麻薬組織に狙われる日本とアジア

社会

ASKA事件が注目の中

国連薬物犯罪事務所(UNODC)は5月20日、「合成薬物グローバル・アセスメント2014」と題する報告書を東京都千代田区内で発表した。報告書は、東アジアや東南アジアでの需要増加により、メタンフェタミン(覚せい剤)や新精神活性物質(NPS)を含む合成麻薬の世界的な生産・取引の拡大が進んでいると指摘。中でも末端での取引価格が極めて高い日本は、アジアやメキシコ、アフリカなどの麻薬組織によって狙われている、と警告している。

日本国内ではこの直前の17日、人気音楽デュオ「CHAGE and ASKA」のASKA容疑者(56)が覚せい剤所持容疑で逮捕され、芸能人や音楽関係者が覚せい剤や大麻に手を染めた薬物事件が後を絶たない状況が改めてクローズアップされている。

合成薬物は今や世界的な脅威となっている。こうした中で、日本政府がこれらの薬物対策に積極的に取り組んでいることから、UNODCは今回の2014年版報告書を東京から世界に発信した。その中で薬物をめぐる世界情勢および日本の状況を報告した。

世界的な覚せい剤取引の拡大

報告書によると、メタンフェタミンの供給は、世界最大のアンフェタミン系覚せい剤(ATS)の市場であるアジア地域で引き続き急速に拡大している。メタンフェタミンの押収量は過去5年間で3倍の36メトリックトン(MT、1MT=1000㎏)に達した。最新の数値では、中国での押収量が急増し、アジア全体の押収量の45%近くを占める。またタイでは、錠剤・結晶状でのメタフェタミンが過去5年間で大きく増えるなど、世界的に覚せい剤取引が拡大している。

報告書はさらに「アジア市場におけるメタンフェタミン需要と新精神活性物質への新たな需要の増加は、中国やミャンマー、フィリピンの大きな生産拠点によって満たされている」と指摘。組織的犯罪グループによって、より多くのメタンフェタミンがメキシコ、中東、南・西アジア、西アフリカから、麻薬取引で大きな利益が見込める日本や他の東アジア、東南アジア、オセアニアの国々へ密輸されている、と分析している。

日本での取引価格は麻薬生産国の10倍に

記者発表の席上、UNODCの東南アジア・太平洋地域事務所のジェレミー・ダグラス氏は「合成麻薬、特にメタンフェタミンや新精神活性物質が当該地域内各国の警察、司法、刑務所、医療システムに与える影響ははかり知れない」と警鐘を鳴らした。

また、日本の現状を説明した警察庁国際麻薬・銃器犯罪組織捜査指揮官の竹迫宜哉氏は「日本への麻薬密輸入が増えている背景には、日本国内での麻薬取引価格が麻薬生産国でのそれに比べ10倍にも達していることなどが挙げられる」と指摘。国内の麻薬取引のブラックマーケット撲滅に向け徹底的に取り締まる考えを示した。

カバー写真・警視庁東京湾岸署から送検されるASKA容疑者(5月18日、写真提供:時事)