特集 民主主義は財政危機を乗り越えられるか
先進民主主義国家の財政危機と日本の課題

加藤 出【Profile】

[2012.01.05] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

日米欧の先進民主主義諸国の財政は、赤字拡大により、危機に瀕している。先進諸国の中でも最も政治が機能していないように見える日本が、財政再建に向けて取るべき方策をエコノミストの加藤出氏が提言する。

民主主義は経済を成長させるか?という問題の答えは、実は意外に複雑である。

セントルイス連邦準備銀行のエコノミスト、Hernandez-Murilloらは、「民主主義が先か、成長が先か」というコラムの中で、民主主義と経済成長の関係に関する3つの研究を紹介している。(※1)

Barroが1960年から1990年にかけて100カ国を調べたところ、国民の政治的権利が拡大した国の方が経済成長率は高いという傾向が見られた。しかし、既に中程度の民主主義が達成されていた国における民衆のさらなる政治的権利の獲得は、所得再配分政策(いわゆる“ばらまき政策”)を招き、成長を鈍化させるケースも見られる。

Acemougluらの研究では、政府による国民からの富の収奪の抑制と経済成長との間に強い関連性が見られるという。かつての植民地政策の場合、本国への資源移転が主目的だったスペインの植民地の成長は限定的だった。一方で、私有財産の保護や政府による収奪の抑制が確立されたオーストラリア、ニュージランド、カナダ、米国では経済活動が活発化し、結果的に独立に至るほどの成長が実現された。

Glaeserらの研究では、1960年に独裁体制で貧困率が高かった国の、その後の40年間の成長を調べると、政治体制だけでそれを評価することは難しいという。中国のように一党独裁を維持しながら世界有数の高成長を示してきた国があるからだ。ただし、中国の場合、民主的先進国のように、事実上の財産権の保護や、投資、教育を促進する政策が多々打たれてきた。

確かに、中国はもはや、社会主義経済と呼べる状態ではなくなっている。米国並みの弱肉強食の競争社会である。先日、中国の金融機関のスタッフにそれについて質問したとき、彼女は何を今さら、という表情で笑いながら、「中国は共産党がコントロールする資本主義経済なのです。私は、日本に留学していたとき、日本の人たちから社会主義の精神を学びました」と語っていた。

欧州復興開発銀行が最近発表した調査によると、ベルリンの壁崩壊以降にEUに加盟した東欧、中欧の国々において、民主主義に対する支持率が急速に低下しているという。ユーロ圏の混乱に伴う景気後退で、「独裁時代の方が良かった」と思う人が増え始めている。民主主義にとっては危険な兆候である。

財政危機に陥る欧米日

ユーロ圏の国債危機は欧州経済だけでなく、世界経済も激しく揺さぶっている。ユーロ圏のリーダー達のユーロを支える意志はまだ折れていないようだが、金融市場の不安を鎮めるための有効な対策は提示できていない。民主主義の政治システムの中で、彼らの多くはこれから国内で重要な選挙に直面するため、有権者の感情論とのバランスを取っていかなければならない難しさがある。

とはいえ、財政状態は実は欧州よりも米国の方がひどい。IMFが2011年9月時点で予想した2016年の政府債務残高対GDP比(グロス)によると、ユーロ圏の4大国は、ドイツ75.0%、フランス87.8%、イタリア114.1%、スペイン77.4%である。一方、米国は115.4%だ。(※2) ベビーブーマー世代のリタイヤを含む高齢化の進展は、社会保障費の増大として先行きの米財政を圧迫していく。米国では、富裕層に対する実質の所得課税がこれまで不公平なほどに優遇されてきたため、税制の歪みを正すことは急務のはずなのだが、2011年夏に見られたように、米議会で財政赤字削減に向けた合意を形成することは容易ではない。また、共和党やティーパーティーの議員の支持者らは、2008年秋以降の米政府と米連邦準備制度理事会(FRB)の金融危機対策を激しく批判してきた。公的資金を大規模に使って、ウォール街の富裕層を救済し、政府を大きくしてきたことは言語道断と彼らは考えている。彼らの糾弾があまりに激しいため、2008年秋のようなショックがもし再来したとき、米政府やFRBが機敏な対応をとることは難しくなっている。

その点、中国は一党独裁の強みを見せている。通常、民主国家の財政政策は議会の議決を経なければならないため、実行までに時間がかかる。それゆえ、緊急避難的な危機対応は、中央銀行の金融政策で最初にカバーすることが多くなる。しかし、中国の場合、財政政策は金融政策とほぼ同じスピードで導入できる。リーマン・ショック後も中国が高成長を続けてきたことは、マクロ政策が機敏に導入されてきたことの成果でもある。ただし、そういった政策によって1人あたり所得が増加し、豊かな暮らしが広がるにつれ、民衆は民主的な政権や、言論の自由を欲するようになるという矛盾を中国共産党は抱えている。

