「逆オイルショック」の光と影—世界経済の波乱要因にも
[2014.12.30] 他の言語で読む : Русский |

国際市場で原油価格が下落を続けている。2014年夏からほぼ半年で4割も急落し、5年ぶりの安値となった。エネルギー輸入国の日本には朗報だが、急激な原油安は世界経済への新たな波乱要因になりつつある。「逆オイルショック」の様相も見せ始めた原油安の光と影。年明け以降も注視していく必要がある。

ガソリン価格は22週連続で下落

日本では冬場の需要期を迎え、ガソリン・灯油価格の値下がりが原材料や製品価格の上昇に悩まされてきた産業界や一般家庭に恩恵をもたらしている。資源エネルギー庁によると、レギュラーガソリンの店頭価格(全国平均)は12月17日時点で1リットル当たり152.4円となり、22週連続で値下がりした。灯油の店頭価格も17週連続の下落で、1リットル当たり97.8円と100円を割り込んだ。

1ドル=120円に近づいた円安進行で輸入コストは上昇するが、急激な原油安がガソリンや灯油の値上がりを抑制する形となっている。さらに原油安は電気・ガス料金の引き下げを促す追い風にもなり、日本経済にはプラスの要素が大きい。

今回の原油安については「近い将来、石油需要が減少に転じ、石油価格が1980年代半ばのように暴落する可能性がある」との見方が専門家の間で出ていた。1980年代の暴落とは、それ以前の2度のオイルショックを苦い教訓に、石油消費国が代替エネルギー導入や省エネ推進などの動きを強めた結果、世界の石油需要が低迷し始めた一方で、中東産油地域から締め出された石油メジャーが非OPEC地域で石油増産に動いたため、石油需給バランスが崩れ生じたものだ。

OPECの減産見送りを機に原油安加速

今回の急激な原油安の要因は、次のような点だ。まず、2014年11月27日の石油輸出機構(OPEC)総会で、現在の日量3000万バレルの生産目標をOPECが維持し、減産を見送る方針を打ち出したことだ。これにより、原油の需給関係がさらに緩むとの見方が広がった。

国際原油市場はOPECの動きに反応し、12月に入ると指標の一つである北海ブレント原油先物が1バレル=68ドルまで急落、6月時点の111ドル台に比べ4割近く水準を下げた。ニューヨーク原油先物市場では指標のウエストテキサス・インターミディエート(WTI)の価格が12月12日時点で、1バレル=60ドル台を割り込み、5年5カ月ぶりの安値をつけた。

OPEC総会で減産見送りが決まったのは、加盟12カ国の中で価格調整の主導権を握る世界最大の産油国・サウジアラビアが減産に踏み切らなかったためだ。OPEC内の結束が乱れ、原油の需給バランスや価格維持機能が失われれば、OPECの事実上の崩壊にもつながりかねない。

サウジの減産見送りについては、様々な解説や憶測も伝えられた。その中には、サウジが米国と組んで、原油売却益を資金源とするイスラム過激組織「イスラム国」を経済的に追い詰め、あるいはウクライナ問題で欧米と対立するロシア経済に打撃を与えるのが狙い――との興味深い観測もある。プーチン・ロシア大統領も記者会見の場で、こうした“陰謀説”を口にした。

米国のシェールオイル革命で構造変化

原油安の背景には、米国の「シェール革命」という構造的変化もある。米国のシェールオイル採掘が本格化し、2014年の総生産量は日量400万バレルを超え、米国の石油生産量の半分近くに達する。2015年にはサウジアラビアやロシアを抜いて米国が世界一の産油国になるとみられている。石油消費国である米国は今や産油国の立場から、世界の原油相場を変える力を持ち始めた。

需要面でも原油安につながる要因がある。主要な石油消費国で需要が頭打ちになっていることだ。中でもデフレ突入の可能性も指摘されるユーロ圏経済の成長力が弱いことや、世界第2の経済大国となった中国が年平均10%前後の高成長から7%程度の成長率にスローダウンしていることが影響している。

日本が原油安の恩恵を最も享受

原油安の恩恵を最も受ける国は、エネルギーを大量に消費すると同時に、石油輸入依存度が高い国ということになる。英紙『フィナンシャル・タイムズ』は、今回の原油急落を「世界経済にとって、今年最大の衝撃的な出来事」とし、世界各国への影響を分析している。その中で、エネルギー資源の乏しい日本は紛れもなくメリットを受ける国と位置づけている。

輸入原材料の値上がりに苦しむ中小企業や一般家庭には確かに救いとなる。そればかりか、原油安は産業界の生産コスト引き下げに寄与し、電気料金の引き下げを促す材料にもなる。日本経済全体を活性化させる効果もある。例えば、原油価格が3割低下すれば、今年4月の消費税率引き上げ分(3%)を相殺できる、との指摘もある。予想を超える原油安はデフレ脱却に向けて2年間で「消費者物価2%上昇」を目指す政府の思惑とは逆に作用するが、景気浮揚効果は歓迎できるものだ。

日本経済が直面する懸案が原油安ですべて解決するわけではないが、この原油安トレンドが今後も続くなら、資源輸入国の日本にとって、大きな潮流の変化となる可能性はある。

波乱要因にもなる原油安の先行き

問題は今回の原油安がもたらす世界経済への影響である。石油消費国にはコスト削減効果が及ぶが、産油国経済には打撃となる。同時に原油安による投資マネーの流れが変わり、各国の株式市場を不安定化させる可能性もある。特に、石油・天然ガスなどエネルギーの輸出額で7割近い外貨を稼いでいるロシアでは、今回の原油安とルーブル安のダブルパンチで国内経済が悪化し、先行き不安が広がっている。

ロシア政府の予測によると、来年のGDP成長率はマイナス0.8%となる見通しという。ルーブル暴落といった事態になれば、その影響が各国金融市場に跳ね返り、新たな混乱要因となる。原油安はさらもメキシコ、ベネズエラ、ブラジルなど中南米の産油国に打撃を与える恐れがある。

今回の原油安が文字通り「逆オイルショック」として影響を広げていくのかどうかは、まだ不透明だ。原油相場の今後の見通しについても「来春には再び上昇する」「半年程度は続く」など、専門家の見方も分かれている。各国の思惑が交錯する中で、ロシアへの追加経済制裁に動く米国の姿勢や、欧米との対決姿勢を崩さないロシアの対応がどう変化するか。さらにOPEC諸国が結束力を取り戻すか、注目すべき点は多い。

タイトル写真:鹿児島県喜入町にある世界最大級の石油備蓄基地

  • [2014.12.30]
この記事につけられたタグ:
関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告