配」「侵略」「アジア諸国の人々への損害と苦痛」「反省」「お詫び」という、歴史問題への基本的な認識が網羅されている。

結果として、14日に発表された談話には、これらの認識、用語が盛り込まれた。

実は、安倍首相は2006~07の第2次内閣の時、談話の継承を公式に明言している。

「私は官房長官のときにもお答えをしているように、さきの大戦によって、多くの日本人は塗炭の苦しみの中にありました。そして、アジアの国々に対して、大変な被害を与え、傷を与えたことは厳然たる事実であります。その反省の上に立って、日本は自由で民主的な、そして平和に貢献する日本をつくってきたわけでありまして、そのことを誇りに思っているわけでございます。その村山談話の中で述べているように、恐らくこれは、韓国の方々あるいは中国の方々を初め、侵略をされた、あるいは植民地支配に遭ったと、それはまさに我が国がそのときの閣議決定した談話として国として示したとおりである、私はこのように考えているわけであります」(2006年10月6日衆議院予算委員会)。

にもかかわらずである。内外から村山談話の継承について疑義が持たれつづけていた。一つには、第2次安倍内閣発足前から、中国、韓国との関係が険悪化しており、両国が歴史認識を日本への攻撃材料にしていた、という経緯がある。さらに、安倍首相の周辺に歴史問題で強硬な意見の持ち主が多いこと。また安倍首相自身も同様に見られていたこと。重要な同盟国であるアメリカもまた、歴史問題では日本に批判的で、中韓との険悪化を危惧し続けていたことが背景にある。

今回の談話は、そのような東アジアをめぐる緊張関係の中で、ある意味では踏み絵として、またある意味では、その緊張関係に対応するロジックとして形成されてきたという側面を無視できない。そして、それは安倍政権発足時とはかなり環境が変化したこと示してもいるのである。改めて、70年談話を読み解くための、安倍政権をめぐる動きを年表にしてみた。

戦後70年首相談話に至るまでの動き

  • 2012/08/10 李明博・韓国大統領(当時)、竹島に上陸。韓国大統領としては初。
  •          08/14 李韓国大統領、「天皇は訪韓して、独立運動家にひざまずいて謝罪すべき」と発言。
  •          09/10 日本政府(野田政権)、尖閣諸島の国有化を閣議決定。
  •          11/15 習近平氏、中国共産党中央委員会総書記と国家主席に選出。
  •          12/26 第二次安倍内閣発足
  • 2013/01/30 東シナ海で中国海軍のフリゲート艦が、海上自衛隊の護衛艦に、射撃管制用のレーダー波を照射。2月5日に小野寺防衛相が発表。
  •          02/22 安倍首相、訪米。日米首脳会談。
  •          02/25 朴槿恵・韓国大統領が就任。
  •          04/23 参議院予算委員会で安倍首相が「侵略という定義は学会的にも国際的にも定まっていない」答弁。国際的な反発を呼ぶ。
  •          05/01 米議会調査局が発表した日米関係に関する報告書で、「安倍は閣僚に国家主義者、場合によっては超国家主義者を支持する政治家たちを選んでいるが、このことは大日本帝国の行動を礼賛する行為に見える」「安倍の集団的自衛権容認の憲法解釈変更などの方針は、アメリカ政府に大いに歓迎されたが、別な発言では、大日本帝国のアジア諸国への侵略と犠牲を否定する、歴史修正主義の立場を示している」と批判。
  •          05/10 菅官房長官、23日の安倍発言を事実上撤回。
  •          11/23 中国、東シナ海上空に防空識別圏設定。
  •          12/26 安倍首相、靖国神社に参拝。中韓だけでなくアメリカも批判的対応。
  • 2014/04/24 オバマ米大統領訪日。日米首脳会談で、尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用対象、国際関係の力による変更を認めない、などの発言を得る。
  •          06/20 政府が「河野談話作成過程等に関する検討チーム」の検証結果発表。しかし、最終的に政府としては河野談話の見直しは行わない方針を打ち出す。
  •          07/01 集団的自衛権を限定的に行使できると、憲法解釈を変更することを閣議決定。
  •          08/05 朝日新聞が過去の「従軍慰安婦」報道について、誤りを認め修正を発表。
  •          11/10 安倍首相、北京のAPECで習近平・中国国家主席と約2年半ぶりの日中首脳会談。
  •          12/14 総選挙。与党が議席の3分の2以上を確保。
  • 2015/02/25 首相70年談話のための懇談会(20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会)発足、初会合。
  •          04/21~23 インドネシアでのバンドン会議60周年記念首脳会議に安倍首相出席。習主席と日中首脳会談。会議演説で「先の大戦への深い反省」と「戦後の平和主義」を強調。
  •          04/26~05/06 安倍首相訪米。日米首脳会談で軍事協力の深化、TPPの進展を強調。首相議会演説では、「深い悔悟」「とこしえの哀悼」「痛切な反省」などの表現。先の大戦についての日米和解を演出。
  •          05/30、31 シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、アメリカが中国による南シナ海・南沙諸島の埋め立て、飛行場建設を強く非難。中国が反発。米中緊張高まる。
  •          06/05 衆議院での安全保障関連法案審議で、政府側の参考人として招致された憲法学者が委員会で「違憲」との見解を表明。以後、国会審議は混乱。内閣支持率低下。メディア各社調査では、不支持が支持を上回る。
  •          06/08 G7サミットの首脳宣言で「威嚇、強制又は武力の行使、大規模な埋立てを含む現状の変更を試みるいかなる一方的行動にも強く反対」表明。
  •          07/16 安保関連法案、衆議院を通過。
  •          07/17 建設費が当初計画の倍に膨れ上がり政治問題化していた新国立競技場建設計画を、首相判断で白紙撤回。
  •          08/06 有識者懇談会、報告書を安倍首相に提出。「満州事変以降の侵略の拡大」「アジア諸国への被害」「政府、軍の指導者の責任」などが盛り込まれる。

カバー写真=満州事変の発端となった柳条湖の南満州鉄道爆破現場を調査する国際連盟のリットン調査団(提供・毎日新聞社/アフロ)

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