中国発の世界株安が日本を直撃
円高加わりアベノミクス限界論や “爆買い”不安も
[2015.08.28] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 |

2015年6月からの中国株価急落、8月の人民元切り下げに端を発した中国発の経済不安が世界を駆けめぐり、8月下旬には再び上海株下落を引き金として東京、ロンドン、ニューヨークと世界同時株安を巻き起こした。

中国経済の変調をにらんだ投資資金のリスク回避が株から為替、商品相場まで広がり、一時は日本円が1ドル=116円台に急騰。日本国内では自動車、建機などの対中関連株はもちろん、景気を下支えする中国人観光客による“爆買い”が減少するとの不安から百貨店などの小売株までが値を下げ注目された。

「5兆元」の株価対策でも効果は一時的

発端になった6月中旬から7月上旬までの3週間、上海市場の総合株価指数は高値(5178ポイント=6月12日)から35%安という異様な下げを記録した。このとき東京市場では日経平均が638円安の1万9737円と年初来最大の下げ、さらにニューヨーク市場ではダウ平均が261ドル急落し5カ月ぶりの安値をつけた。

これに対して中国政府は、人民銀行による追加利下げや資金供給からはじまって政府系ファンドの上場投資信託(ETF)購入、信用取引規制の緩和、大手証券会社の保有株凍結など「総額5兆元(約100兆円)」(ロイター)といわれる株価対策を相次いで打ち出した。さらに、「悪意の空売りを行った投資家の拘束」までが伝えられ市場関係者の驚きを誘った。

4月には共産党機関紙「人民日報」までが株高を歓迎するような記事を掲載し、当局も株高は国有企業改革に有利と好意的にみていただけに出来高の8割を占める個人投資家からは対策を求める声が噴出。政治課題化した株価急落を静観することはできなかったとみられている。その後上海、深圳両市場で約900社が自ら売買停止を申請。7月下旬には制限付きの状態ながら株価は安値から20%以上反発した。

この時の急落局面については、「昨年11月の利下げ以降、不動産市場から資金が流れ込んで、株価だけが異常に急騰したのは合理的理由がありませんでした」(瀬口清之キャノングローバル戦略研究所研究主幹)と冷静な受け止めもあり、市場も一時落ち着きを取り戻した。しかし中国政府の対策が市場を尊重する欧米型とは異なる「特殊な対応」とみえたことから、世界の投資家の間には不安の種が植え付けられていた。

急激な元安誘導は初めて

その不安心理を刺激したのが8月11日から13日にかけて中国人民銀行(中央銀行)が行った通貨・人民元の切り下げ。人民元の基準値は3日連続で計4.65%の大幅な調整が行われ、13日には一時1ドル=6.4489元と2011年7月以来の水準にまで対ドル相場が逆流した。05年の管理変動制導入から元高を容認・リードしてきた中国がこれほど急激な元安誘導を図るのは初めて。

中国側はこの切り下げを「国際通貨基金(IMF)にも求められている市場実勢の反映」と主張するが、輸出支援の側面も否定できず、「元安を演出して輸出を拡大する必要があるほど景気が悪いのか」と市場の思惑を誘った。12日夜には折悪しく、重要な中国北部の中心都市・天津で化学工場爆発事件が発生、100人以上が死亡した。徐々に明らかになって行くずさんな化学品管理や消防体制の実態や被害の大きさから日本企業の間でも中国の経済、治安状況一般に対する不安感が増幅された。

そして8月下旬、上海総合株価指数は4営業日連続で下げ、市場関係者の間で「中国政府の防衛ライン」とみられていた3500ポイントをあっさり割り込むと25日には8カ月ぶりの3000割れ。年初からの上昇分がほぼ吹き飛んだ。つれて東京市場では、日経平均株価は安倍政権発足以来で最も長い6営業日連続の下落となり半年ぶりに1万8000円台を割った。「株高と円安を推進力と頼んできた『アベノミクス』の限界も明らかだろう」(『朝日新聞』社説)との声まで飛び出した。続くニューヨークのダウ平均も1.3%安の1万5666ドルと1年半ぶりの安値をつけ「世界同時株安」が現実のものとなった。

これに対して中国政府は23日以降、①年金基金(総資産約70兆円)による株式投資、②昨年11月以来5回目の利下げや預金準備率の引き下げ、③1400億元(約2兆6000億円)の流動性供給―を矢継ぎ早に発表。続くニューヨーク市場がこれを好感し6年10カ月ぶりの上げ幅で反応し、翌日の東京もこれに続き負の連鎖に一応の区切りがついた。

中国経済の存在感を再確認

今回の世界の株式市場における負の連鎖は日本および世界にとっての中国経済の存在感を改めて際立たせた。

7%成長を目指す中国の実体経済悪化は必ずしも確認されたわけではないが、この間、景気減速から中国での独自動車メーカー、建機、製造業の生産調整も伝えられており、かつての二桁成長時代に比べれば減速感は否定できない。

中国は世界128カ国にとって最大の貿易相手国とされ、リーマンショックが発生した2008年以降には米国、EU、ASEANの対中輸出が急速に増加。貿易統計によると、日本にとっても米国と肩を並べる2番目の輸出相手国だ。最近中国経済の先行きに悲観的な論調が先行しがちだが、現実には日本の対中輸出(金額ベース)は今年に入ってもほぼ毎月前年比プラスを続けている。

また、中国は資源消費国としても鉄鉱石、石油、石炭から食糧まで多くの国際商品を輸入・消費している。原油先物価格をはじめとした国際的な商品相場はこの間、大きく落ち込んでおり、これもアベノミクス・黒田日銀が目指すインフレ目標達成に強い逆風となったのは否めない。その黒田総裁は25日ニューヨークでの講演で中国経済について「(市場は)過度に悲観的になりすぎている」「こうした状況での金融緩和は、下押し圧力を和らげる効果を踏まえたとき、適切だ。中国人民銀行の対応を歓迎する」とエールを送った。また中国経済の減速が及ぼす影響について、「東南アジアや韓国に影響がより出そうだ」としながらも「日本の主力輸出品である資本財には競争力がある」とコメントした。

日本のメディアでは、6月からの中国株価の急落局面でただちに「中国株安で『爆買いツアー』終えんか」「中国経済の失速は日本にどれだけ影響するか」(いずれも『毎日新聞』)などやや過熱気味に報道。「上海の株価は昨年11月以降に2500ポイントから実態と遊離した5000に急騰したわけで、それが2500程度まで反落するのは調整局面にすぎない」(瀬口主幹)という冷静なコメントは少数派だった。

訪日中国人の拡大は続くか

8月19日に公表された7月の訪日外国人客数は前年同月比51%増の191万8000人と単月としては過去最高を更新した。うち中国人は57万7000人と全地域を通じて初めて50万人を超えた。6月末からの株価急落による悪影響はまずは否定された。

観光庁はこの日一連の動きに対して「現時点で中国からの訪日旅行に影響はみられない」(久保成人長官)と表明した。海外への観光は中国経済の実態を表す指標の一つであり、人民元の対ドル切り下げ、さらなる株価急落と続いただけに次に発表される8月の訪日客数に注目が集まっている。

執筆=nippon.com編集部・三木孝治郎

カバー写真:激しく株価が乱高下する中国の株式市場(提供・Featurechina/アフロ)

  • [2015.08.28]
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