壁にぶつかる「高くても売れる」日本モデル

経済・ビジネス

ソニーやパナソニック、シャープといった日本の大手家電メーカーの2012年3月期決算がいずれも赤字の見通しになった。日本の製造業のビジネス・モデルが壁にぶつかっている。

ソニーは2月1日、会長兼最高経営責任者(CEO)兼社長のハワード・ストリンガー氏が3月いっぱいで退任する人事を発表し、翌2日には2012年3月期決算で従来予想の900億円を大幅に上回る2200億円の税引き後赤字を計上すると発表した。ソニーの赤字決算は4年連続で、その主因のテレビ事業に限れば8年連続の赤字となる。

“現場力”が生んだ高品質商品の限界

ソニーのテレビといえばかつては、多くのメーカーが採用した米RCAのシャドー・マスク方式に対抗して独自に開発したトリニトロン方式で画質の高さを誇った。他社製品より高くても売れる商品だった。

高くても売れる商品は日本企業の国際競争力を支えてきた。とくに1985年のプラザ合意の後、急速に円高が進む中で、日本企業は先進国の中間層向けの高品質商品で競争力を維持してきた。

日本企業の強さの根源は現場にあると言われてきた。トヨタ自動車は製造現場での不断のカイゼンで、高品質の製品を効率的に生産し、ソニーは開発現場から個性的な製品を生み出してきた。

その現場の力が弱ってきたのではないか、という指摘が数年前から聞かれ始めた。ソニーからはソニーらしいヒット商品が長く出ていない。

だが、それ以上に深刻なのは、現場の力に支えられた高品質商品というビジネス・モデルが壁にぶつかっているのではないか、とみられることだ。

薄型デジタルテレビが1インチ1万円程度の価格になり、普及期に入ったと言われたのは2004年から2005年ごろだが、今や1インチ1000円程度の商品も登場している。デジタル化の波の中で、製品価格の下落ペースはアナログ時代とは比較にならないほど急速だ。

そのうえ、アップルが様々な企業の部品を集めて組み合わせた携帯音楽プレーヤーや高機能携帯電話でヒット商品を生み出していることから逆にうかがわれるように、デジタル製品は現場でのすり合わせによる高品質化が図りにくい。

値下がりに対応できず、自らの強みを発揮するすべも見いだせない日本勢は海外で韓国のサムソンなどの後塵を拝し、業績を悪化させてきた。

しかも、先進国経済が停滞する一方、市場が急成長しつつあるのは今や中国やインドなどの新興市場国で、中間層が急拡大しているといっても先進国ほどの購買力は持たない。家電に限らず、「高くても売れる商品」を武器にしてきた日本企業は戦略転換を迫られる。

ソニーの業績が予想を下回ったことがきっかけで日経平均が7600円台に急落し“ソニー・ショック”と呼ばれたのは2003年4月のことだった。デジタル化の波や新興市場の拡大が鮮明になり始めた時期と重なる。9年近くを経て、日本企業の苦闘は続いている。