世界の金融市場関係者に、政治が機能していないように見える民主主義国家を選ばせたら、日本は上位に入ってくるだろう。2011年3月の大震災を経て、日本の財政状態は一段と悪化しているが、多くの政治家は次の選挙を意識して、緊縮財政や増税を避けたがっている。前述のIMFによる予想では、2016年の日本の政府債務残高の対GDP比は253.4%である。ギリシャの162.8%よりもはるかに大きい。日本は家計部門の貯蓄が大きく、今はその貯蓄が国内銀行を経由して日本国債を買い支えることができている。しかも、経常収支は巨額の黒字だ。日本はギリシャとは議論の前提が全く異なるのだが、だからといって、政府がポピュリズムに傾き、財政再建に目をつむるようになったら極めて危険と思われる。

日本の足かせ―競争力低下と労働人口減少

歴史をひもとくと、かつて英国の政府債務残高は、米独立戦争、対仏戦争を経て1819年に対GDP比337%に達したことがある。しかし、その後は減少傾向となり、1914年に29%弱にまで改善した。(※3) そう考えると、日本はまだ政府債務を増大させる余地があるのではないか?と感じてしまうが、当時の英国のケースとは決定的な相違点がある。英国がその1世紀の間に、政府債務を経済規模に対して大幅に縮小させることができた背景には、第1に産業革命、第2に人口増加による経済の拡大が存在している。

第1のポイントである産業革命のような劇的な経済成長が日本でこれから起きる可能性は低い。逆に今我々が直面している厳しい現実は、アジアの新興メーカーの急速な追い上げによる日本企業の競争力低下である。日本製品の従来の「売り」だった品質の良さは、今やアジアのライバルに対する優位性を失ってきている。米『タイム』誌2011年10月30日号のコラムはその問題点を鋭く指摘していた。「日本の最大の問題のひとつは、90年代までの経済システムは失敗していることを認めようとしないことにある。アジア諸国が日本の主要産業を脅かしており、日本の経済モデルはグローバル経済の変化について行けなくなった。しかし、東京の政治家はいまだにそのモデルにしがみつこうとしている」。(※4)

第2のポイントである人口動態は、日本の場合、19世紀の英国とは逆で、減少が予想されている。経済成長に関係が深い労働年齢人口(15~64歳)の国連中位推計を見ると、ピーク時の1995年に比べ、2010年は6.5%減少、2050年は36%減少である。米国は日本とは異なって、労働年齢人口は先行きも増加していく。1995年に比べると、2010年は19%増加、2050年は38.6%増加である。前述のように米国でも高齢化による財政赤字の拡大が心配されているが、日本の方が状況は深刻だ。

労働年齢人口に対する高齢者(65歳以上)の比率は、リタイヤした人々を現役世代が支える負担の大きさを意味する。国連によると、日本は1970年には10%だったものが、2010年は35%へと上昇、2050年は70%になる(他国の2050年の高齢者比率予想は、米国35%、欧州47%、中国32%)。

もし、現在の日本経済の苦境が、一時的なつまずきから生じたものであり、財政支出の拡大で経済に刺激を与えると以前のような好循環の経済に戻ることができるなら、その際の財政赤字は将来の税収増加によって賄われるだろう。しかし、前述のような人口動態や日本企業の優位性低下という現実の中で、非効率な財政拡大で国内の需要不足を補っていくと、膨張した国の借金を将来、誰が返済するのか?という問題が深刻化してくる。

空前の規模の「流動性の罠」

日銀の金融政策だけで経済成長を加速させることは困難である。日銀はプレゼンテーションが下手なために、FRBなどに比べ金融緩和策に消極的のように見られがちだが、実はかなり大胆なことをやっている。デフレ対策の一環として、日銀は市場から国債を含む様々な資産を大量購入しており、日銀のバランスシートはGDP比で世界最大の状態が続いている。2011年12月初旬現在では、日銀が約31%、FRBは約19%だ。

日銀の資産の内訳を見ても、FRBより日銀がはるかに保守的とは言えない状況にある。FRBは国債や住宅関連の証券を大量に購入し、それらの合計残高はGDP比17%となっている。一方、日銀が購入した国債(2011年12月10日現在で保有額92.5兆円)の期間はFRBより短いものの、FRBが買っていないリスク性資産(株、株価指数投信、不動産投信など)も買っている。国債とそれらの合計保有残高はGDP比21%である。

