自前主義との決別、「シャープ・鴻海」の提携

経済・ビジネス

台湾の電子機器受託製造世界最大手、鴻海精密工業との資本・業務提携について、記者会見で質問を聞くシャープの奥田隆司次期社長(写真提供=時事)。

シャープがEMS(電子機器の受託製造)で世界最大手の台湾・鴻海(ホンハイ)グループと資本業務提携に踏み出した。商品の企画、主要部品の製造・組み立て、販売までを自社で取り組む垂直統合モデルが日本の電機産業から消えつつあることを意味する。

韓国のサムスン電子や米アップルと対抗するにはアジアなどの新興勢力と手を組み、水平分業モデルに移行せざるを得なかったのだが、日本勢は魅力ある商品やサービスのコンセプトを作りあげるという難題に取り組まねばならない。さもなければ単なる部品供給メーカーにとどまってしまうだろう。

デジタル化がもたらした水平分業モデル

シャープやパナソニックの巨額の赤字の原因は自前主義にこだわったことでもある。大型テレビの主要部品であるパネルを自社生産し、そこに巨額投資をしてきた。最終商品のテレビが世界中で大量に売れていれば、自社工場で生産するパネルの量産効果は高まり、収益性は増す。しかし、パネル製造の損益分岐点を下回る量しか最終商品が売れなくなれば、たちまち巨額な赤字が内部にたまるリスクを抱えてしまう。

一方、シャープが提携した鴻海グループは米アップルの多くの製品の組み立てを引き受ける。そのためには高品質のパネルなど部品を大量に確保する必要がある。テレビへの参入が噂されるアップルは従来以上に高品質のパネルを求めており、鴻海にとっては日本勢との連携が悲願であった。シャープにとっては、稼働率が落ちた最新鋭の堺工場が生産するパネルを鴻海に供給できれば収益アップにつながる。双方の利害は一致した。

自前主義を捨て、水平分業へ歩み出すことはある意味でデジタル化がもたらす必然であった。デジタル化した部品の製造は機械加工部品に比べ、一定品質の部品をどこでも作りやすい。最終商品の組み立ても容易だ。こうした理由から台湾や中国、ASEAN諸国で安く作る部品や日本勢が作る部品を集めてデジタル家電としてアジアで組み立てるという水平分業のビジネスモデルが確立したのだ。米アップルは製造工程でそのモデルを駆使して成長した企業といえる。

そうした時代の潮流に日本勢は自前主義にこだわり乗り遅れた。巨大企業となったサムソンならば自前主義、すなわち垂直統合モデルの果実を得ることはいましばらく可能だろうが、グローバル市場でのシェアを落としてきた日本勢にとってもはや無理な話だった。

求められるコンセプト創造力

自前主義からの決別は新たな課題を日本勢に突きつける。日本企業や日本人が弱いと言われ続けたコンセプトづくりの能力アップだ。商品コンセプトが明確ならば、そこに向かってモノを開発し、組み立てることは日本は得意だ。しかし、日本の多くの会社は、世界の市場で何が求められ、どんな商品を作ればよいのか、そのためにはどこの企業と連携すればよいのか、というマーケティングに基づいた戦略思考は残念ながら弱い。

グローバル市場で勝ちうる商品・サービスのコンセプトを作りあげ、水平分業の中心に立ち、部品の調達や組み立て、販売の最適化に向けて重要な役割を演じる力が日本勢には求められている。その力がなければグローバルな巨大企業の手足となるだけである。

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