日本の自動車産業の未来
「自動車よ、お前もか」にはならぬ

安井 孝之【Profile】

[2012.02.16] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

日本の製造業は急激な円高や法人税の重さなど「6重苦」に見舞われているといわれる。パナソニック、ソニー、シャープなど電機メーカーの今年度決算は軒並み赤字転落となる。大黒柱の自動車産業はどうか。大震災とタイの洪水というダブルパンチを受けたホンダでさえ、利益は前期比6割減となるが2150億円の黒字決算を見込む。日本の自動車産業は持ち前の粘り腰を発揮している。だが、電気自動車など新しいクルマが台頭すれば、日本の勝ちパターンは崩れるのか。新規参入も含め、戦いは激しくはなるが、おそらく電機業界のような総崩れにはならないだろう。

日本のものづくりを支えた2つの産業

日本の70年代以降の経済成長を支えたのは自動車産業と家電などの電機産業の輸出である。双方とも組み立て産業であり、製造業の苦境は等しくのしかかると見られがちだ。だが、この二つの産業には大きな違いがある。

ものづくりの実証研究の権威である東京大学の藤本隆宏教授によると、製造業にはパソコンや薄型テレビに代表されるようにディスプレーやCPUなど主要部品を組み立てれば製品が出来上がる「モジュラー型産業」と、何万点もの部品を最適の方法で組合せ、乗り心地の良いクルマをつくるような「摺り合わせ(インテグラル)型産業」の二つがある。最近のデジタル家電はモジュラー型の代表格、自動車は摺り合わせ型の代表格である。

デザインなど斬新な商品コンセプトを考え、そのための主要部品を世界中から集めて、もっとも組み立てコストが安い地域で組み立て、輸出するというモジュラー型モデルでは結果的に日本は弱く、家電産業の総崩れにつながった。それに比べて、開発拠点と製造拠点が連携し、商品開発を練り、さらに組み立て工場内では品質向上のために改善が繰り返される摺り合わせ型モデルはチームワークを重んじる日本社会に合っているのか、自動車産業は今もタフな体質を維持している。

問われる自動車メーカーの企業努力

第42回東京モーターショーでは電気自動車(EV)をはじめ環境性能の高い車両が数多く出品された。

だが、将来は日本の自動車産業の勝ちパターンが通じないという見方があるのは事実である。電気自動車(EV)が普及すれば電池とモーターが主要部品となり、自動車も家電化するのではないか、というものだ。そこに勝機をみて、テスラモーターズや中国の新興企業がEVに参入しているわけだ。

確かに今後の自動車産業は従来の自動車メーカーだけの戦いではない。自動車メーカーと電機メーカー、ベンチャービジネスとの連携もある。それに新規参入組も交えた新たな戦いがすでに始まっている。だが、問題は自動車がパソコンのように主要部品を組み立てれば「一丁上がり」の商品ではないということだ。乗り心地というメカ的な要素がなくなることはないし、厳しい安全性の確保という宿命もある。これらの要素は旧来の自動車メーカーに一日の長がある。

高速道路を快適にぶっ飛ばすというクルマを作るのは難しいが、街乗りに向いたパーソナルコミューターなら新規参入組も活躍の余地はもちろんある。またEV時代の競争条件は従来の自動車メーカーだけの条件よりも厳しくなるのは必至で、従来メーカーが企業努力を怠れば、脱落する恐れが十分あるのは確かである。

だが、「6重苦」の中で踏ん張る力が残っている日本の自動車メーカーは、おそらく総崩れの電機産業のようにはならないだろう。この楽観的な見方には、日本のカーガイ(自動車野郎)たちへのいささか多分な期待が含まれてはいるが。

  • [2012.02.16]
この記事につけられたタグ:

朝日新聞編集委員。1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て、88年、朝日新聞社入社。流通、不動産、自動車などの産業界や財政、通商政策などを担当。東京経済部次長を経て、05年から編集委員として企業経営や産業政策を担当。著書に「これからの優良企業」(PHP研究所)、「日米同盟経済」(共著、朝日新聞社)など。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告