メージャー元首相、危機への共同対処を提言
[2014.10.06] 他の言語で読む : ENGLISH | العربية |

2回目を迎えた日英グローバル・セミナー

西側諸国がイスラム原理主義勢力によるテロなどグローバルな地政学的リスク・危機への対応に苦慮する中、西側諸国と日本を中心とするアジア諸国がいかに協力を強化し取り組むべきか議論を交わした「日英グローバル・セミナー」が10月2日、3日の両日、東京で開催された。英国のメージャー元首相は基調講演で「アジアと欧州は国境を越えた出来事に対し利害を共有している」と語り、両者が協力して対処する必要性を強調した。

英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)と日本財団の共催、グレイトブリテン・ササカワ財団の協力によるセミナーは、昨年のロンドン・チャタム・ハウスでの初会合に次ぐ今回が2回目。

中国の軍事台頭に警告

メージャー氏は「欧州における安全保障と地域的枠組み:アジアへの示唆」と題した講演で、シリア、イラクなどの中東地域での混乱、ウクライナをめぐる西側とロシアの確執やアジア地域での軍事的、政治的な紛争などに言及。アジアについては特に中国の軍事的な台頭と増大する防衛費に触れ、同国の東、南シナ海での勢力拡大が、日本、フィリッピン、ベトナムなどと緊張を生んでいると警告した。また、同国が設定した防空識別圏もアジアの懸念材料に加わった、と指摘した。

その上で、欧州が欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の設立などを通じ、域内の問題を克服してきた経験などを披露、アジア・欧州会議などの場を通じ、欧州がアジア諸国間の緊張緩和に貢献できるよう期待を示した。

メージャー氏は保守党を率いて1990から1997年まで首相を務めた。サダム・フセイン・イラク大統領のクウェート侵攻直後に首相に就任し、米国とともにイラク戦争を主導。スレブレニツアの虐殺など凄惨を極めたボスニア・ヘルツエゴビナ紛争に対しても、EUとNATOのリーダーの一人として対応した。一方、英国は今年9月30日、米国主導で行われているイラク、シリア内のイスラム過激派組織、イスラム国(ISIS)などに対する空爆作戦への参加に踏み切っている。

中東での地上作戦には慎重姿勢

同氏は質疑応答で、現在のシリア、イラク情勢について、今後、西側諸国が紛争拡大阻止を目指し地上軍の投入に踏み切るべきかと問われたが、地上作戦はアラブ、クルド人など地元の勢力が主導すべきとの立場から、慎重な姿勢を示した。

国連安保理事会の定数拡大問題については、安保理が第2次世界大戦の戦勝5カ国で設立された時点と現在は世界情勢がまったく違うとの認識を示し、日本、ドイツ、南アフリカ、ブラジルなども含めて、拡大を図るべきとの考えを明らかにした。

破たん国家への対応の困難さ浮き彫り

セミナーの1日目は、破壊国家・破たんしつつある国家への対応、人災・自然災害への取り組み、民主主義への移行期にある国家へのかかわり方の3分野で幅広い討議を行った。

チャタムハウスのロビン・ニブレット所長がモデレーターを務めた破たん国家をめぐる討議では、日本の政府開発援助(ODA)を実行する国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長が、紛争を経験した破たん国家再建の「まれな成功例」として、カンボジアやルワンダ、ニカラグアなどのケースに言及、紛争を収拾した現地の指導者や選挙という民主的なプロセスの役割の重要性を指摘した。新潟県立大学の猪口孝学長は、日本としては国連機関を通じた人道支援と教育分野での支援などに重点を置くべきとの考えを明らかにした。

この日の討議にはオックスフォード大学・政治・国際関係学部のアダム・ロバーツ名誉教授や国連大学学長で国連事務次長のデイビッド・マローン氏など各界識者が参加した。

2日目は3つの大きなテーマの下に、破たん国家とされるシリアなど中東をめぐる問題や人災・自然災害の複合ケースとして東京電力福島第一原子力発電所の事故などを取り上げた。

(日本財団提供)

日本は難民問題で貢献を

東京大学大学院法学政治学研究科の藤原帰一教授は中東問題について、日本は難民支援に非常に高い実績を持っていると指摘、ISISなどへの空爆作戦を行っている英国、米国とは違うアプローチとして人道的支援に重点を置いた施策と取るべきだと主張した。

国連難民高等弁護官事務所(UNHCR)が8月29日に発表した資料によると、シリア難民の数は過去最大の300万人を超えた。シリア全人口の約半数が家を追われ、8人に1人が周辺国に避難。難民は特にレバノン(114万人)、ヨルダン(60万8000人)、トルコ(81万5000人)の3カ国に集中しているという。

これについて国連人道問題調整事務所(UNOCHA)のナイジェル・フィッシャー元シリア担当調整官は、難民受け入れ国のうち、レバノンは、難民の圧力により資源をめぐる競合が発生、緊張、安全保障の問題を引き起こし、存在の危機にあると警告した。一方、英国放送協会(BBC)のマイケル・ウィリアムス理事は、英国はヨルダンとは非常に良好な2国間関係があるので、同国に対する支援で日本と協調できるとの考えを述べた。

一方、原発問題では政策研究大学院大学の黒川清アカデミックフェロー(元国会の福島原発事故調査委員会委員長)が、同委員会が事故の教訓を踏まえた7つの提言を発表したことなどを披露したうえで、日英、両国は島国で、人口密度も高く、資源が少ないなどの共通点があり、エネルギー問題で協力していける可能性があると指摘した。

テンプル大学ジャパンキャンパスのジェフェリー・キングストン・東アジア研究ディレクターは、住民の避難計画の欠如などを指摘し、現時点での原発再稼働については否定的見解を示した。脱原発を推進するドイツのベルリン自由大学政治学科のラッツ・メツ教授も討議に参加した。

 

タイトル写真=セミナーで講演されるジョン・メージャー元英国首相(日本財団提供)

  • [2014.10.06]
この記事につけられたタグ:
関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告