求められる日本社会のグローバル化
若者の「内向き志向」のせいにするな

安井 孝之【Profile】

[2012.06.21] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

世界の市場で戦えるグローバル人材の確保は日本の産業界にとって大きな経営課題である。そして多くの経営者はこう嘆く。〈日本の若者は「内向き志向」で草食系、海外に打って出る、という意欲がなくなった。グローバル人材の確保が急務なのに、このままでは日本は危うい。もっと留学生を増やさねば〉。だがそうだろうか。今の若者は今の経営者層よりもずっとグローバルな視点や経験を持ち、決して「内向き」ではない。そうさせているのは日本企業のグローバル経営の遅れである。

実は増加している留学生の比率

OECDなどの統計によると、日本から海外に留学する学生数は2004年の8万2945人がピークで、その後は減り続け、09年は5万9923人に減った。留学者数は中国が50万人超、韓国が10万人超と日本を上回る。この数字だけをみると、日本の若者が他の国の若者に比べ「内向き」だと言える。

 

主な留学先・留学者数(2009年)

  国・地域 留学生数(前年数) 対前年比
1 アメリカ合衆国 24,842 (29,264) △4,422人  △15.1% 
2 中国 15,409 (16,733) △1,324人  △7.9% 
3 イギリス 3,781 (4,465) △594人  △13.3% 
4 オーストラリア 2,701 (2,974) △273人  △9.2% 
5 台湾 2,142 (2,182) △40人  △1.8% 
6 ドイツ 2,140 (2,234) △94人  △4.2% 
7 カナダ 2,005 (2,169) △164人 △7.6% 
8 フランス 1,847 (1,908) △61人  △3.2% 
9 ニュージーランド 1,025 (1,051) △26人  △2.5% 
10 韓国 989 (1,062) △73人  △6.9% 
  その他 2,952 (2,791) 161人  5.8% 
  合計 59,923 (66,833) △6910人  △10.3% 
    出典及び留学生の定義:

  • OECD 「Education at a Glance」
    高等教育機関に在籍する「受入国に永住・定住していない」または「受入国の国籍を有しない」学生で、正規課程に属する者。
  • ユネスコ統計局
    高等教育機関に在籍する、「受入国に永住・定住していない」または「受入国の国籍を有しない」学生。
  • IIE 「Open Doors」
    アメリカ合衆国の高等教育機関に在籍する、アメリカ市民(永住権を有する者を含む)以外の者
  • 中国大使館教育部
    学生ビザ(Xビザ《留学期間が180日以上》)または訪問ビザ(滞在180日未満)等で中国の大学に在学している者。
  • 台湾教育部
    台湾の高等教育機関に在籍している者(短期留学生を含む)。

しかし、若者の人口が日本は減っている。仮に18歳人口の数で留学者数を割ってみると、85年は1.0%、95年は3.4%、00は5.1%、04年は5.9%、09年は5.0%という推移をたどる。80年代に比べて若者が留学する比率はほぼ5倍に増えている。実数も2倍以上だ。現在、グローバル人材不足を嘆いている60歳前後の経営者が若かったころに比べると、その割合の差はもっと広がるだろう。

今の若者は他のアジア諸国に比べれば内向き志向かもしれないが、過去の日本人と比べれば、決して内向き志向だとは言い切れない。

1ドル=80円を突破する円高は定着し、日本人の留学を後押しそうだが、足元ではそのような動きはない。なぜだろうか。

若者の行動は実は日本企業、もっと大袈裟に言えば日本社会の現状を見通せば、合理的だ、と私はみる。滞在費も含めて年間400万円を使って海外に留学したとして、どんなリターンがあるのか。経団連など経済界が採用制度の多様化を進めようとしているが、まだしばらくは4月入社を前提とした一括採用が普通だ。厳しい就職状況のもとで、日本企業への就職を考えれば、留学生は国内の大学生に比べて不利となる。

米国のビジネススクールに留学するなら2年間で1000万円ほどかかる。その投資を回収できるのかどうか。海外のグローバル企業に勤めるならば、MBAをとれば、年俸はぐっと上がるが、帰国し日本企業に入社するなら、そうはいかない。日本企業への就職を前提に考えるなら、日本の若者にとっては留学しない方が経済合理性のある判断といえるのだ。

グローバル化を試されているのは日本の企業

「若者は合理的な判断をするのではなく、リスクに挑戦すべきだ」などと年寄りが精神論を振りかざしても事態は改善しない。対策は二つしかない。

日本企業のマネジメントがまずグローバルすることだ。速やかに大卒の一括採用をやめ、国内大学卒も海外大学卒も差をなくす。もちろん日本人も外国人も採用では同等に扱う。私費でMBAなどを取り、入社を希望する人材には高額の給料を払えるようにする。まず海外で学んだ人材(日本人も外国人も)をもっと採用する意思を日本の企業社会が表明しないと、若者は海外に行くわけはない。

もう一つの選択肢は日本の大学のグローバル化だ。日本で学んでも海外の大学で学ぶのと同等の語学力、専門知識を学べる態勢を築くことだ。また海外からの優秀な留学生が日本で学びやすいようにする制度の充実も必要だろう。秋田の国際教養大学のように日本で日本人学生と留学生とが切磋琢磨できる場をもっとつくることだ。

留学できるほどお金に余裕のある若者だけがグローバル人材への道を進めるのではなく、国内でもその選択肢を用意すれば、グローバル人材の質も量も充実する。

若者の「内向き」志向を嘆いても始まらない。日本企業や大学、日本社会の「内向き」志向こそを変える意思が今、試されている。

  • [2012.06.21]
この記事につけられたタグ:

Gemba Lab代表。ジャーナリスト。1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒、東京工業大学総合理工学研究科修了。日経ビジネス記者を経て88年、朝日新聞社に入社。東京経済部、大阪経済部で自動車、流通、金融、財界など産業界、経産省や財務省などを担当。05年に編集委員。企業の経営問題や産業政策を担当し、経済面コラム「波聞風問」などを執筆。2017年4月、朝日新聞社を定年退職し、Gemba Lab株式会社設立、フリージャーナリストとして活動。日本記者クラブ企画委員。著書に「これからの優良企業」(PHP研究所)など。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告