再登板プーチン大統領の発言に乗る危うさ

政治・外交

5月7日、プーチン氏が4年ぶりにロシア大統領に返り咲き、新体制下での第一歩を踏み出す。任期は2018年までの6年。08年以来の再登板となるプーチン大統領が、日ロ間の懸案、北方領土問題にどのように対応するのか。対する日本政府は、問題解決への糸口をつかめるのかどうか。楽観論・期待論が飛び交う。だが、「両国関係を取り巻く厳しさは変わらない」(外務省筋)。

プーチン発言に踊る見出し

メドベージェフ政権下の日ロ関係は、刺々しさのみが際立った。プーチン首相の大統領返り咲きが刻一刻近づくのに伴い、一条の光がさし込んだかのように楽観的な対ロシア論評が広がっている。発端となったのは、ロシア大統領選の投票日直前に行われた日欧主要紙との記者会見でのプーチン発言だった。

「北方領土 最終決着に意欲」「交渉進展に積極的」等々―日本から唯一、記者会見に出席した朝日新聞の見出しが躍った。

「引き分け(双方受け入れ可能な妥協)」「始め(接点を見い出すための話し合い開始)」―会見の席上、プーチン氏は日本語の柔道用語を使い、北方領土問題に取り組む基本姿勢を明らかにした。まず注目されたのは自ら領土問題の口火を切ったこと。そして、用意周到に練られたと思われる発言、そのポイントは次の通りだ。

  • 最終的には、「両国間の協力の拡大」を通じて解決を見い出すことが可能だ
  • 「領土的性質」を有する問題の解決が本質的なものでなく、「二次的なものとなるような状態」を達成する必要がある
  • 中国との国境問題交渉では40年間かけて「妥協的解決」を見い出したが、日本との間でも同様のことが起きることを期待する

大国ロシアは近年、市場としてのアジア太平洋への参入に意欲的だ。特にロシアにとって太平洋の出入り口に位置する日本は、様々な意味で、軽々に避けては通れない国になっている。対日接近は、世界第2位の長い国境線を持つ中ロ関係を念頭に、またエネルギー輸出市場としても、安く買い叩こうとする中国を強く意識、けん制のカードにもなり得るのだ。かつて日本側が領土問題解決に向けて志向したことのある「経済-領土の拡大均衡論を連想させる」(外務省幹部)。

領土問題は“棚上げ”の可能性も

だが、プーチン発言には軽々には乗れない危うさが潜む。

「両国間の協力拡大」は第一に経済交流・貿易拡大へのメッセージであり、同発言は、天然ガスの対日輸出、日本からのハイテク導入、企業誘致・投資などの拡大によってロシア経済を活性化させたいとの意思表示であるとともに、結果的に領土問題が「二次的なものとなる」ことにつながるとの期待感がにじむ。即ち、日本から見れば経済次元で〝いい所取り”され、実質的には領土問題が「棚上げ」される可能性もあるのだ。現に、こうした懸念を示す専門家も少なくない。

事は国家主権の問題である。

袴田茂樹青山学院大学名誉教授によると、56年日ソ共同宣言にある「引き渡し」は「返還」を意味しない。では、何を意味するのか。交渉の結果、日本(人)に対して島の経済開発権や居住権が与えられたとしても、北方領土は依然としてロシアの統治下にある状態を指す。つまり、「それはロシア領であり、日本領では決してないという可能性は十分あり得る」(外務省幹部)ということになる。

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