また、日銀券(日本のお札)の発行残高はGDP比17%に達している。1980年代から90年代前半までは6~7%台だったのだが、その後、異様な膨張を続けている。FRB発行のドル紙幣は現在GDP比7%だ。ドル紙幣は基軸通貨ゆえに世界中で所有されており、米国内で流通しているドル紙幣は全体の半分以下といわれている。それと比較すると日銀券発行残高の異常さが際立ってくる。

人口で割ると、日本人はひとり63万円の日銀券を持っている計算になる。90年代前半のようなGDP比で7%程度の日銀券発行残高を標準とするならば、約45兆円の余分なお札が市中に存在することになる(その大半はいわゆる「たんす預金」)。それとは別に、金融機関は日銀の口座に20兆円以上の余分なお金(超過準備)を預けている。しかし、それらの大量の資金は、経済活動を刺激することなく、使われずに退蔵されている。日銀は市中に巨額の資金を注ぎ込んでいるのに、そのお金が流れないという、空前の規模の「流動性の罠」が日本で生じている。

為替レートを大幅に円安に誘導できればデフレと「流動性の罠」から脱却することができるかもしれない。しかし、日本の当局が外為市場介入であからさまな円安誘導を行うことは国際政治上許されないだろう。もし日本がそれを行ったら、米議会は貿易上の報復措置を日本に対して発動するリスクがある。近年の円高の理由は、単に海外投機筋の円買いによるものではなく、日本の機関投資家(銀行、投資信託、年金基金など)や個人投資家が、海外のリスクを恐れて運用資金を海外から国内に大規模に回帰させた点にある。そういった「リスク・オフ」の動きが転換しない中で、円安誘導を短期に実現するには、日本人が資産を国内に置いておくことに恐怖を感じるくらいに、日銀と政府が無茶な政策を行う必要がある。

政府が非効率な財政支出をさらに大幅に増加させて、増大する国債を日銀に購入させていけば、いずれ多くの日本国民は「政府はインフレで政府債務の実質価値を落とそうとしている」と感じるだろう。そうなると、日本の銀行に預けられていた円預金は、解約され、海外へ逃避し、円安が生じる。しかし、同時に日本の銀行は預金減少により日本国債を買い支えられなくなり、国債の利回りは急上昇する。そういった流れは、海外の投機筋にとって、日本国債先物に大規模な売りを仕掛ける絶好のチャンスとなる。その際、日本の多くの銀行が保有している日本国債には大きな評価損が発生し、金融システム危機のリスクが高まるだろう。日本の政府債務が今ほど巨額ではなく、かつ、そういった政策を適度なところで止められる規律を日本の政治が持っているならば、経済を刺激する手段としてそういったギャンブルも(危険ではあるが)ひとつの選択肢に入ってくる。しかし、日本の民主主義が機能せず、政治に規律が働かなかったからこそ財政赤字は今日ここまで膨張してきたと見なすこともできる。

財政再建には地道な正攻法を

日本の財政破綻を回避するには、「一発逆転」狙いの奇策ではなく、地道な正攻法で将来の成長期待を押し上げていくべきである。前述のように、80年代までと異なって、多くの日本の輸出企業は優位性を失っており、収益が大幅に悪化している。彼らの儲けが増加して、社員への賃金、ボーナスが増えなければ、消費は上向かず、デフレも解消されない。

第1に、海外の消費者を魅了する独創的な商品を開発できる才能を育成する必要がある。アジアの企業に以前よりも差を詰められてきたとはいえ、日本企業には彼らがすぐには追いつけない技術がまだまだ多くある。過度に悲観する必要はないのだが、技術を収益につなげるアイディアが今の日本には不足している。2011年10月に米アップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が亡くなった際、中国の新聞、テレビ、雑誌は、「ジョブズのような創造性をどうやって育てるか?」という議論を盛んに報じていた。それは日本にとっても重要なテーマである。

第2に、優秀な才能を持った人材を、移民などの形で日本に招いてくる必要がある。移民に保守的に見えるドイツでさえ、連邦議会の移民制度に関する委員会は、「19世紀に大国が領土と天然資源をめぐって競い合っていたように、現代の大国はブレインパワー、つまり、国際経済のエンジンとなる科学者や技術者、起業家、有能な経営者を求めて競い合っている」との提言を行っていた。(※5)

オバマ米大統領は、2011年5月10日の演説で、移民規制の強化を避けるために次のように語っていた。「グーグル、インテル、ヤフー、イーベイは、皆、移民が起業した。次のグーグル、インテルが、中国、インドにできないように望む」。(※6)

