問われる近隣関係―ずれ込む対中・対韓修復
参院選後の安倍外交、9月に焦点

鈴木 美勝【Profile】

[2013.07.19] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

G8サミット出席のため、英国ベルファスト空港に到着した安倍首相。写真=代表撮影/AP/アフロ

就任後半年余り、安倍晋三首相が精力的に展開してきた戦略外交は、ふたつの原則で貫かれているように見える。

第1は、野田政権以来、最悪の状態が続いている中国および韓国との関係だが、主権や歴史に関わる問題で妥協しない点だ。これが特に対中国では、首相自身が強調する「価値観外交」の推進につながる。その結果、年初以来展開している安倍外交の軌跡が、マスコミの目には「中国包囲網」に映る。

第2は、月1回(以上)の外遊を実行することだ。歴代首相は、年の前半は国会に縛られ、外交面が薄くなりがちだったが、安倍首相は異例のハイペースで首脳外交を展開している。

参院選後も安倍戦略外交2原則に変化はない。

チキンレース続く日中関係

安倍戦略外交の最重要課題は参院選後も、中国、韓国、北朝鮮との近隣外交である。

当面は9月の首脳外交が焦点となる。6月初め、外務省幹部が頭に描いていたのは、まず6月30日〜7月1日の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)外相会合を好機と捉えて中国、韓国との外相会談(あるいは対話)を実現し、9月5、6両日のG20サミットの際に首脳レベル会談に上げるとのシナリオだった。

このうち、韓国との関係修復問題は、ARF会合の際に両国の外相会談が米国の仲介努力によって実現、一定の前進が図られた。が、対中関係では期待通りの成果は得られなかった。例えば、次のエピソードは日中両国の現状を浮き彫りにした。会合の期間中、岸田文雄外相と王毅外相が「3回握手する場面はあった」(外務省筋)ものの、その際、二人は対話どころか、ひと言も言葉を交わすことはなかった。

しかも、「王毅外相がテレビ、カメラに絵を撮られるのを避けていた」(同)ことがありあり見て取れたという。王毅外相は駐日大使を経験した知日派ゆえに、逆に柔軟な対応はできない。ナショナリズムが底上げされた日中関係の現状では、国内の目が予想以上に厳しいためだ。

こうした動きの延長線上で考えれば、安倍首相と習近平国家主席が出席する予定のG20サンクトペテルブルグ・サミットの際の首脳会談は絶望的と見ていいだろう。外務省内からは「外相レベルの会談を抜きに、いきなり首脳レベルに上げることはない。非公式に言葉を交わす『対話』も実現は難しくなったのではないか」(同省高官)との声も漏れ聞こえてくる。

国内に、数多くの社会問題を抱える習近平政権は、様々な思惑が蠢(うごめ)く権力の伏魔殿・中南海にあって、その足許が固まっていない。加えてポピュリズムの嵐に洗われ、ネット世論が大きな影響力を持つに至った中国政治において、微妙なバランスの上に乗る習近平。そんな政権が、領海侵犯によって既成事実を積み上げている中国側の妥協ラインを簡単に下げるとも思えない。

「日本側の対話のドアはいつでも開いているが、首脳会談の開催に条件をつけた形では受けられない」(安倍首相)―日本側は、尖閣諸島問題の「争議」を認めることなどを前提にした首脳会談には応じない姿勢だ。日中のチキンレースは続く。

先行きなお不透明な朝鮮半島問題

対韓関係は、ARF会合の際の日韓外相会談によって、潮目が変わったように見える。7月11、12両日、斎木昭隆外務事務次官が訪韓したのは、9月に焦点を当てた日韓首脳会談への地ならしのためだ。外交当局が関係修復に向けて動き出したのは事実だが、朴槿恵大統領は、従軍慰安婦問題と竹島(韓国名・独島)問題での日本の姿勢を相変わらず批判し続けている。過度の楽観論は禁物だ。

北朝鮮問題に関しては、6月の米中首脳会談の結果、「北朝鮮の非核化で一致」したのを受けて、中国の積極的な対朝鮮半島外交が際立つ。南北対話も、開城(ケソン)工業団地問題を取っ掛かりに始まった。北朝鮮が最重視する米朝協議、そして6者協議再開を視野に環境整備が始まった段階だ。

日本の対北朝鮮外交はといえば、5月の飯島勲内閣参与の訪朝が結果的には「北朝鮮の対話モードへの転換を対外的に示す象徴的な動きに使われた」ともいえる。まず“日韓修復の儀式(首脳会談)”が行われ、日米韓の足並みが揃った上でなければ、本格的に動くことはないだろう。

東京五輪誘致に意欲

一方、近隣外交以外では、米国が中心になって推し進める環太平洋経済連携構想(TPP)をめぐる交渉への参加が現実のものとなる。安保の分野でも、日米連携強化に向けて、安倍内閣で懸案となっている集団的自衛権4類型の容認化が進む。9月に報告書、10月には政府見解が出される予定だ。また年内には、日本政府として初の「国家安全保障戦略」構想や新しい「防衛計画の大綱」が策定される見通しだ。

こうした中で安倍首相が意欲を燃やしている国際的イベントは、9月下旬の国連総会に先立って自ら出席する予定のブエノスアイレスでのIOC総会(9月7日)だ。同総会では2020年夏季五輪の開催地が決定されるためだ。東京誘致を勝ち取れれば、日本の存在感を世界に誇示し、安倍人気にもつながる。同時に、政権の命運がかかるアベノミクスの下支えにもなるとの計算が働いていても不思議ではない。

  • [2013.07.19]
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時事通信解説委員。『外交』前編集長。早稲田大学政経学部卒業後、時事通信政治部に配属。ワシントン特派員、外務省、首相官邸、自民党各記者クラブキャップを経て、政治部次長、ニューヨーク総局長、解説副委員長、編集局総務、時事Janet編集長。著書に『いまだに続く「敗戦国外交」』(草思社)、『小沢一郎はなぜTVで殴られたか』(文藝春秋)など。

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