緊迫国会で「特定秘密保護法」成立
[2013.12.10] 他の言語で読む : ENGLISH |

「特定秘密保護法」が国会での激しい攻防の末、2013年12月6日に成立した。国の外交や安全保障にかかわる機密情報を守るための法制化を急ぐ政府・与党と、国民の「知る権利」が脅かされると反発した野党が鋭く対立。重要法案にもかかわらず、与党側が強行採決をするなど強引な国会運営もあり、近年にない紛糾国会となった。

日本版NSCと特定秘密保護法は「車の両輪」

安倍内閣が特定秘密保護法の成立に強い意欲を示したのは、この法律が外交・安全保障政策の司令塔となる「国家安全保障会議(日本版NSC)」(12月4日発足)とともに、わが国の安全保障戦略に必要な「車の両輪」と位置づけられているためだ。背景には、北朝鮮の核・ミサイル開発、中国による東シナ海上の防空識別圏設定や海洋進出の動きなど、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさがある。また、インターネット社会の到来で機密情報漏えいの危険性が増している、という指摘もある。

日本は“スパイ天国”と指摘される中で、同盟国や友好国と重要情報の交換・共有を進めるためには、機密漏えい防止のための法整備が不可欠である。現行の国家公務員法や自衛隊法でも、政府の重要情報や防衛情報を公務員や自衛隊員らが漏えいすれば処罰されるが、安全保障に関する包括的な法制が存在しないため、機密情報の保全態勢を欧米並みに整備することが急務と判断した。

「知る権利」侵害への不安感など噴出

成立した特定秘密保護法は、国家や国民の安全に直結する秘密情報の漏えいを防ぐことを目的に、日本の安全保障に関する情報のうち、特に秘匿することが必要なものを「特定秘密」として指定し、秘密情報の取扱者に秘密漏えいの恐れがないかを調査する「適正評価」の実施や、漏えいした場合の罰則などを定めた。

しかし、この法律が施行されれば「報道・取材の自由が制約される恐れがある」として、新聞各紙での厳しい論調が目立った。在京全国紙の一部が「条件付きながら評価」したが、その他多くの全国紙や地方紙が強い批判を展開し、廃案ないし法案修正を求めた。メディアのほか学者や法律家、文化人、民間団体、地方自治体などからもこの法案に対する反対の声が高まり、臨時国会終盤には反対デモや大規模な反対集会が相次いだ。

成立した法律の問題点として指摘されているのは、(1)「知る権利」の侵害の恐れがあり、また秘密の範囲があいまいであること、(2)秘密指定の期間が最長60年と長く、特に重要な7項目(武器・弾薬や情報収集活動の手法、暗号などの情報)は例外扱い、(3)秘密の指定や解除について第三者機関によるチェック体制は万全なのか、(4)「適正評価」が個人のプライバシーや人権を侵害しないか、などがある。

第三者機関のチェック態勢など課題も

「知る権利」の侵害への懸念は、以下のような点だ。例えば、大量の秘密の指定やその範囲、将来の解除などは実質的に省庁担当者の裁量に委ねられている。その際、恣意的に秘密指定を拡大し、都合の悪い情報を秘匿し続ける恐れはないのか。「特定秘密」の拡大や罰則強化により報道・取材の自由が制約され、国民の「知る権利」が損なわれる恐れがある、というわけだ。

このため、恣意的な秘密指定がないかのチェック体制については、秘密の指定や解除について権限を持つ「第三者機関」をどのように設置するかが焦点となった。政府は国会審議を通じ、個々の秘密を検証・監察する「情報保全監察室」、事務次官級による「保全監視委員会」を法律施行までに設置し、「秘密指定の妥当性などのチェックに当たる」と表明した。しかし、この方法では独立の第三者機関によるチェックにはほど遠いとの批判がある。

罰則規定も注目された。公務員らが特定秘密情報を漏らした場合、その罰則を一律に「最高10年の懲役」とした。現行の公務員法違反での「懲役1年以下」に比べ、10倍に罰則を強化。取材記者などが公務員から不正に情報を得た場合でも最高10年の懲役、情報漏えいを公務員に唆すだけでも処罰の対象となる。こうした罰則は米国並みに強化されるが、他の主要国に比べると重い。厳罰化によって、公務員が報道機関など第三者と接触するのを過度に避けたり、国民が知りたい情報を出し渋ったりする可能性もある。

主要国の秘密保護制度

  秘密保護の対象 秘密保持期間 罰則
日本
※「特定秘密保護法」 新設
防衛・外交・スパイ活動防止・テロ防止の4分野のうち、特に重要とされる情報 原則30年。最長60年。ただし、武器や航空機、暗号などの7項目は、さらに期間延長も 公務員らによる故意の漏えいは、懲役10年以下。過失は2年以下の禁固
米国 軍事機密、政府の対外外交活動、インテリジェンス活動の情報源など 原則25年。情報源などについては、最長75年もあり。その他例外あり 10年以下
英国 スパイ活動、国際・防衛関係、インテリジェンス活動の情報源など 原則20年。その他例外あり 公務員などによる漏えいは、2年以下
ドイツ 国家機密情報など、その他重要な情報 原則30年 重要な情報は10年以下。国家機密に関しては5年以下
フランス 国防機密の他、破壊兵器の製造・製法に関する情報など 国防機密は最大50年。そのほか、永久非公開が義務付けられる情報あり 7年以下
韓国 安全保障に支障をきたす恐れのある情報、外交情報など 原則30年。その他例外あり 10年以下

秘密取扱者への「適正評価」を義務付け

また今回の法律で、秘密を扱う公務員らに対する「適正評価」を義務付けた。政府と契約を結んだ防衛産業など民間企業の担当者も調査の対象となる。この「適正評価」で調査さる個人情報は、国籍、スパイ・テロ活動との関係、犯罪、懲戒歴、薬物乱用歴、飲酒の節度、経済状況など多岐にわたる。その他、親や配偶者、子、兄弟姉妹などの国籍や住所も調査対象となる。こうした個人情報の調査がプライバシーの侵害や人権問題につながる恐れがないか、法曹関係者らも疑問を呈した。

さらに問題とされているのは、政府が指定する特定秘密について、国会議員でも原則として中身を知ることができない点だ。これは、憲法で定められた国政調査権よりも、国の安全保障にかかわる秘密保持を優先していることになる。例外的に非公開の委員会(秘密会)などには特定秘密を提供できるとしているが、出席した国会議員がその情報を漏らせば処罰対象となる。

「国権の最高機関」と位置づけられる国会といえども、「秘密指定」された情報に関しては政府を監視することが難しくなる。国会機能が低下すれば、「三権分立」の原則が形骸化する恐れもある。

(2013年12月10日 編集部記)

  • [2013.12.10]
この記事につけられたタグ:
関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告