ソニーが開発したウォークマンは世界中で音楽を聴く生活に革命を起こした。ウォークマンが世に出てきた1970年代後半の日本のメディアン年齢(0歳児から最高年齢者を並べて、真ん中に位置する年齢)は約31歳だった。現在は約45歳である。これだけ中高年が多い社会になると、経験が必要な高齢者向け商品の開発では優位性があっても、柔軟な発想が必要なIT業界などでは魅力的な商品を生み出し難くなる。

野田政権は財政再建に向けたアピールを

米国で話題を呼んだドキュメンタリー映画を書籍化した『借金大国アメリカの真実』には、米国の財政保守派の基本的な考え方が載っている。ピーター・G・ピーターソン(元商務長官):「自分たちは無償でおいしい思いをして、請求書を子どもたちにこっそり手渡そうとする、そういう考えは、わたしに言わせると、不道徳極まりないのです」。アリス・リブリン(元行政予算局長、元FRB副議長):「(政府が)赤字を出していけないほんとうの理由は、自分の子どもや孫、あるいはそれが誰であれ未来の納税者に、わたしたちが今やりたいことの請求書を回すのが公正ではないからです」。今の日本にとっては示唆に富む発言である。(※7)

海外の市場参加者と議論していると、時々、「そんなに国の借金が大きかったら、日本の若者は海外に逃げ出すのではないか?」という指摘を受ける。確かに世代間比較では、今の日本の若者は大きな経済的不利益を被る確率が高いのだが、幸いと言ってよいのか、彼らの多くは「内向き」であり、あまり海外に行きたがらない。彼らが前の世代の借金や年金のために従順に国庫にお金を払い続けてくれる間は、日本国債は暴落をなんとか避けられるかもしれない。しかし、彼らですら日本脱出を図りたくなるほどの野放図な財政運営が行われたら、事態は目も当てられない恐怖のスパイラルに入っていく。

筆者はケインズ型の財政政策を否定するつもりはなく、将来の生産性向上につながり得るプロジェクトがあれば、それに財政支出を振り向けることは有効だと考えている。セイフティーネットとしての社会保障の拡充も適宜必要である。しかし、将来世代への負担を熟慮せずに、政治家が目先の選挙のためにポピュリズムに傾斜したら危険である。幸い現在の野田政権は消費税の増税の必要性を主張しているが、中長期的な財政再建の方向性のイメージを国内外にアピールし続けて行くことは極めて重要と思われる。

(※1)^ Rubén Hernández-Murillo and Christopher J. Martinek, “Which Came First–Democracy or Growth?” The Regional Economist, April 2008, pp.4-6.

(※2)^ International Monetary Fund, Fiscal monitor—Addressing Fiscal Challenges to Reduce Economic Risks, September 2011, p. 70.

(※3)^ 真壁昭夫、玉木伸介、平山賢一『国債と金利をめぐる300年史 英国・米国・日本の国債管理政策』(東洋経済新報社、2005年)

(※4)^ Michael Schuman, “The Japan Syndrome,” Time, October 30, 2011.

(※5)^ Tamar Jacoby, “Germany’s Immigration Dilemma ― How Can Germany Attract the Workers It Needs?” Foreign Affairs, March/April 2011, タマール・ジャコビー「いかに先進国は知識労働者を移民として魅了できるか――ドイツのジレンマ」『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2011年4月号

(※6)^ 2011年5月10日にテキサス州エル・パソで行われた、オバマ大統領の移民政策に関する演説

(※7)^ Addison Wiggin and Kate Incontrera, I.O.U.S.A: One Nation. Under Stress. In Debt, (Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, 2008), アディソン・ウィギン、ケート・インコントレラ(楡井浩一訳)『借金大国アメリカの真実』(東洋経済新報社、2009年)

タイトル写真(右側)=2011年10月にパリで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議(財務省ウェブサイトから)

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  • [2012.01.05]

東短リサーチ取締役チーフエコノミスト。1965年生まれ。1988年、横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業後、東京短資株式会社入社。短期金融市場のブローカーを務める。1998年からは同社のエコノミストを兼務し、2002年から現職。同年、大和総研アメリカ、ライトソンICAP(FRBの動向をウォッチするシンクタンク)にて客員研究員。マネーマーケットの現場の視点から各国の金融政策を分析している。著書に『日銀は死んだのか?』(日本経済新聞社/2001年)、『新東京マネーマーケット』(共著/有斐閣/2002年)、『バーナンキのFRB』(共著/ダイヤモンド社/2006年)。

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