【Photos】みさおとふくまるの日々好日

暮らし

大正生まれのみさおさんのチャーミングな表情と、愛猫ふくまるのユーモラスな仕草。田園の中で寄り添って暮らす“ふたり”の日常。こんな光景に出会ったら、思わず笑みを浮かべてしまうだろう。


いつも“ふたり”

毎日畑へ出かけるおばあちゃんと、愛猫・ふくまるのほのぼのとした日常を捉えた写真集『みさおとふくまる』が、今、ベストセラーとなっている。撮影したのは、写真家の伊原美代子さん(30)。みさおさんと一つ屋根の下で共に暮らす、実のお孫さんだ。きっかけは「祖母の生きた証を残したい」という想いから。撮影を始めて3年目の2003年、伊原家の納屋で野良猫が生み残した雄の白猫・ふくまるが家族に加わった。それから、どこへ行くにも姿を寄せ合う“ふたり”の姿を写真に収めることが伊原さんのライフワークとなった。

「ふたりとも耳が遠いせいもありますが、祖母とふくまるはいつも見つめ合い、お互いを近くで感じ合っています」と伊原さんは愉しそうに語る。「当たり前のような顔をして常に祖母のそばにいるふくまるを見ていると、まるで幼かったころの自分自身を撮っているような気持ちになります」

みさおさんが畑仕事をする農村風景は片田舎のように見えるが、実は千葉の房総での撮影。現在、みさおさんは87歳、ふくまるは8歳だ。

青空の下で働き、土と共に生きる、昔ながらの農家の暮らし。季節ごとに表情を変える風景の中、みさおさんは畑に種をまき、花や野菜を育て、自然の恩恵を分かち合う。みさおさんとふくまるの微笑ましい日常の風景は、都会では失われてしまったのどかな雰囲気に充ちていて、ふたりの間からは言葉を超えた親密さがひしひしと伝わってくる。

「祖母の生き方を見ていると、私たちの世代には真似できないたくましさを感じます。夜明けと共に起き、日暮れと共に眠りにつく。野菜も猫もまるで自分の子どものように愛し、野菜の出来が良いことが自分の幸せと直結している。決して『自分は何のために働くのか』なんて考えない。そんな姿に、強い魅力と羨望を感じています」

かけがえのない風景を求めて

長い間ふたりを撮り続けるうちに、かけがえのない日常の大切さを改めて実感するようになったという伊原さん。一秒ごとに過去になっていく目の前の風景。同じように見えて、二度と繰り返されることのない、今日という一日。特に2011年3月11日に起きた東日本大震災の後、その想いはよりいっそう強まったという。「残さなければ」という焦りにも似た衝動が、撮影回数を急激に増やしたという。

美しい日本の田園風景の中で、寄り添いながら暮らすおばあちゃんと猫。当たり前のような生活が、これから100年後もずっと続くのだろうか? 自分の孫や、そのまた孫の世代を生きる人たちにもこの風景を伝えたいと、伊原さんは祈るような気持ちで今日もシャッターを切る。

みさおさんとふくまるのプロフィール

・伊原みさおさん
87歳。千葉県在住。伊原家に嫁いで64年。農業一筋に生きてきた。陽の当たる場所が好き。

・伊原ふくまる
8歳の雄の白猫。体重5.6kgで冬場は太めの6kgになる。伊原家の納屋で、野良猫の母親から生まれたところを保護される。生まれつき耳が不自由で、左右の色が違うオッド・アイという瞳をもつ。名前の由来は、「福の神様がきて、すべてが丸く収まるように」というみさおさんの願いからつけられた。




















撮影=伊原 美代子
文=小宮山 さくら(フリーランスライター) 
協力=株式会社リトル・モア

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