安倍首相、消費増税再延期を表明
[2016.06.01] 他の言語で読む : ENGLISH | Русский |

安倍晋三首相は6月1日、通常国会閉幕後の記者会見で、現行8%の消費税率を10%に引き上げる時期を2019年10月に先送りすると表明した。消費増税は、元々15年10月に予定していたが、いったん17年4月に延期した経緯がある。当初の予定からは、4年間ずれ込むことになる。

安倍首相は記者会見で、世界経済は大きなリスクに直面しているとして、「内需を腰折れさせかねない消費税率の引き上げは延期すべきだと判断した」と述べた。

「再び延期することはない」から大きく変化

「再び延期することはない。はっきり断言する」(14年11月18日)、「リーマン・ショックのようなことが起こらない限り、予定通り実施することは累次申し上げている。その考え方に変わりはない」(15年9月24日)。安倍首相はこれまで、消費税を先送りするのではないかとの観測を明確に否定してきた。しかし、年明け後、首相は発言を修正し始めた。「世界経済の収縮ということが実際に起こっているかどうかについて、専門的な見地から分析し、判断していかなければならない」(1月19日)、「消費税率を上げて税収が上がらなくなるようでは、元も子もない」(3月14日)。

これらの発言の落差は大きい。政府は、消費増税で年金や医療費といった社会保障費を賄うつもりだった。しかし、安倍首相は、消費税の税収が増えても、その影響で個人消費が落ち込んで所得税や法人税が減っては、何のための増税だったか分からないという考えに次第に傾いていった。

安倍首相を支える経済ブレーンには、浜田宏一エール大学名誉教授、本田悦朗内閣官房参与(スイス大使)ら景気刺激で経済を活性化させようという「上げ潮派」が多い。一方で、首相は財政再建を至上命題とする財務省に対しては、距離を置いているとみられている。

こうした見方を決定的にしたのが、3月に世界の学者を招いて意見を聞いた国際金融経済分析会議だった。席上、ジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授とポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大学教授は、世界経済の弱さを理由に「来年の消費税引き上げは実施するべきではない」という趣旨の進言をした。この2人の学者はいずれも、ノーベル経済学賞の受賞者だ。経済学の最高権威から、消費増税の再延期にお墨付きをもらったようなものだ。

再延期の流れを決定付けた伊勢志摩サミット

安倍首相は5月26、27の両日に開かれた主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)も、増税再延期のお膳立てとして利用した。会議では、議長の安倍首相が世界経済の危機感を強調したのに対し、フランスのオランド大統領が「われわれは経済危機の中にはいない」と反論する一幕もあった。しかし、安倍首相はサミット閉幕後の記者会見で、「G7は強い危機感を共有した」と述べた上で、「アベノミクスのエンジンをもう一度、最大限ふかしていく決意だ」と、増税延期を含む財政出動に意欲を示した。

増税に執念を燃やす財務省幹部は、3月の時点で風向きが変わったことを認める。この流れを決定付けたのがサミットだったと言えよう。麻生太郎副総理兼財務相は「(消費税引き上げ時期を)延ばすならもう1回、選挙で、信を問わないと筋が通らない」と衆参同日選にまで言及して翻意を求めたが、5月30日に夕食をともにしながらの3時間にわたる会談を経て、「最終的に首相が決めたことに従う」と矛を収めざるを得なかった。

安倍首相の決断は、短期的に日本経済に好影響を与えるとみる向きが多い。各種の世論調査をみても、消費税率引き上げの再延期について、「賛成」が「反対」を大きく上回っている。安倍首相が自信を持つゆえんだ。

しかし、中長期的な視点からは、消費増税の凍結に異論が多い。小林喜光経済同友会代表幹事は「社会保障費用の削減など相当な痛みを伴う改革をしない限り、算数が合わない」と財政健全化の観点から、苦言を呈した。

経済成長と財政健全化への重い責任を負った安倍首相

日本では将来、少子・高齢化と人口減少が不可避だ。国立社会保障・人口問題研究所によると、10年に1億2806万人だった日本の人口は、30年に1億1662万人、60年には8672万人に減少する。特に生産年齢人口(15~64歳)は、10年の8173万人が60年に4418万人にまで落ち込む。総人口に占める比率は、63.8%から50.9%への縮小だ。

この推計は、合成特殊出生率が10年の1.39から24年に1.33に落ち、その後、1.35に収束することを前提にしている。15年の出生率は1.46と、ここ数年では高めだったため、同研究所の推計よりも、人口減少のスピードは落ちるかもしれない。しかし、多少、出生率が上がったとしても、人口を維持できる2.07には遠く及ばない。

アベノミクスの基本的な考え方は、経済成長を通じて国民生活を豊かにすると同時に、税収を増加させて財政を健全化することにある。成長を高めるには、労働力の投入量を増やし生産性を向上させる必要がある。ところが、肝心の労働人口が細っていく。女性の社会進出と高齢者の活用で、労働力の不足をどの程度カバーできるのか。生産性をどこまで向上させることができるのか。

消費税率の引き上げを再び見送ったことで、アベノミクスの課題が一層クローズアップされた。とりわけ、先進国で最悪の財政構造をどう運営していくのか、安倍首相は、こうした難問に取り組む重い責任を負う立場に、自らを追い込んだようにみえる。

文=nippon.com編集部
バナー写真=消費税率10%への引き上げ再延期を表明する安倍晋三首相(時事)

  • [2016.06.01]
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