政情安定ゆえにチュニジアはテロの標的となった
[2015.03.20]

またISテロか、日本人犠牲に

3月18日、北アフリカ、チュニジアの首都チュニスで、武装集団が国立バルドー博物館を襲撃。観光客らを人質に立てこもったが、チュニジアの治安部隊と銃撃戦になり、双方と人質に多数の死傷者が発生した。犠牲者は20人以上。日本政府が確認したところによると、日本人観光客が3人死亡、3人負傷したという。

チュニジアは古代の都市国家カルタゴがあった場所で、ローマ時代の遺跡が数多く残る。チュニスのバルドー博物館は、先史時代からギリシャ、ローマ時代の遺物、イスラム各王朝の美術品などの充実した収蔵品をもち、日本人を含め海外からの数多くの観光客を集めている。今回、被害にあった日本人も地中海クルーズの団体客で、チュニス寄港の際のオプションツアーで同博物館を訪れていた。

19日になって、今年2月に日本人人質2人を殺害したIS(「イスラム国」を称する多国籍テロ集団)関連のウェブサイトに犯行声明とみられる音声メッセージが公開された。ISもしくはISに同調する組織によるテロの可能性がきわめて高くなった。

「アラブの春」がもたらしたもの

アラビア半島から北アフリカに至るまでのイスラム圏では、イスラム原理主義の台頭と民主化を望む「ジャスミン革命」や「アラブの春」の運動などで政情が極めて不安定化し、ISの勢力拡張の温床となっている。チュニジアは、2010年末から11年初頭にかけて、独裁政権を民衆運動で倒し、他のイスラム諸国にまで波及した「ジャスミン革命」「アラブの春」の発祥地であった。ただ、リビア、エジプト、シリアなど、この「革命」が伝播した隣国が、その後、民主化どころか社会秩序が崩壊し、原理主義やテロがはびこる状況に陥ったのに対し、チュニジアは、政治改革が進み、独り、政情が安定していた。

エジプトの日刊紙『アルアハラーム』の元東京支社長、カマール・ガバラ氏が、1月にnippon.comの記事「『アラブの春』革命から4年、先行き不透明なのは何故か」でレポートしたように、リビア、エジプト、シリアなど、政情不安が起きたほかのイスラム諸国が、きわめて不安定な状況にある中、チュニジアは、秩序が保たれていた。いわば唯一の「アラブの春」の成功者であった。

チュニジアは暗いトンネルを抜けたところだった

ガバラ氏によると、

「中東情勢をフォローしている人々は口を揃えて、チュニジア情勢はエジプトに比べると非常に良く見えるという。チュニジアは、カダフィ政権転覆後のリビアや、アリー・アブドッラー・サーレハ元大統領の退任後のイエメン、領土の平和と一体性が脅かされ、内戦の結果、血の海に沈んでいるシリアがたどってきた恐ろしい運命を逃れた」。

「実際のところ、チュニジアは、エジプトと比べると可能な限り少ない損失でもって、新国家建設のために必要な全ての事項を達成し、革命から4年が経ったことを祝っている」。

「筆者がこの文章を執筆中に、ちょうどチュニジア首相が組閣を発表(1月23日)した。新閣僚は大臣24人と国務大臣15人から成り、うち女性は9人である。自由かつクリーンな大統領選挙で勝利したカーイド・セブシー党首率いる『チュニジアの呼びかけ党』は、議会選挙で過半数を占めており、新政府は同党の政策に従って政権を執ることを確認した」。

「中東情勢ウオッチャーは、エジプトが困難を極め、現在までその代価を支払い続けている一方で、チュニジアはなぜ暗いトンネルを通り抜けることに成功したのだろうと、自問している」。

「彼らの答えは明確である。チュニジアの主要な勢力間の紛争は平和的かつ民主的な政治活動を通じて行われ、暴力や人権無視はほとんどなかったからであると言う」。

テロリズムが敵視する者

では、なぜ、その安定したチュニジアで、このような事件が起きたのであろうか。先述の通り今回のテロ事件は、ISもしくはISの同調者の犯行の可能性が高い。ISは、イラク、シリアを基盤としながらも、各地の同調者を組み入れることによって、同時多発的にテロや戦闘を行い、支配地域の拡大を図っている。イスラム思想研究者の池内恵・東京大学准教授が解説するところの「グローバル・ジハード」である。ISは別名でISIL(イラクとレバントのイスラム国)と名乗っているように、メソポタミアと地中海沿岸という歴史的なイスラム圏を自らの領域とみなしている。北アフリカ地域は当然、その標的とみなされている。

また、池内准教授によると、ISにとって中東諸国の安定化は、自らの勢力拡大にとっての障害とみなしているという。1月に安倍晋三首相中東歴訪のタイミングで発生した、日本人人質殺害事件も、日本が、政情が不安定化している中東諸国の社会を安定化させる目的の人道援助を表明したことに、ISが反発したと考えるのが妥当だという。

イラクやシリアのように国家が崩壊し、社会が無秩序化した失敗国家に陥った場合、テロ対策としては、もはや経済援助では手の施しようがないが、まだ、国家の体裁を保っている国々は、秩序を立て直すことでテロ集団の温床に陥ることを防ぐことができる。つまり、平和的な人道援助こそが、ISにとっては敵対行為なのである。

ISが日本人人質殺害の時と同じ論理で行動したと考えれば、チュニジアが今回、狙われた理由も明確になる。チュニジアは民主化運動が成功し、なおかつ政情が安定化したがゆえにテロの標的となったのである。

(編集部・間宮 淳)

カバー写真=チュニスのテロ事件の現場(提供・AP/アフロ)

  • [2015.03.20]
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