デング熱、東京で感染拡大—蚊が媒介

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熱帯、亜熱帯で発生する感染症、デング熱の日本国内での感染患者が69年ぶりに首都東京で発生。感染者は80人を超え、社会に大きな波紋が広がっている。患者が確認されるまでの経緯や感染の状況、蚊が媒介する他の感染症について、主に日本に関連するものをまとめた。

代々木公園、ウイルス検出で「閉鎖」、拡大予防で新宿御苑も

デング熱は、デングウイルスを持つ蚊に刺されてうつる感染症。高熱や頭痛、関節痛などの症状が出て、重症化する患者もまれに出る。ワクチンや治療薬はなく、治療は対症療法が中心となる。東南アジアや中南米で流行しており、日本国内で発症するケースは「毎年200件前後ある」(国立感染症研究所)が、これまではいずれも海外の流行地で感染したもので、国内感染は確認されていなかった。

東京・代々木公園で8月上旬から中旬にダンスの練習をしていた男女が感染していたことを同研究所が8月26日に確認。これらの患者に海外への渡航歴はなかった。その後感染者は次々と増え、厚生労働省によると、9月9日現在で88人が確認された。デング熱はヒトからヒトには感染しないことから、今回は代々木公園周辺にいたヒトスジシマカ(ヤブ蚊)が海外で感染した患者の血を吸ってデングウイルスを持ち、それらが媒介となって感染が拡大したとみられている。

東京都は9月4日、公園内で採取した蚊からデングウイルスが検出されたと発表。蚊の本格的な駆除に乗り出すとともに、公園の北側エリア(約4.5ヘクタール)を閉鎖した。公園に隣接する明治神宮は5日、境内の一部の道路を通行禁止にしたほか、新宿御苑が7日からしばらくの間閉園するなど影響が広がっている。

日本でのヒトスジシマカの活動期は、10月中旬ごろまで。卵で越冬し、次世代までウイルスが受け継がれることはないという。

イベントの来場者に虫よけスプレーをするスタッフ=9月6日、東京都渋谷区の代々木公園(時事)

ヒトスジシマカの分布域、温暖化で北上中

デング熱の患者数が多いのは、アジアではフィリピンやベトナム、ラオス、マレーシアなど。フィリピンでは2013年の報告患者数が16万人を超えており、500人以上の死者が出ている。海外から帰国して発症した日本人感染者を見ると、インドネシア(バリ島)への渡航者が多い。

デング熱を媒介するのは、主にネッタイシマカとヒトスジシマカの2種類。ネッタイシマカはかつて熊本県天草地域や琉球列島で生息が確認されているが、1970年代以降は採集されず、現時点では日本に分布していないとされる。ヒトスジシマカは沖縄から東北地方まで分布。環境省によると、温暖化の影響か、東北地方の分布域は近年、秋田、岩手両県まで北上している。

日本では以前、第2次世界大戦中の1942年から1945年にかけ、神戸や大阪、広島、長崎などで患者20万人規模のデング熱流行が発生している。

日本脳炎―感染蚊は広く分布、ワクチンで流行阻止

日本脳炎は、日本脳炎ウイルスによって起こる感染症。重篤な急性脳炎や髄膜炎、脊髄炎を引き起こす。日本脳炎ウイルスは国内に存在し、水田で発生するコガタアカイエカが媒介する。ヒトからヒトへの感染はなく、豚などの体内でいったんふえて血液中に出てきたウイルスを蚊が吸血時に取り込み、その蚊にヒトが刺されると感染する。感染蚊は北海道を除く全国にいる。

日本ではワクチン接種により流行は阻止されているが、年間10人弱の患者が発生。死者も出ている。世界的には年間3~4万人の日本脳炎患者の報告がある。欧米からの旅行者は日本や東南アジアに長期滞在する場合、日本脳炎ワクチンの接種が推奨されている。

チクングニア熱―デング熱に似た症状、ワクチン・治療薬なし

チクングニア熱は、ネッタイシマカやヒトスジシマカにより媒介されるウイルス性の感染症。サハラ以南のアフリカ、インド、東南アジアなどで発生している。デング熱に似た、急性の発熱と関節痛が主な症状。今のところ、ワクチンや治療薬はない。日本国内での感染、流行はないが、日本人が海外で感染し、日本国内で発生した症例も近年は出ている。

マラリア―国内感染の可能性は低い

マラリアは、ハマダラカが媒介し、マラリア原虫によって起きる感染症。熱帯から亜熱帯にかけて広く発生、流行する。

過去には日本でも発生していたが、現在の日本のマラリア患者(年間100~150人)はすべて国外で感染したケースで、国内での2次感染も起きていない。公衆衛生の発達や国内にいるハマダラカの分布・発生状況、住宅構造の変化などから、感染症対策の専門家は「現在の日本で再流行する可能性は相当低い」とみている。

 

タイトル写真:採集した蚊からデング熱ウイルスが検出されたことを受け、代々木公園閉鎖の張り紙をする公園関係者=2014年9月4日、東京都渋谷区(時事)