「アジア重視外交」の虚実 第二次オバマ政権と日本

政治・外交

2期目に入る米国大統領は、ひたすら再選を目指し選挙優先で取り組む第1期と異なって、歴史に名を残すことを考え始める。既に黒人初の大統領として歴史に名を刻んだオバマ大統領の場合も、例外ではないだろう。「財政の崖」に象徴されるように内政は諸課題が山積。大統領の関心は外交へと向かう。「太平洋国家」を標榜し、アジア重視に舵を切った第一次オバマ政権だったが、2期目ではその内実が問われる。米「アジア戦略」の要となるはずの日本には、何が求められようとしているのか。

「財政の壁」が立ちはだかる米アジア戦略

オバマ大統領は再選後初の外遊を、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開かれたカンボジアと、タイ、ミャンマー歴訪に充てた。ASEANの一部と中国が領有権を争う南シナ海問題で中国寄りのカンボジアにクサビを打ち込む一方、インドシナ・メコン河沿いに中国が展開する南下戦略の拠点のひとつ、ミャンマーの民主化を後押しする狙いがある。アジア繁栄の果実を摘み取りながら中国とどう向き合っていくか―オバマ政権のアジア重視戦略は「2期目に入っても基本は変わらない」(藤崎一郎駐米大使)。が、それが真に実を伴うものとして成果を収められるか否かはそう容易ではない。

4年連続1兆ドルを超える財政赤字を余儀なくされているオバマ政権は、1期目の内政の成果といえる弱者への手厚い“恵み”である社会保険費を堅持。代わって、その財源を捻出するため国防費を大幅に切り込む道を選んだ。10年間で5000億ドルの削減。1年の削減額は日本の防衛予算に相当する。オバマ政権がアジア戦略を実質的に進めようとすると、「財政の崖」ならぬ「財政の壁」にぶち当たる。

「日米同盟を基軸に中国と向き合う」―日本の安保・外交の基本だが、南西重視・島嶼(とうしょ)防衛、動的防衛力整備等々、例えば尖閣諸島を自身で守る決意と併せて、率先した自衛力の強化がまず求められる。日本は財政負担が益々拡大することを覚悟しなければならない。財政的負担は、オバマ政権のアジア重視戦略と表裏の関係にある。

日本に最良だった「クリントン-キャンベル」後の陣容を注視

こうした中、日本政府が注視しているのが対アジア外交の新陣容だ。これまでアジア重視戦略推進の柱として外交を仕切ってきたクリントン国務長官の退任は確定的、その下で対日政策やアジア外交を動かしてきたキャンベル国務次官補(東アジア太平洋担当)も政府を離れる見通しだ。パネッタ国防長官も退任する意向と見られる。

外交で実力を発揮し高い評価を得ているクリントン氏、日本をよく知るキャンベル氏のコンビは強力だった。就任後初の外遊先に日本を選んだクリントン国務長官は、欧州、ロシア、中東に偏りがちな米国の外交を、視野広く眼下に納めつつ、バランスよくアジア重視外交を展開してきた。「日本外交にとって、今、これ以上のコンビを見つけるのは難しい」(外務省幹部)。

国務長官の後任候補には、国防長官候補でもあるジョン・ケリー上院議員をはじめ、ハワード・バーマン前外交委員会委員長、トーマス・ドニロン国家安全保障大統領補佐官、スーザン・ライス国連大使のほか、共和党のチャック・ヘーゲル元上院議員らの名が挙がる。一方、国務次官補の候補はと言えば、マイケル・シーファー、フランク・ジャヌージ、リチャード・ブッシュ、ケネス・リバソール、スーザン・シャークらの名が取り沙汰されている。

どのような組み合わせになるかは流動的だが、第二次オバマ政権の外交は、「アジア重視」が看板倒れになる可能性もある。懸念が益々強まるイランの核問題、混迷深まる中東情勢などに足をすくわれ、軸足は実質的には対中東外交に置かれたままとなることも予想される。「政策に基本的な変化はなくとも、人が代わることで日米関係に影響が出てくるのは否定できない」(藤崎駐米大使)だろう。

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