イラン、ロウハニ大統領の誕生と第2の転換点

水口 章【Profile】

[2013.07.10]

2013年6月14日に行われたイラン大統領選挙は、1979年のイラン革命から今日までの同国の歩みの中で、第2の転換点になり得ると分析できる。その理由は、2009年の大統領選挙での不正操作に抗議する市民の「緑の運動」に対する弾圧を経て、改革派と保守穏健派が一体となりロウハニ師(得票率50.7%)を当選させたからだ。

第1の転換点、ポスト・ホメイニの現実路線

イランは革命後、イラン・イラク戦争(1980~88年)を経てホメイニ師の死去(89年5月)まで、ホメイニ師のもとで革命の擁護と理想の追求という路線を駆け抜けることができた。しかし、戦後の経済復興、同師の死去によるイスラムの権威の低下により、ポスト・ホメイニ体制は現実路線への転換に迫られた。

同体制の特色は、政策決定過程で三権の長を核とする集団指導部である特別評議会が設置されたことである。また、大統領、司法府の権限や分担を見直す機構改革も行われた。さらに、新最高指導者の権威について理論付けするため、同指導者はイスラム法に優先する「統治布令」(afkame hokumati)を発出できるとした。この新体制の中心的存在が最高指導者となったハーメネイ師と新大統領のラフサンジャニ師であった。

新体制に対しては当然、ホメイニ師と共に革命を推進し既得権益を得ている人々からの抵抗もあった。しかし、新体制は革命防衛隊をはじめ革命を前線で支えた組織を取り込むことで強靭(きょうじん)性を高めていった。また、対外政策では、新体制樹立から現在までにイラン周辺の湾岸地域で、湾岸戦争(1990〜91年)、イラク戦争(2003〜11年)が起きているが、同地域での外国軍の駐留を一貫して認めないとの強硬的政策を通している。

その後、このポスト・ホメイニ体制に変化が見られるようになる。それは、国防次官、革命防衛隊司令官という経歴を有するハーメネイ最高指導者が革命防衛隊との結びつきを強める中で、ラフサンジャニ師との関係を変えていったことである。

第2の転換点、ハーメネイ一極体制に“風穴”

イラン次期大統領ロウハニ氏が記者会見で抱負を語った。(写真=アフロ)

今回実施された第11期大統領選挙の注目点の1つは、立候補者資格審査で護憲評議会がラフサンジャニ師を認めなかったことである。この決定に対し、国内外から厳しい声が上がった。特に国際メディアでは「一つの集団がすべての権力手段を所有することを望んでいる」(5月23日付ルモンド紙)、「ハーメネイ師は信頼を集めている人物すべてを押しのけることで権力基盤を固めようとしている」(5月23日付フィナンシャル・タイムズ紙)など、1939年生まれで74歳を迎えるハーメネイ師が89年6月以来、24年に及ぶ長期政権を敷き権力を掌握していることへの批判が見られた。

また、ラフサンジャニ師が参戦しなかったことで、同師の信頼厚い立候補者であったジャリーリー氏(国家安全保障最高評議会書記、核交渉責任者)が選挙戦で有利な展開となったとの報道もあった。

ラフサンジャニ師は、かつてホメイニ師の右腕として革命体制を支えた人物である。しかし、2009年には「緑の運動」の理解者との立場をとり、同師の娘と息子は現在も同運動に加わっている。この点から見れば、ラフサンジャニ師の方から反体制側につくことでハーメネイ師の勢力と袂を分かったことになる。この時点で、ポスト・ホメイニ体制はハーメネイ師の一極体制となったとの見方もできる。

しかし、今回の選挙では、ラフサンジャニ師とハタミ元大統領が支えたロウハニ候補が勝利し、三権の1つのポストを確保した。ただ、これによりハーメネイ一極体制が崩れたと見ることはできない。イランでは、立法府と司法府は大統領に対し罷免勧告を出すことができる一方、大統領はこの2つに対する対抗権限を持たず、弱い立場にあるからだ。

これらのことから、今後のイランの動向は、ロウハニ師を当選させた市民の支持の継続が1つのポイントとなる。そのためには、同師が選挙戦で述べた経済政策と対外政策を新政権で実施できるかどうかが重要となる。

市民の支持がカギを握る新大統領の政策

ロウハニ師の選挙スローガンは「深慮と希望の政治」であり、経済の立て直しと国際関係改善を明言した。具体的に、経済では通貨供給量を速やかに抑え、投機にまわっていた資金を生産部門へと誘導し、失業率を1桁台にするとともに、インフレを抑制することを挙げている。

外交では、近隣15か国すべての国との友好的な関係構築に言及しており、特にサウジアラビアとの政策協調を挙げている。シリア問題については、同国の命運を決めるべき最終的な意思決定者はシリア国民だとした上で、国際協力の下での速やかな平和回復を願っていると語った。そして、注目される核開発問題では、「合法的」と強調し、透明性を高め、国際社会に現状の理解を深めてもらうと表明した。

こうした政策を掲げるロウハニ師に対する市民の要望が高まる中、ハタミ元大統領は市民に対し早急に結果を求めることがないよう語っている。イランは革命から34年目を迎えている。ロウハニ師を支持した若者たちだけでなく、政府や関係組織の中にも革命やイラン・イラク戦争を知らない人々が増えている。

今後、最高指導者のもとで国内がまとまっていくのか、それとも二極化が進み、多様な意見を調整する政治へと変化していくのか。1つのカギは、今回の選挙戦でも積極的に使われたソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の自由な利用が今後どこまで容認されるかだろう。自らにも向けられる可能性のあるSNSをロウハニ新大統領はどのようにコントロールしていくのか、注目される。

  • [2013.07.10]
この記事につけられたタグ:

敬愛大学教授。1954年生まれ。日本大学文理学部史学科卒業。専門は中東地域研究、国際社会学、対外政策。財団法人中東調査会上席研究員、『中東研究』編集長などを歴任。2010年4月より現職。著書に『中東を理解する―社会空間論的アプローチ』(日本評論社/2010年)など。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告